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研究対象:インベント・リアルト

 果敢に攻めるインベントに対し、余裕をもってあしらうルベリオ。

 その様子はまるで、格闘技の有段者に挑む低段者のように。


「がふっ!」


 ルベリオは執拗に胸部や腹部を攻撃する。

 勢いよく殴りつけるわけではなく、掌底で押し出すような攻撃を繰り返す。

 防具の上からなので致命傷にはならないが、じわじわとダメージは溜まっていく。


 しかしルベリオはあえて急所を狙わない。狙えないのではなく狙わない。

 勝ちを確信し舐めているわけではない。現在のインベントと殺し合う時間がかけがえのない時間だからだ。殺してしまえば終わってしまう。

 ルベリオの人生で最も執着した相手と、お互いの全ての手札を出し合ってそのうえで競り勝つ状況。

 こんな素晴らしい状況は残りの人生で二度と訪れないとルベリオは確信している。

 それほど稀有な存在がインベントなのだ。


 だったら殺さなければいいのだが、その選択肢はルベリオに無い。

 数年前、完膚なきまでに負け、復讐を誓い、執着し、その過程で【停止イサ】のルーンを得た。満を持してのインベントとの戦いは、インベントの死をもって決着する。


 もしくはインベントが脱兎のごとく逃げれば、翼をもたぬルベリオは追えない。

 だがその展開も無さそうである。


 インベントが新たなる一手を実行し、それをルベリオが封じる。

 また新たな試みで攻めるが、それもルベリオが封じる。

 無限に続くイタチごっこ。どちらかの心が折れない限り続く。


「フフ、ウフフ」


 何度改善されたかわからないインベントの攻撃に笑みを浮かべる。

 それは余裕の笑みでも嘲笑の笑みでもない。感心しているのだ。その想像力に感謝さえしている。


(キミは――職人気質だねえ。常に変化を求める職人といったところかな。

 少しづつでも改善を繰り返す。愚直にねえ。

 愚直――だけど素直過ぎる。――純粋で素直)


 性格まで分析されているインベント。

 どれだけインベントが頭を使い、ルベリオを出し抜こうとしてもルベリオには敵わない。

 読み合いの類はルベリオの独壇場。

 

 だがルベリオは違和感を覚える。

 完了したはずのインベントのプロファイリング。頭の中でもう一度反芻する。


(純粋で――素直――。そうに違いない。

 インベントはそういうやつだよ。

 でも……出会ったときはもっと……性悪だったよね。

 性悪になる余裕も無いから? あれは演技だったのか?)


 気味悪さがルベリオを包んでいく。

 ルベリオはインベントの肩――防具と防具の隙間を縫うように突いた。


「痛っ!」


 思わず持っていた剣を手放すインベント。


(もう終わらせよう。サヨナラ、インベント)


 ルベリオは構えた。

 インベントの動きをコントロールし、無理して放つであろう攻撃に対し顔面目掛けてカウンターを喰らわせる算段。

 幽壁に防がれたとしても幽壁は何度も発動できる代物ではない。


 インベントは手放してしまった剣の代わりに、すでに槍を装備していた。

 すぐに攻撃してくると思っていたが、ルベリオでなければ気づかないほどの刹那の逡巡があった。

 これまで迷わず攻め続けてきたインベントだからこその、なんとも言えない間。


 だがインベントは肩手で持っていた剣を投げつけ、両手で槍を持ち飛び掛かってくる。


(なんだ?)


 これまでに比べどうにも稚拙な攻撃。

 気味が悪いと思いつつも、ルベリオからすれば二刀流よりも槍一本のほうがはるかに対処しやすい。


 だがルベリオは焦って【停止イサ】を使用し、大きく後退した。

 そして眉をひそめて呟いた。


「なんだそれは……」


 そして叫んだ。


「なんだそれは!?」


**


『ガンバレ……どうにかしろ……ベン太郎……』


 一方そのころ、クロは体育座りで戦いの様子を見守っていた。消沈気味で。

 『裏・絶影』が封じられ、【停止イサ】の対抗策も思いつかず、白旗状態。


 正確に言えば、対抗策自体は思いついていたが大きな課題が立ちふさがる。

 それは、インベントに対し説明する手段が無いのだ。


 クロがインベントと会話する方法は、アイナを介する以外には、筋トレで肉体を徹底的にいじめ疲労困憊状態にするぐらいしか手段が無い。

 光を使い呼びかけることはできたとしても、会話することは不可能。

 更になぜか乗っ取り状態は拒否されてしまう。


 クロは打つ手が無く傍観者となってしまった。

 インベント本人に勝利を期待しているのだが――


『ぐぬぬ……これ敗色濃厚じゃね?

