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過去の再現

「さてさて」


 数年ぶりのルベリオとの再戦。

 クロが初めて乗っ取りが成功させた時の相手がルベリオである。


『フミちゃん。用心してね。

 なんか……余裕綽々って感じだよ?』


 心配するシロに対し「へいへい」と応える。

 ルベリオは再戦を心待ちにしていた。その理由を考えるクロ。


(昔戦った時は完膚なきまでにぶちのめしたんだけどなあ。

 そういや……荒野で会った時も自信満々な感じで再戦を挑んできたな。

 色々あって流れちまったけどさ)


 ルベリオはインベントとの再戦を心待ちにしていた。

 つまり――


(勝つ自信がある。ってことは対策でも練ってきたってことだろ?

 ま、それぐらいはしてくるだろうさ。

 ――だけどまあ)


 クロは自信満々に言い放つ。


「私に勝つなんて、十年早いんだよ」


 そう言って構えた。

 あえて武器を持たず、徒手空拳の構え。


 ルベリオは笑みを浮かべ「武器は使わないのかい?」と問う。


「カカカ、全身装備で固めているしな。

 武器を使うまでもないない」


「ウフフ、フフ、傲慢だ。それでこそインベント。

 それでこそ――殺し甲斐があるねえ。殺し甲斐があるよ」


 インベント越しではあるもののクロは不気味さをひしひしと感じていた。

 とはいえ、負ける気もしないのも事実。

 それだけの自信がクロにはあった。


「どれだけ準備して来ても無駄無駄。

 オマエの記憶の中のインベントと、今のインベントは別物だからねえ」


「ンフフ。確かに強そうな鎧だねえ。

 身体も一回り大きくなったし、強者の風格が出てきたよ。

 もしも、初めて出会った時に今のキミだったら、手を出さなかったかもね」


 インベントは片足を上げ「変わったのは見た目(ハード)じゃねえ」と言い――

 上げた足が着地する前に一気に加速しルベリオとの距離を詰めた。


「変わったのは――中身ソフトのほうさ」


 突き出した拳がルベリオに迫る。

 ルベリオは後方へ飛びながら両掌で受け流した。


「ッ!」


 パンチはルベリオの想定以上の威力であり、身体をしならせ、回転することで衝撃を流した。


「フフ、恐ろしいねえ。

 まともに喰らったら骨が砕けてしまうね」


「カカカ、対人相手なら弱パンチでも必殺技ってわけよ」


 ルベリオは左掌のゴミを掃うかのように右掌で叩いた。

 ルベリオに動揺は全く見られない。


「確かにねえ。まあ、当たらなければどうということはないよ」


 インベントは「赤い彗星かよ」と吐き捨てるように呟いた後、高速移動しパンチとキックを繰り返す。

 だがルベリオはひらひらと華麗に回避する。


 インベントの動きは筋力に依存しないため攻撃の起こりが極端に先読みし難い。

 初めてルベリオと戦った際は、異様な動きにルベリオは翻弄された。

 しかし今回は回避している。笑顔は消えているが、焦りは感じられない。


「カカカ! 始めましての時は汗ダクダクで回避してたのにねえ!?」


「フフ、嫌なことを思い出させないでくれよ」


「しっかしよく避けるな! このカスCPUは!」


「相変わらず、よくわからないけど、そりゃどーも」


 軽口を叩き合いながらも、高速かつ強力な連続攻撃を披露するインベント。

 そしてただただ避け続けるルベリオ。


 クロは思う。

 ルベリオは自信満々だった。だからこれぐらいやってのけるのは想定内。

 とは言え――


(完全に読まれてるな。ったく……どうやって先読みしてやがんだ?

 目線? 思考? それとも第六感か? まあいいや)


 猛攻を続けるが当たらない。

 それでも構わず攻撃を続ける。


「……よく動くねえ」


「カカカ、バテたか~? 私はスタミナ勝負でも構わねえよ」


「ンフフ。遠慮しておくよ」


 耐え凌ぐルベリオだが、徐々に動きが洗練されていく。

 慣れてきているのは明白だった。それはクロも理解していた。

 だがあえて攻撃パターンは変えない。


(回避能力は認めてやるよ。

 だけど攻撃はどうするのかな?

