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ドラゴン偵察① じゅるり

 ノルドはインベントとロゼを呼び出し、事態の説明を行なった。


「――というわけだ」


 ドレークタイプの大型モンスターが現れたこと。

 そして青白い炎を吐き出すことを伝えた。


 説明中、インベントは何度も「うおお!」と声をあげた。


 勿論、喜びの声である。


「お前は……なんで喜んでるんだ?」


「だって、ドラゴンですよ!?」


「ドラゴンだあ?」


「炎を吐くオオトカゲ! 紛れもなくドラゴンですよ!!

 それも……真っ赤なドラゴン!!」


 ノルドとロゼは溜息を吐いた。


「こんな状況で喜んでいるのはお前ぐらいなもんだ」


「全くですね……」


 インベントは浮かれながらしきりに「いいな~、見たいな~」と連呼している。


(やべえな)


 ノルドは嫌な予感がしていた。予感というよりも確信に近い。


「あ~……それでだな。

 お前たち二人は駐屯地内で待機だ」


「わかりました」


「ええ~~」


 「もう……インベント」とロゼが窘めるがインベントはグズった子供のようになっている。


「大物狩りのメンバーが構成されるはずだ。

 幸い、駐屯地から大分離れた場所で発生したらしいしな。

 持ち回りで駐屯地周辺の警備をすることになるだろうが……お前たちは待機だ」


 インベントはこの世の終わりのような顔をしたが、瞳の奥がキラリと輝いた。


「あれれ~? おかしいな~」


 インベントがどこぞの子供探偵のような声をだした。


「……何がだ?」


「どうしてノルド隊は周辺警備をしないんですか~?」


「ん……。ん~……それはだな……」


 インベントの探偵眼ディテクティブアイにノルドは観念した。


(コイツは観察力は妙に高いからな……)


「俺には単独任務があるからだ」


「単独任務?」


「そのお……なんだ。モンスターの動向を探りに行ってくる」


「俺も行きたい!!」


 ノルドはがっくりと肩を落とした。


(だ~から説明なんてしたくなかったんだ……)



**


 結局ノルドはインベントの同行を許した。

 ノルドが命令し待機させても良かったのだが、面倒なのでしなかった。


(まあ、コイツは飛べるしな。斥候としては適任と言えば適任だ)


 斥候役として求められる能力は様々だが、ノルドが一番重要だと感じているのは最悪の事態に逃げられるかどうかである。

 ノルドであれば圧倒的なスピードでモンスターを振り切れる。

 インベントなら空に逃げてしまえばいいわけだ。


(まあ、ドラゴンだったら空を飛んできちまうがな)



「おい、インベント」


「はい!」


「……元気いいな。まあいい。もう一度注意点を言う。

 俺の命令には絶対順守だ。無理なら今すぐ帰れ」


「大丈夫です!!」


「よし。そしてお前は上空からの観察のみ許可する。

 炎の息がどれぐらいの範囲なのかわからねえ以上、接近はご法度だ」


「了解です!!」


(本当に大丈夫か……コイツ)


 ノルドは慎重に、だが急いで森林を進む。

 行って帰るにはかなりの距離だからだ。



**


「……そろそろ近い」


 少し早い時間に休憩をとる二人。


「そうなんですね!」


 ノルドは指をさす。


「他のモンスターの気配が……全くしない。

 強力なモンスターが発生すると、周囲のモンスターは移動するからな。

 逆説的にこっちにいるのは間違いないだろう」


「はい!」


 ノルドは溜息を吐くが、インベントがモンスターのことを考えるだけでテンションあがっちゃう痛い子と理解している。


「――行くぞ」


**


(こりゃあ……やべえな)


 ノルドはドレークタイプのモンスターを発見した。

 発見したのだが、近づけなかった――


 その距離――およそ150メートル。

 まだまだ余裕があるように思える距離。


(これ以上……進むと危険な気がする……。まじかよ……)


 モンスターが木の陰からチラと見えるレベル。

 深紅の肉体が非常に目立つため、発見するに至った。

 だがノルドの野生の勘がアラートを全開で鳴らしていた。



(チッ! このままじゃ誘導することもできねえ……!

 もっと息を殺せ! もっと自然に溶けろ!)


