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緊急事態は突然に

第三章 ドラゴン討伐編スタートです。

 駐屯地で警報が鳴った。


「なんだ?」


 インベントは初めて聞く警報に驚いたが、いつも通り狩りに出ようと準備をしていた。


「おい! インベント!」


「ん? あれ? アイナ」


 いつもは倉庫でしか会うことの無いアイナ。

 それにいつもと違い、念話ではなく声をかけてきた。


「ハアハアハア」


「どうしたの? 何かあった?」


「お、お前を探してたんだよ」


「え?」


「お、お前……出掛けようとしてねえよな?」


「いや、出掛ける気ですけど……」


 アイナは長~い溜息と同時に「かったる~」と言う。


「警報聞いてなかったのか!」


「いやだな~聞こえないわけないでしょ」


「だろうね! 今の警報は外出禁止の警報なの!」


「え?」


「え? じゃねえの! 外に出ちゃダメなの!」


「え、えええ~~!」


「ど~せ気にせずお出かけしちゃうと思って止めに来たんだよ! このバカちん!」


「そ、そんな~」



****


 アイレド駐屯地、会議室。


 隊長職が全員呼び出されていた。

 その中にはノルドも含まれている。

 普段はサボり気味のノルドだが、今回は自主的に参加している。


「全員いるな」


 駐屯地司令官であるエンボスが全員揃ったことを確認し、話を始めた。


「昨夜、デルタン隊のハマグーとチマーそしてサルーン3名から報告があった。

 デルタン及び、ナイアドの2名が死亡とのことだ」


 会議室がどよめく。


「死亡原因はモンスターからの攻撃。

 そして……対象のモンスターはBランク程度の大きさだが……イレギュラーだ」


 会議室が更にどよめいた。

 モンスターのランクは基本的には大きさで設定される。

 Bランクは人間よりも確実に大きいモンスターであり、イレギュラーは特殊能力を持っている個体である。


「つまりBランクの上位……いやAランク扱いとする。

 よって大物狩りを組織することになった。対象者は追って連絡する。

 そしてモンスターの特徴だが――――ドレークタイプとのこと」


 数人が「ドレーク……?」と呟いた。


「知らぬものも多いと思うので説明するが、ドレークタイプとはオオトカゲのモンスターだ。

 イング領では滅多に見ることは無いが、南部のオセラシア自治区ではたまに発生するらしい。

 恐らく南部から移動してきたのではないかと思う。

 特徴だが体の色が赤く、非常に目立つそうだ。そして……肝心のイレギュラーとしての特徴を伝える。

 このモンスターは……青白い炎を吐いたそうだ」


 どよめきの極致に至った。

 ただでさえ知見の無いドレークタイプのモンスターが炎を吐くのだ。

 炎を吐くモンスターなどアイレド森林警備隊の歴史で一体もいなかった。


「エンボス」


「なんだ? ノルド」


「その青白い炎は、燃えるのか?」


 エンボスは首を振った。


「今からそれは説明しよう。

 結論から言うと燃えない。もしも燃えてるのであれば今頃山火事だ」


「だろうな。恐らく……【カノ】のルーンだな」


 エンボスは頷く。


「断定はできぬが【カノ】で間違いないと思う。

 【カノ】は燃えない灯りを灯すことができるルーンだが、熟練者であれば炎で攻撃したり防御したりできる。

 そして【カノ】の攻撃は肉体を傷つけるのではなく、幽力を奪う。

 ちなみにデルタンとナイアドは炎を受けて死亡した。

 廃人のようになってしまったらしい。

 だがハマグーも炎は受けたが一命をとりとめている。

 ハマグーは盾で防御した点と、【大盾ソーン】のルーンだったのが原因ではないかと思う」


「なるほど」


 ノルドを含め数人は理解したのだが、大半は理解が追い付いていない。

 【カノ】は一定数現れるルーンではあるものの、戦闘で使うには非常に難しい。

 そのため一般的には、照明役として扱われているのだ。


