ボクたちは友達になれたかもしれないよね。似た者同士だと思わない? 思うよね? だから皆殺しにするんだよ
チームインベントは現在バラバラである。
『もー! どうするのフミちゃん!
あんなのに命狙われたら、心休まらないよ!? ねえねえ!?』
シロにとって一番恐れていた事態――それは圧倒的な探知能力を持った存在であるルベリオの暗殺対象になること。
恐れていた事態が現実になってしまい気が気でない。
やはりルベリオは危険すぎるゆえ、排除してしまわなければならない。
やられる前にやってしまえ。
それに対しクロは、暗殺対象にされようがとりあえず一旦逃げるべきだと考えている。
クロの基本スタンスはシロのお願いを叶えてあげること。
だがルベリオの能力は未知数であり、あまりにも危険すぎる停止能力。
ここはまずは逃げて対策を講じる時間を稼ぎたいクロ。
だが――ここにきてインベントの様子がおかしい。
先程までは乗っ取り状態にも協力的であり、言い方を変えればクロにお任せ状態だった。
だが乗っ取り状態が解除されてしまったため、再度打診されてもインベントは拒否するようになった。
その理由がわからない。
あろうことかルベリオに近づいていく始末。
意思疎通ができぬまま、インベント共同体はどこへ行く。
**
インベントおよびインベント関係者皆殺し宣言。
それを受けてなお、インベントは落ち着き払っていた。
というよりも――
(呼吸も安定している。
なにかを仕掛ける様子もないし、緊張もしていない。
不思議そうに見つめてくるけど……どういう感情なんだろうね?)
慌てふためくインベントを想像していたルベリオだが、インベントはまさに無風状態。
【人】のルーンで人間の機微な動きさえも把握できるルベリオだからこそ、その落ち着き払っている状態が気味悪く感じていた。
だがその気味悪さもインベントからしか味わえない醍醐味でもあると喜んでいる。
ルベリオはインベントに執着する理由がなんとなくわかっていた。
それは似た者同士だからである。
「キミはさ、いつ『道』に届いたんだい?」
インベントは「道?」と呟く。
ルベリオは先ほど皆殺し宣言したとは思ないほど穏やかな表情になる。
「ああ、『門』って言ったり『道』って言ったりするみたいだね。
要はルーンが増えるか、元々のルーンが強化されるかだ。
共通の知り合いで言うとアドリーみたいにね」
インベントが多少興味を示したことでルベリオはさらに饒舌になる。
「あのロリババアは、昔、とっても嫌なことがあってその時にルーンが強化されたらしいよ。
本来の【樹】は多少樹々を操るレベルなんだけど、ババアのは多少じゃないからねえ。
ボクとしては元のルーンが強化されることが『門』だと思っていて、新たなルーンを得ることを『道』だと思っているんだ。ま、そもそもの該当者が少ないから分類しにくいんだけどさ。
確かクラマは【騎乗】で、【雹】を得たんじゃなかったかな?
だからボク的にはクラマは『道』なんだよ」
インベントにとって印象深い人物の名が上がり「なるほど」と納得する。
「そこでインベント、キミだ。
キミのルーンっては当然【器】だ。
【器】だけなんじゃないかな?」
インベントは頷いた。
「フフフ、やっぱりね。そうだと思っていたんだよ。
でもさ、ボクはキミが【器】の『門』を開いた存在だと思っていたんだ。
明らかに普通の【器】じゃなかったからねえ。
だけどさ、キミに負けてから【器】の研究をした。
色々な人の【器】を観察した。そんな中ふと疑問に思ったんだよね。
ボクは『門』を開いた人間を三人知っているけど、キミはどうにも『門』っぽくない。
キミは恐らく……『道』だ。
元々【器】だったキミが、新たに得たルーンは【器】」
インベントは自らに二つの収納空間があること、そして二枚のゲートを開けることを思い出し「あ~そうかも!」と納得した。
ルベリオはくつくつ笑う。
「ウフ、フフフ、アッハッハ、本当におかしなやつだなキミはさ。
せっかく新しいルーンを得られるのに、二つとも【器】にするなんてさ。
どれだけ収納空間が好きなんだい?」
インベントは頭を搔く。収納空間が好きだから【器】を得たわけではないからである。
いつの間にか二つ目の収納空間を得ていたのだ。
笑い疲れたルベリオは一息ついて再度話しだす。
「キミが『門』じゃなくて『道』で良かったよ。
――ボクと同じだからさ」
そう言ってルベリオは右手に握り拳を作る。
その後、左手の拳鍔を外し真上に投げた。
すると拳鍔は重力を無視して完全に停止する。
「ボクがキミに負けた後、ほどなくして『道』に辿り着いた。
そして得たルーンは【停止】」
インベントは目を輝かせて「イサ?」と聞き返す。
「見ての通り物体を停止させるルーン。
知らないだろう? 知るはずがないよね?
【停止】のルーンを持っていたのは、ボクの知る限りひとりだけ。
100年近く前、オセラシアのとある町にいた老人。
確か名前は……ガルガイン。
いやあ大層な名前だよねえ。だけどただの変人だったらしいよ」
インベントは楽しそうにルベリオの話に耳を傾ける。
「酒ばかり飲んで、空中に酒の入ったコップを停止させるのが特技だったそうだよ。
だけど、彼には一緒に酒を飲む友達はいなかったらしいよ。
お喋りな男でさ、相手の話なんてろくに聞かずペラペラと喋るんだって。
そりゃあ面倒だよねえ。鬱陶しくなるよねえ。
それに発言を繰り返すんだってさ。繰り返すそうだよ。
あと、酷く女を馬鹿にする男だったらしいね。ひどいなあ、ひどいねえ。
そして独り孤独に死んでいった男がガルガイン。
フフ、物語にもならないね。なんてつまらない男」
一気呵成にガルガインとやらの紹介をするルベリオ。
そして――
「――そう。
ボクは――オレはガルガインらしく生きてきたんだよ。もう10年以上前からさ。
そして得たのがこの【停止】なんだよ。
我慢強いだろう? 確証なんて無かったけど、やり続けた結果だよ。
フフ、『道』を無理やり開く方法。それは違う自分になること。
誰よりもガルガインらしく生きた結果、ボクは【停止】を手に入れた」
ルベリオは宙に浮いていた拳鍔をキャッチした。
そして殺意を籠めた拳をインベントに向けた。
「ボクの【人】のルーンと最も相性が良いのがこの【停止】だよ。
全方向、どこから攻撃されても全て無効化できる。
せっかく『道』に届いたのにさ、【器】をおかわりしちゃうキミとは違うんだよねえ。
フフ、逃げていいんだよ?
逃げ――――え?」
インベントの両手にはいつの間にか剣が握られていた。
それはそれは嬉々とした顔で。
(なん……だ?)
今にも弾け飛びそうなほどの果実。
ルベリオはインベントが爆発寸前の果実のように見えた。
その爆発は確実にルベリオを狙っていた。
「キキキ」と口から奇妙な声が漏れ出した。
(嗚呼、なんてお喋りな――モンスターなんだろう)
後書きってさ、20000文字まで書けるんだよね。
20000文字も書く人なんているわけないのにねえ。
でも20000文字書いたら、ブックマークしてくれるかもしれないよね?
評価もしてくれるかもしれないよね?