 素手じゃ狙えるところは限られてくるよね?

 関節部分か――それとも)


 絶妙なタイミングでルベリオの貫手がインベントに迫る。

 狙いは――喉だ。


 クロは予想通りの展開に笑う。

 まともにやって攻撃が当たらないのならば、相手の攻撃に対しカウンターを狙う。


(丸太と激突して、粉砕骨折乙!)


 ルベリオの貫手が喉に迫る。

 それに対し絶妙なタイミングでゲートを展開し、丸太の先端が顔を出す。


 拳が砕け嫌な音がする。

 ――するはずだった。


「あ、あん?」


 ルベリオの手と丸太は接触していた。

 だが、ルベリオは手はまるで赤子に触れるかのように優しく丸太に触れている。


 インベントは舌打ちし、丸太でルベリオの手を押し出した。


「おっと」


 大きく腕を回転させて受け流したルベリオの動きは、まるで演舞のよう。


『ねえねえ! フミちゃん!? 大丈夫なの!?』


 クロは耳をほじりながら「うっせえ」と邪険に扱う。


(自信満々なワケだ。完全に読まれている。

 カカカ、マジで心を読んでるんじゃねえかと思っちまうね。

 ま、予知能力者がいるんだ、未来視ができるやつがいても不思議じゃない。

 ――たぶん違うけどな)


 戦いの中でルベリオがなにをしているのかクロはあたりをつけていた。


「やめだ、やめだ。

 オマエさては心を読む能力でも身に着けたな!

 これじゃ――」


 戦意喪失したかのように演じるクロ。

 インベントはその場から一歩も動いていない。

 だが、ルベリオは何かに反応し身構えた。


 その所作を見られ、ルベリオは「あ」と漏らす。

 クロは「やっぱそういうことね」と言う。


 クロはお喋りしながら同時に二つあることをやっていた。

 一つ目はこっそりとゲートを起動し、前方にインベントを押し出していた。

 二つ目はこれまたこっそりとゲートを起動し、後方へインベントを押し出していた。


 前方へ進む力と後方へ進む力は釣り合っており、相殺されインベントはその場から動いていない。

 まったく無意味に思える行動。


 しかしルベリオは反応した。つまり――


「オマエ……収納空間の開閉が見えてやがんな」


「フフ、ご名答。まさか見破られるとはねえ」


「ケッ。それは想定してなかったぜ。

 確かにゲートの開閉が見えるなら先読みもできる……いやできるもんなのかねえ?」


「突然動き出すのと、少しでも予兆があるのでは全く違うよ」


 ルベリオは宙を仰ぐ。続けて――


「アレは……あの時のキミの動きは本当に脅威だったからねえ。

 このボクが予測できない動きをする人間がいるなんて……フフ、アハハ」


 ルベリオは髪をかき上げた。


「研究したんだよ。

 オセラシアに行って【ペオース】のやつを探してさ。収納空間がどんなものなの朝から晩まで観察した。

 それがさあ【ペオース】の人たちって思った以上に収納空間使わないんだよね。

 だから思った以上に時間がかかっちゃったけどさ。

 そうそう、今思えば、拘束して無理やり収納空間使わせれば良かったよねえ。

 頭が回らなかったんだけどね、でもさ、ボクも傷心していたんだよ。

 だからぼーっと観察していたかったのかもしれないよね。

 ふふ、でもさ、でもね、時間をかけたお陰でさ、インベントがなにをやっているのか想像できるようになってきたんだよね。

 【ペオース】なんてただの荷物持ちだと思ってたのにさ、キミは――インベントはやっぱり凄いなあって思ったんだよね」


 堰を切ったかのように話しだしたルベリオ。

 陶酔したかのような表情。


「だからさ。ボクがキミのことを――

 アイナとかいう女なんかよりもキミのことを知っているんだよね。

 だからさ、ボクがキミを殺してあげるからね」



 クロは心の底から「キモチワリイ」と呟いた。

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