森林警備隊入隊試験③
過去回想からスタートします。
インベントはRPGであるモンスターブレイカー、通称モンブレの世界を何度も夢に見てきた。
自ずとモンブレの世界に憧れ、モンスターを狩りたいと思うようになる。
モンスター狩りに加えて、幼少期のインベントが憧れたのが収納空間である。
ゲームの世界では大量の装備や薬、そしてモンスターからはぎ取った素材を手に入れる。
もしも収納空間が無ければ、荷物が多すぎて非常に不格好だ。
というよりも戦いどころではなくなるだろう。
そうならないためにも予定調和として収納空間が必要になってくる。
だがモンブレの世界がゲームだと思っていないインベントには収納空間が魅力的で仕方なかった。
大量の物資がいつでも出し入れ自由であり、収納空間の中に物質を入れれば重さも感じない。
(収納空間の中はどうなっているのだろう?)
まだ立つこともままならないような状態のインベントは、収納空間のことで頭が一杯だった。
そしてハイハイができるようになる頃には収納空間を開くことに成功していた。
自分自身のルーンを自覚するのは、5歳から10歳だと言われている。
つまりインベントは圧倒的に早くルーンを使い始めている。
インベントは収納空間を持っていることに歓喜した。
そして誰しもが持っているわけでは無いことを知り、両親に感謝した。
他の子どもたちがおもちゃに夢中になる時期に、インベントは収納空間に夢中だった。
(どれぐらい入るのだろうか?)
モンブレの世界では無限に入る収納空間。
だがインベントの世界では無限には入らない。
だからひたすらインベントは砂を入れ続けた。
幼いインベントでは砂を入れるのも一苦労であり、何日もかけて砂を入れた。
両親からしてみれば砂遊びが大好きな少年だった。
収納空間目一杯に砂を入れることによってインベントは、収納空間は一辺2メートルの立方体であることを知った。
インベントは砂入れを10回は繰り返した。
そして気付いたのは、砂を敷き詰めて入れることにより、より多くの砂が収納空間に入ることを発見した。
つまり収納空間は立方体であり入るサイズには限界があるが、しっかり整理整頓して入れることでより多くの物質を収納することが可能になる。
この日からインベントは、収納空間の整理が日課になったのだ。
(どれぐらいの大きさのものが入るのかな?)
砂入れに飽きたインベントは、どれぐらい大きなものが入るかを実験するようになった。
大きな石を探しては、とにかく入れてみる。
両親からすれば石大好き少年だった。
そしてインベントは知ることになる。
収納空間に何かを入れる際にネックになるのは、入り口であることを。
収納空間の入り口をインベントはゲートと名付けた。
ゲートの大きさはマックスで30センチの円である。
よってそれ以上大きな物は入れることができない。
30センチは微妙な大きさであり、細長い棒状のものは入れれるが、家財道具などは殆どが入らない。
さて――それでは長さはどうか?
物干し竿を入れてみることにした。
収納空間のサイズが2メートルの立方体なので、やはり2メートル以上の物干し竿は入らない。
と思いきや、2メートルの立方体の対角線は約3.5メートルである。
よって最大3.5メートルまで収納空間に収めることができる。
このようにインベントは収納空間を調べつくし、収納空間の扱いに関しては右に出るものがいない状態になっている。
収納空間にそこまで執着する人間はいないのでナンバーワンになるのもそれほど難しくないのだ。
さてさて……。
それ以外にも――
・生物を収納空間に入れれるのか?
・温度変化はするのか?
・収納空間の中で形状が変化するのか?
・液体は入るのか?
などなどとにかく収納空間に関してはありとあらゆることを調べつくした。
その中で副産物的に判明したことがある。
どれぐらいの大きさが上限かを把握したインベント。
では、上限を超えた物を入れたときはどうなるのか?
結果は簡単である。
反発する。
反発力が発生するのだ。
****
さて入隊試験に戻ろう。
インベントは居合の構えをとっている。
これは居合斬りをするためではない。
一つ目の目的は、収納空間を隠すため。
そしてもう一つは――
(収納空間に…………剣をぶっ刺す!!!!)
