飛び道具
徹甲弾をいとも簡単にキャッチしたルベリオ。
ダメージを与えられなかったことは想定の範囲内ではあるものの、手段がわからないのは想定外であるクロ。
(バリア的ななにかで威力を殺した?
凄い体術で威力を打ち消した?
衝撃を受け流す中国武術的ななにかか?
皮膚を硬化する能力?
ああん……わからんぞ。なんだったんだ?)
クロは焦っていた。
結果、短絡的な思考に陥っていく。
(威力が足りなかったか?
う~むなにか見失ったか? も、もう一度見れば……ネタがわかるかもしれん)
クロは徹甲弾を投げた。
投げた徹甲弾はゲートを経由し、二つの収納空間を経由し加速と旋回が加えられた後、もう一つのゲートから飛び出していく。
先ほどと同じ速度だが旋回することで威力を高めた徹甲弾がルベリオに迫る。
ルベリオは左手を前に出した。
クロはじっくりと観察している。
(これでさっきとの差分は威力だけだ。
さ~て、これも無効化できんのか?)
差分は『威力』だけ――そう思っているクロだが――
「ふふ」
ルベリオの左手が徹甲弾に触れるか触れないかのところで身を翻し回避してしまった。
インベントは思わず「あ」と声を漏らす。
そもそも先ほどはルベリオを宙に浮かせることで回避を封じていたが、今回はただ徹甲弾をぶっ放しただけ。ひとりよがりな攻撃だった。
ルベリオはうんうんと頷きながら――
「へえ、そういうこともできるんだねえ。
軽く投げたはずなのに一度消えてから、発射されるなんてねえ。
なるほどなるほど、やっぱりインベントは凄いなあ。凄いねえ。ふふ、うふふ」
インベントは悪態をつく。
そんなインベントを見ながら、ルベリオの頭はゆっくりと傾いていく。そして――
「んふ。受け止めたあげたほうがよかったかなあ? ねえ?」
見透かされている。
そう感じたクロは鬱陶しいと感じていた。しきりに心配しているシロがクロをより苛立たせた。
「カ、カカカ! よく考えたら探知タイプに遠距離攻撃は有効じゃないわねえ!
だったらやっぱり、近接攻撃で――」
そう言いつつインベントは地面から砂を掴んだ。
「――と思うだろ?
ところがどっこい、対人技はしっかり準備してきてんだよ!」
インベントは掴んだ砂をルベリオめがけて投げる。
先ほど投げた徹甲弾同様に砂はゲートから収納空間へ。
今度はただ加速した砂が発射される。
「くらえ! 炸裂弾!」
ルベリオは目を見開いた。
発射された砂は、範囲を広げつつルベリオに襲い掛かってくる。
所詮砂であるため、殺傷能力は低い。
だが広範囲に及ぶため回避は困難。
ルベリオは両手で顔を防御しつつ木に隠れた。
「おおっと、これはとんでもないねえ」
ルベリオは木から顔をひょっこりと出してインベントを眺めている。
「カカカ!
威力はそこそこだからモンスター相手には効果が薄いけどねえ。
だけど、対人戦ならば無類の強さ!
人間は耐久力が低いからなあ!
じりじり削っていけばいいんだからさ!」
再度砂を投げるインベント。
ルベリオは木から影から動けないでいる。
だが、追い詰められているわけでもない。
どれだけ広範囲の攻撃であっても、インベントの位置を完璧に把握しているルベリオにとって炸裂弾は脅威では無かった。
クロの策は炸裂弾で動けなくした上で、徹甲弾で狙い撃ちすることだった。
だが徹甲弾で狙い撃ちする前に――
ルベリオはゆっくりと木の影からインベントの前に姿を現した。
(うん、なるほど。
収納空間の出口を見れば発射方向は見当がつく。
とは言え、完全に回避するのは難しそうではあるねえ)
初見ならば回避は難しいことは認めたルベリオ。
だが、数回の炸裂弾を観察した結果――
「――フフフ、ボク以外ならね」
不敵に笑うルベリオに対し、炸裂弾が飛来する。
ルベリオは再度木に隠れてやり過ごすが、すぐに飛び出す。
横方向へゆっくりと駆けるルベリオに対し、再度炸裂弾を投射するインベント。
だがルベリオは急停止。
「うん、少し見誤ったか」
そう言って一歩後ろへ下がると、広範囲の炸裂弾がルベリオの目の前をかすりもせず通過していった。
インベントは再度砂を掴む。
ルベリオも再度横方向へ、今度は早歩き。
(舐めやがって!)
炸裂弾は先ほどよりも難なく回避されてしまう。
もう一度使用したが、やはり余裕をもって。
クロはむきになってもう一度。
だがそれは――
(意地になってるフリをして、からの~!)
これまで同様に砂を投げる。
これまで同様に砂は収納空間の中へ。
だがこれまでと違い、収納空間から発射される角度を少し傾けた。
(まっすぐ投げるふりして横を狙うやつー!)
小細工を弄した炸裂弾。
だがそれはルベリオの――背面を通過していった。
「なっ!?」
回避される可能性は考えていた。
だが多少なりともルベリオを焦らせると思っていたクロ。
しかしながらルベリオは見もせずに炸裂弾を回避した。
「へえ~、そういうこともできるんだね。
面白いなあ収納空間って。いや、面白いのはインベントか。ウフフ」
一見無防備に、過ぎ去った炸裂弾の着弾先を眺めているルベリオ。
だがルベリオは無防備でもなんでもないことをクロは理解している。
「カカカ、初見殺しのはずだったんだけどな」
ルベリオはゆっくりと振り返る。
「初見ンン~?
何度も見せてくれたじゃないか。あれなら避けれて当然だよねえ。
多分、アドリーでも避けれるんじゃないかなあ。ま、知らないけどさあ」
インベントは髪をかき上げた。
インベントの表情は平然としている。
だが――
「あーうぜえな! うっぜえうぜえ! まーじうぜえ!
学習能力高すぎだろ!」
幽世の世界にて――
クロは足をバタバタさせながら怒っていた。
「体の動きだけならまだしも、ゲートまで見られていると虚をつけねえ!
完全に初見の技をぶつけるしかねえか……でもなあ~そんな技あるか?
だあーっくっそ! こんなことなら対ニヤニヤ野郎専用技でも開発しておくべきだったか!」
クロは「まあいい」と呟きエンターボタンらしきモノを、人差し指で力いっぱい叩いた。
その行為に特に意味はない。
「カ、カカカ」
クロの笑い声に連動しインベントは笑い出す。
「オマエに遠距離攻撃が通用しないのはよ~くわかった。
遊びはここまでだ」
ルベリオはじっとインベントを見つめ、インベントの左手を指差した。
「遠距離攻撃が通じないこと理解してくれたみたいだねえ。
だったらさあ、その左手に持ってるナニかは仕舞ったほうがいいんじゃないかなあ?」
インベントは握った左手をルベリオに突き出した。
そして開いた手には小石が三個。
「カカカ! 本当にトリックが通じねえや。
一発ぐらい遠距離攻撃をヒットさせたかったけどまあいいだろう!
ここからは別の手でいく」
「ふ~ん、本当に?
そんなこと言ってまた鉄の塊飛ばしてくるんじゃないの?
キミって平然と嘘つくからなあ。
でもまあ、その通りだと思うよ。ボクに遠距離攻撃は通用しない」
インベントは「あっそ」と言いながら大きく上空へ。
小さくなっていくインベントを眺めながら――
「遠距離攻撃は、なのかな?
それとも遠距離攻撃も、なのかな。ウフ、ウフフ」