 あーんもー! どーして逃げないの!?

 ダメ元で星座出してみるか? ダメだ……戦闘中に光なんて出したら邪魔になる。

 な、なにか手は!? 無ーい! もうだめだあ!』


 ジタバタするクロ。

 そんな時――


『フミちゃん』


 シロが冷静にクロのことを呼んだ。


『うお? びっくりした!

 おまえ、こんな非常時になにしてたんだよ!?』


 シロはやはり冷静に淡々と言葉を紡いでいく。


『私、いろいろわかった』


『ハァ!? なにが? なにがなにが!?』


『色々なんだけど……まずはベンちゃんが乗っ取り拒否している理由』


『へ?』


『おかしいと思ったの。さっきまでは乗っ取りさせてくれたのに、もう乗っ取りさせてくれないでしょ?』


 クロはしかめっ面をした。


『そりゃ……私が乗っ取ってもルベリオを倒せなかったからじゃね?

 カカカ、見限られちゃったかな』


『違うよフミちゃん。ベンちゃんはフミちゃんのこと見限ったりしてないよ。……多分』


『多分なのかよ』


『まあ、見限ったのかもしれないけどそれは根本原因じゃないの。

 そもそも乗っ取りってルベリオ用に準備してたでしょ?』


『ん? ああそうだな。

 ま、黒いおサルさんとか白いおサルさん相手にも使ったけどな』


『うん。ベンちゃんって人間相手だと本気出せないし、人間を殺すことに抵抗あるでしょ?

 だからルベリオとか人型モンスターみたいに、ベンちゃんが戦いにくい相手用でしょ?』


 クロは結論がわからず首を傾げる。


『なにが言いたいかっていうと、乗っ取りって本当のモンスターが相手の時は使ったことないの。

 だから、多分、相手がモンスターだと乗っ取りは使えない』


 クロはうんうんと頷くが、やはり首を傾げる。


『いやいや、ルベリオ相手にはさっきまで使えたじゃん。

 ルベリオは人間だから、関係なくね?』


 シロは首を振る。そして人差し指をびしっと立てて――


『それはね、ルベリオが人型モンスターだからだよ』


 クロは首が転げ落ちるぐらいに傾けた。シロは慌てる。


『あ、人型モンスターなんだけど、人型モンスターじゃないの!

 え、えっとね。【白猿シロザル】っていたけど、あれって元々人間ぽいでしょ?

 だから……人由来モンスター?』


 クロは『なんか化粧品みたいだな』と茶々を入れる。


『もう! でも【白猿シロザル】が人由来モンスターだとすると、ルベリオはモンスターみたいに強くなった人、なの。

 ベンちゃんってその辺の分別っていうのかな、そういうのに結構敏感なんだと思うの』


『ん~、わかったわかった。

 だったら人由来モンスターと人型モンスターで分類しようぜ。

 で、ルベリオは人型モンスターってことだろ?』


『うん』


『結論、ルベリオは人型モンスターだから乗っ取りができないってことだろ?』


『ちょっと違う。ルベリオは人間だったの。

 だけどとあるタイミングから人型モンスターになった』


 クロはぱちんと指を鳴らす。


『ザ・ワールドを使ったタイミングか!』


 シロは大きく何度も頷いた。


『なーるほど、確か門だか道だかでルーンをゲットしたとか言ってたな。

 新しいルーンの力を使うと人型モンスターになるって感じか』


 シロは少し俯き『大体合ってる』と言う。


『まあ……なんとなくわかったよ。

 確かに合点がいく。だけど、だからと言ってなにか変わるわけじゃねえじゃん。

 乗っ取り再開できるわけじゃない』


 クロは溜息を吐いて戦いの様子に目をやった。


『違うのフミちゃん』


『ああん?』



『ここからが本当の本題なの』

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