インベントは収納空間の一角に砂を格納していた。
つまりその一角にはモノが全く入らない状態である。
その場所に剣をぶっ刺すとどうなるか?
非常に大きな反発力が生まれる。
(『反発移動』!!)
インベントの体が宙に浮く。
収納空間からの反発力で斜め上に飛びあがったのだ。
(あ~ちょっと角度が悪い!! 上に飛び過ぎた!!)
『反発移動』は収納空間からの反発力で移動する技である。
だが、微調整はできなかった。
よって転ぶぐらいなら少し浮いたほうが良いと判断し、斜め上に飛んだのだ。
とにかくインベントはバンカースに向かって飛んだ。
一方、バンカースは――
(は? 消えただと??)
目の前からインベントが消えた。
実際には斜め上に飛んでいるのだが、バンカースの視界の中から消えたのだ。
理由は二つある。
まず人間の視野は左右にはある程度対応できるが、上下――特に上向きには弱い。
そしてもう一つは、インベントの『反発移動』の特性にある。
『反発移動』は収納空間の反発力を利用した移動方法だ。
今回は手に持った剣を利用し、『反発移動』を発動している。
つまり、予備動作が手に発生する。
もしも足に力を入れたのであれば、バンカースの観察眼はそれを見逃さない。
だが足は自然体のままインベントは移動した。
予備動作が全くない移動方法などありえないと考えているバンカースにとっては、目の前で起こった現象を理解できないのだ。
(いない……? どこ?)
バンカースは入隊試験であることを忘れて、警戒態勢に入った。
集中し、周辺視野を最大まで拡げた。
それでもインベントは見つからない。
聞こえるのは微かなインベントの声と、衣服の擦れる音――
(視野の中にインベントがいない……てことはつまり…………上?)
ぎりぎりのタイミングでバンカースはインベントを捉えた。
逆にインベントは見つかっている前提で突進してきている。
『反発移動』が予測しにくい動きだということを当の本人は自覚していないのだ。
(おいおいおい! なんだこのガキは!?)
完全に虚を突かれたバンカースは、咄嗟の時に出る動きを引き出されていた。
咄嗟の動き――つまり本能的な動き――
試験用の相手を試す動きではなく、本気でインベントを叩き落とすための動き。
(ヤバイ!!)
さっきまでと明らかに雰囲気が違う。そう察したインベントは再度異質な動きを挟む。
空中で『反発移動』を発動し、バンカースの制空圏手前で地面に向けて着地した。
空中で急速に移動するのも異常なのだが、さすがにバンカースはインベントを見失うことは無かった。
(盾――――盾――盾!)
インベントは盾を続けて三枚投げる。
また咄嗟の動きを引き出されるバンカース。
(あああ! クソ! うぜえ!!
どっから出てきてんだ! 盾! 死ね!)
バンカース最速の動きで盾を叩き落す。
するとインベントが姿を現す。
(これで――終いだ!)
仕留めにかかるバンカースだが、インベントのほうが一手速い。
もう一枚盾を投げる。
バンカースは即座に叩き落す――だが――
(ぐお! え、煙幕!? い、いや砂か!!)
盾で視界を塞ぎつつ、更に砂を手に仕込んでいたインベントはバンカースに向かって投げたのだ。
(ああ……もうウゼぇ)
バンカースは試験官としての自分、アイレド森林警備隊の総隊長としての自分を忘れた。
そこにいるのはただの雄。
(しめた!)
インベントはチャンスだと思い、サイドステップをした後、何も持たず構えた。
狙いはバンカースの腹部。
(空間抜刀!)
収納空間から早業で木剣を取り出しつつ、バンカースの腹部を撃った。
見事にヒットした――したのだが――
打ち込んだ感覚は壁を殴ったような感覚。
インベントはゾワりと悪寒がして、バンカースの顔を見ようとした。
――その時。
「――後出し抜刀」
バンカースの声を聴いたと同時に、インベントは意識を失っていた。
他の人のタイトル見ていたらタイトル変えたくなっちゃって変えました(笑)