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仲間が御乱心

 インベントはモンスターを狩りたい。だから対人戦に興味は無く、興が乗らず本来の実力を発揮できない。

 例外として門を開いた人間は人型モンスターとして扱い、容赦なく狩ることができる。


 だがルベリオは人型モンスターとしては不完全な存在だった。

 【停止イサ】を使用しない時は、人型モンスターモドキとでも言える状態。インベントのやる気はブレブレだった。

 ルベリオが【停止イサ】を出し惜しみしなくなった段階から、やっとモンスター狩りが始まった。


 モンスター狩りとなれば当然高揚する。このルベリオというモンスターはかなり手強い。

 だが特別高揚する相手では無い。なぜならば人型モンスターだからである。


 『モンスターブレイカー』の世界には人型モンスターは存在しない。インベントの中で創り上げられた曖昧な存在であるため、多少の違和感が残っているのも事実。だが――


「フフ、ヒヒッ」


 インベントはこれまでに無いほどの興奮し、瞬きを忘れるほど集中していた。

 それは相手がルベリオだから――では無い。


 インベントは『モンスターブレイカー』の夢に魅せらた男である。

 夢の世界を現実にするため、森林警備隊に入隊し、モンスターを狩ってきた。

 現実を『理想(モンブレ)』にどうにか近づけようとしてきた。その試みはある程度成功したといってよいだろう。


 しかしどれだけ追い求めようとも理想と現実には隔たりがある。

 火山や氷河は無くどこまでも広がる森林地帯、特殊能力を持つモンスターは稀有な存在、どうやっても剣から火花は飛び散らない。理想と現実のギャップは埋まらなくなっていった。


 そしてもう一つ。仲間の存在である。


 『モンスターブレイカー』の世界では単独でモンスターに挑む人もいるが、三から四人で挑むことが多い。皆が長所を活かし連携し、時に大型モンスターを倒し、時に玉砕していく。


 インベントが最も仲間と連携して戦った記憶は、ノルド隊の時まで遡る。

 ノルド隊長の指揮のもと、インベントとロゼが連携しモンスターを狩っていた頃。

 

 ノルド隊が無くなってから、そこから紆余曲折あり、着実にモンスターを狩る能力は高くなっていった。だが連携できるような仲間は現れなかった。

 ただモンスターを狩りたい。そんなインベントの生き方に共感する人物は稀有な存在だからだ。


 孤独感は常にあった。

 だが、だからといってどうしていいのかもわからない。孤独であってもモンスターを狩ることはできている。


(『モンブレ』なら、簡単にパーティーが組めるのになあ)


 夢の世界なら「一狩り行こう」と言えば、すぐに即席パーティーができる。

 理由はいらない。モンスターを狩ることが当たり前だからである。


 酒を酌み交わし、時に笑い、時に喧嘩するような関係――そんなものは不要。

 インベントにとっての理想形。それはモンスターを狩る時にだけ、現れる仲間。


 都合の良い仲間。そんなものが現れるはずもない。インベントとて理解していたからこそ、心に蓋をしていた。

 だが――そんな存在が現れた。


**


 身体が停止した無防備な状態。それでもインベントは慌てない。

 対策は仲間が――クロがやってくれる。


 自分以外の誰かが、自身が考える以上の動きをしてくれている。

 実際に隣に仲間がいるわけではないが、まるで自身と重なり合ったもう一人の自分と共に戦っているようだ。

 一人だが孤独ひとりでは無い。


「ふふ」


 仲間は非常に優秀だ。

 ルベリオの集中力を削り、【停止イサ】に対しての対策、援護射撃、全てにおいて高水準。

 すでに二度のクリーンヒットを成功させている。


 頼もしい。だからこそ自身も役に立ちたいと思った。

 モンスター相手に、お互いが役目を全力で果たす間柄。仲間とはそういうものだからである。


 インベントは収納空間を使わない。武器は槍のみ。

 手段が限られているからこそ力を発揮できる。生来、武器全般の才能に乏しいインベントだが、まるで手足のように槍を使いこなす。


 普段、酷使している収納空間の代わりに筋肉を酷使しているため、疲労が溜まっていく。だが疲労は無視して戦い続ける。


 そんな中、ルベリオとほぼ同時に、同じことを思った。


(収納空間の開閉頻度が減った?)


 理由はわからないが、インベントのやることは変わらない。

 仲間を信じ攻めるのみ。


 しかしルベリオの攻撃が眼前に迫った時――

 文字通り胸を打つ痛みが、背中まで貫通していった。

 実に乱暴な丸太での強制回避。頑丈な漆黒アビス装備でなければ胸骨が折れていたかもしれない。


(な、なんだ?)


 これまでは、スマートでカッコよく狡猾に援護してくれた仲間が、急に「あぶなーい!」と叫びながら強烈なタックルを敢行し、敵の攻撃は避けられたもののタックルのダメージも受けてしまった――そんな気分のインベント。


 急な変化の理由はルベリオには皆目見当もつかない。だが、インベントはすぐに推察できた。


(師匠……じゃなくてシロさん?)


 インベントは槍を構えたもののその場で立ち止まる。

 目が泳いでいることをルベリオは見逃さなかった。インベントは動揺していた。


 インベントはなにかしらの指示が飛んでくるのではないかと思っていた。

 だが、指示はこない。


 指示が無いなら迷う必要は無い――そう判断した。


(ふふ、殺っちゃえってことですね)


 戸惑いは投げ捨てた。

 インベント、仲間を信じて戦うのみ。



 長かった戦いも、最終局面を迎えようとしてた。

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