「ど、どういうことかわかりませんよ!!」


 若手の隊長が声を荒らげた。


「まあ待て……しっかりと説明する――」


 エンボスは窘めようとするが、不安からか様々な質問とも言えない質問が飛んでくる。

 混乱する会議室だが、いつの間にかノルドはいなくなっていた。



**


「フウ……」


 どうにか会議が終わり一息つくエンボス。


「お疲れだな」


「……ノルドか」


 いつの間にかノルドがいなくなっていたことには気づいていたし、嫌味の一つも言いたいところではあるがエンボスは飲み込んだ。


「コーヒーでも飲むか」


「……そうだな」


 エンボスは秘書にコーヒーを淹れさせる。


 ノルドは基本的にはコーヒーは飲まない。

 匂いが強い飲料はモンスターに自分の居場所を教えるようなものだからだが、敢えて飲むことにした。


「一ついいか」


「なんだ?」


 ノルドは声を潜め、秘書にも聞こえない声で囁いた。


「Aランクで……いいのか?」


「それは――」


 「どういう意味だ?」と言おうとしたがエンボスは理解した。

 押して首を振った。


「さすがにSランクはありえん」


「そうか」


 沈黙が流れる。


「……言いたいことは――――わかる」


「ん?」


「モンスターのランクは基本的に、大きさで決める。

 確認したところ、ドレークタイプのモンスターは上背はそれほどではない。Bランクで妥当だろう」


「そうだな」


 エンボスはコーヒーを混ぜる。


「イレギュラー要素だが……炎の息……だ。

 直撃しただけで絶命した……そして、【大盾ソーン】持ちの隊員が瀕死。

 つまり……」


「防御不可」


「……フウ~」


 エンボスは大きく溜息を吐いた。


「ディフェンダーが全く機能しない可能性がある……。

 大物狩りの基本は、複数名のディフェンダーで攻撃を抑え込みアタッカーで削る」


「その方法が使えない」


 モンスターは大きければ大きいほど討伐が困難になる。

 人間は歴史の中で大型モンスターに対しての効果的な対処法を編み出している。

 だが、今回はこれまで培ってきた方法が使えない。


「……Sランクだと?」


「知らん」


 重く深い沈黙が流れた。


 ノルドは立ち上がった。


「倒すなら……かなりの犠牲が出るぞ」


「そうだろうな……」


宵蛇よいばみを呼ぶべきじゃないのか?」


「……それは」


「まあ、アレがそう簡単に来てくれるとは思えんがな」


「……」


 ノルドは嗤った。


「まあ、俺一人でどうにかなるか見てくる」


「いつもすまんな」


「まあ気にするな」


 ノルドは部屋を後にした。


 探知能力が高く、一対一であっても逃げきれるだけの脚力がノルドにはある。

 危険なモンスターが確認された際、ノルドは一人でモンスターの動向を探りに出かける。

 事前情報があるのと無いのでは天と地ほどの差がある。


 そして可能であれば、誘導しそのままイング王国領内からお帰りいただく。

 戦わずに済むのであれば最高である。


 ノルドは非常に大きな役割を担っているのだが、この事実を知っているのはアイレド森林警備隊でもごく少数である。

 公表すればノルドの株は上がるだろう。

 『狂人くるいど』などという蔑称も無くなるかもしれない。

 だがノルドにとって他人の評価などどうでも良かった。


 自由に行動できるポジションが好きなのだ。



 好きなのだが――


(さあて……どうなることやら……。

 あ~……そういえば……)



 緊急事態の際に、森林警備隊ではとあるルールがある。


 【緊急時、隊長は隊員に事態の説明および行動予定を示さねばならない】


 10年近くノルド隊は存在しなかった。

 だから大物が現れても、事態の説明する相手がいなかった。


(……俺が? インベントに? 説明?)


 嫌な予感しかしないノルド、39歳。

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