 ノルドは拒否する身体を無視して一歩一歩進む。


(気づかれているワケがねえ……!)


 ジワジワと進み、進むたびに丁寧に自然に己を紛らわせていく。

 モンスターまでの距離――およそ100メートル。



(報告の通り、高さは無えな。でけえトカゲだから全長は長そうだが)


 じっくりと観察するノルド。

 モンスターは全く動こうとしないため、好機だと判断したのだ。


(皮膚はそれなりに硬そうだ。

 トカゲのくせに腕がなげえな)


 そして視線は顔に移る。


(目を閉じてやがるな。寝てるのか?

 そんでもってあれが……危険な口ってわけだ)


 ノルドは青白い炎の息を思い出した。

 そしてやられてしまったデルタンとナイアドの顔が頭を過る。


(ん?)


 モンスターの瞳がゆっくりと開いた。


 深い闇が含まれた瞳は、どこを見ているのかわからない。

 感情を感じない無機質な瞳。


 ノルドは息を止めた。


(――――――…………)



 ノルドはモンスターの瞳を見た。

 どこを見ているのかわからない瞳は、逆に言えば常に見られているようにも感じる。


 ノルドは瞬きを止めた。



 モンスターはとてもゆっくりと、まるで止まっているかのように頭を少しずつ上にあげていく。


 そしていつの間にか口が少しだけ開いている。細く尖った牙が見えていた。



(バレたのか? バレてないのか?)


 動けない。動けばバレる。

 動かなければ――バレない。と――願っていた。



 だが、クルリと首が回った。


(アウトだな!)


 ノルドは両手両足を全て足にし、超高速で地を駆けた。

 ――直後、青白い炎が放射される。


(フザけ――!!)


 青白い炎は木々をすり抜けながら、迫ってきた。

 恐ろしく速い炎。


 掠めていく炎をノルドは見た。


(【カノ】だ! 【カノ】で間違いねえ!!

 幽力を奪っていく炎! 規模が……とんでもねえけどな!!)


 ノルドは走った。


 逃げに徹すれば問題無いと想定していた。

 だが甘かった。


(おいおいおい! 正確過ぎるだろうが!!)


 数秒のインターバルはあるものの、青白い炎はノルド目掛けて飛んできた。


 ノルドからは木々に阻まれモンスターを目視することはできない。

 モンスターからも同じはずである。だが正確に炎は迫ってくる。



(……もし、このモンスターの足が速ければ俺は終わりだな)


 何かしらの手段でノルドの位置を正確に把握しているモンスター。

 そして障害物を無視した炎。


(炎の射程範囲か、モンスターの探知範囲の外に出ないと死ぬ)


 ノルドはとにかく走った。

 とは言え真っすぐに遁走するわけにはいかない。

 即死の炎を避けながらの逃走。


 8発の炎が自身の真横を過ぎ去っていった後に、炎が止まった。


(逃げ切ったのか??)


 走り去りながらもモンスターがいるであろう方向を眺めた。


 だが終わったわけではなかった。



(炎が!? 空に向けて!?)



**



 上空で待機していたインベントはノルドの言いつけ通り、モンスターから200メートル以上離れていた。

 数度のリジェクションムーブで上空に舞い上がり一応モンスターを発見する。


(ん~~、こんなに遠いとよく見えないよ……。

 遠くを見るアレがあったらいいのになあ~)


 インベントは『双眼鏡』を欲したが、この世界に双眼鏡は無い。


(ドラゴン見たいー!

 ドラゴン見たいー!!

 ドラゴン見たいー!!!

 ……ん??)


 その頃、ノルドに向け炎が発射された。


 青白い炎が森を突き抜けていく。



(う、うおおおおお!! カッコいい!!!

 ファイアブレス!! ホワイトファイアブレス!!)


 ノルドに向けて炎が発射されたのだが――――


(隊長……見つかっちゃったのかな?

 まあ大丈夫だよね。ノルド隊長だし)


 インベントはノルドを完全に信用していた。

 いや……信用したほうが都合良かったのだ。



(この隙に…………もう少しだけ近寄ってみようかな……。

 もう少しだけ……

 ちょっとだけ……じゅるり)

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