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四メートルの攻防とキーボードクラッシャー

 相手が人間モンスターである以上、100パーセント以上の力を発揮して戦うことができるインベント。


 だがやはり、【停止イサ】の停止能力があるためうかつに飛び込むことができない。

 とは言え中遠間距離からの攻撃で牽制したところで、【マン】の探知能力があるため不意をつくこともできず無駄打ちになる。


 攻めの取っ掛かりが掴めない。

 やはり【停止イサの】全容がつかめていない以上、クロの考えるように一旦引くべきなのかもしれない。

 だが――相手がモンスターである以上、逃げるなんて言う選択肢はインベントにはない。


 思考は全て、どうやってこのモンスターを攻略するのかに集約していく。


「ヒカヒカカ」


 元々の奇妙な笑い声にクロの笑い方が混じり、珍妙な笑い方へ。


 結局のところインベントもクロと同じ答えに辿り着いた。

 【【停止イサ】力は未知数であり、必勝法や攻略法など存在しないことに。


 だが同じ答えに辿り着いたとしても答えの先が違う。

 未踏の大地を見て引き返すのか、それとも突き進むのか。


 インベントは『モンスターブレイカー』でしっかりと学んできた。

 そこにモンスターがいるのならば、命を懸けてでも突き進めと。


 実は裏でWIKIを読んだり、攻略動画を事前に見たりすることもある。

 そもそもゲームなので死んだって生き返れるのだが、そんな裏側、リアルはインベントの知るところではない。

 

 攻めの取っ掛かりが無い。弱点も見当たらない。

 だったらどうするのか?


 インベントは【停止イサ】の性能を確かめるしかない――そう結論付けた。

 そして性能を確かめる方法は――


『やめろベン太郎……やめろ……』


 クロの願いもインベントには届かない。

 クロにはインベントの考えることが手に取るようにわかる。

 これがゲームならば、クロはインベントと同じことをやるからだ。


 そう――命が複数あるならば。

 死にゲーならば死ねばいい。満足いくまで死ねばいい。


 インベントは大きく飛翔する。ほぼ真上から自由落下でルベリオに接近するインベント。

 ルベリオは自然体でただ眺めていた。


 ナイフを投げて牽制するが、ルベリオはひらりひらりと躱す。

 落下してくるインベントは槍を持ちルベリオに迫る。


 ルベリオから見ればあまりにも素直な攻撃。

 このまま突いてくるとは思っていない。

 どんなサプライズが待っているのか楽しみにしながら――


 ルベリオは「へえ。なるほどねえ」と感心する。


 インベントはある地点で持っていた槍をルベリオに投げた。

 それはルベリオから四メートル以上五メートル未満の地点。

 ルベリオは難なく槍を躱すが、インベントも一旦大きく離れた。


 そんな踏み込むか踏み込まないかの微妙な位置から投擲攻撃を続けるインベント。

 ルベリオは涼しい顔で攻撃を捌くが、インベントを停止させられていない。


 四メートル付近の攻防。

 インベントの瞳は瞬きも少なくじっとルベリオを見ていた。

 だが、それはルベリオも同様に。


 濃厚な見つめ合いは続く。

 ふたりはお互いのことが知りたいのだ。その深淵まで。


 それは――どちらかが死ぬまで続く。


**


『クソ! クソ! クソ! クソ! クソ!』


 クロは怒りをキーボードへ。

 殴ろうが叩こうが形を変えぬキーボードらしきものを叩き続ける。


『フミちゃん……』


『命をBETしてまでやることじゃねえだろ! ボケ! ハゲ! チ〇コ!

 なんでリセットボタンがねえんだよ! クソゲー!』


 髪を掻きむしるクロ。


『で、でもベンちゃん、なんか見切ってる感じだよ?

 大丈夫なんじゃない?』


 クロはシロを睨みつけた。だがすぐに視線をルベリオに戻す。


『見切るぅ? この距離ならザ・ワールドを使えないってか?

 カカ、そう判断する根拠は? 相手が使っていないからか?

 使えないのか、使う必要が無いのか、使わないふりをしているのか。

 アイツはそんなに性根が真っすぐな男に見えるか?

 騙す可能性を考慮すれば、帰納法で考えちゃダメなんだよ。

 本当に確かめるならば、相手に使わざるを得ない状況まで追い込まなければ意味がない』


 クロはぽこぽことキーボードを叩き『意味がなーい』と嘆いた。


『ぐうぅ……どっちなんだ? 有効範囲は本当に狭いのか?

 狭いなら打つ手は増える……だがそう思わせる作戦じゃないのか?

 そもそも、なんでベン太郎はこの距離だと判断できた?

 いやそんなことを考えてる場合なのか? なにか有効打となる策を考えないと……。

 しかし、連絡手段が無い。ど、どうしよう』


 クロはシロに構っている暇がない。

 どうにか打開策を考えねばならないからだ。

 もしくはどうにか強制的に逃走する方法を。


 だがインベントは戦いに集中してしまっている。

 取れる手段が少なく悶えるクロ。


 そんなクロを横目にシロは別のことを気にしていた。


(なんかベンちゃん……集中力が落ちてない?

 というか……なんかムラがある気がする。乗り切れてない?

 なんでだろう? 普段なら一度スイッチが入ると暴走しちゃうのに。

 理性がかなり強い感じがする。

 相手が人間だからかな? ううん、なんか違う気がする)


 本物のモンスター。ロメロのような人型モンスター。人間から創られたモンスター。

 インベントはたくさんのモンスターと対峙してきたが、ルベリオはどのパターンとも違う。


 クロはルベリオのことに頭がいっぱいだから気付かないが、シロはインベントの異変のほうが気がかりなのだ。



(よく考えたらやっぱりなんかおかしい。

 始めはやる気なかったもん。

 なんで? どうして急にやる気になったの?

 どうしてスイッチが入りきって無いの?)

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