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王政から民主主義へ

 ルベリオの手刀が背後からインベントに迫る。

 が――当然届かない。


 インベントはゲートを展開していた。

 手刀とインベントの首は目と鼻の先なのだが、永遠にたどり着くことは無い。


 だがルベリオの手刀はゲートの内部に侵入してはいなかった。

 ゲート手前でピタリと止まっていた。

 ルベリオはゲート表面を指でゆっくりとなぞりながら手を引っ込めていく。


 インベントは「なに?」と少し不機嫌そうに尋ねた。

 ルベリオは少し嬉しそうに、おどけて見せた。


「キミみたいな危険人物を、ラーエフのところには連れて行けなあ、行けないねえ。

 ウフ、フフ、どうにもラーエフのことが気になって仕方ないんだね。

 だったら、ボクを倒してラーエフの居場所を聞き出せばいいんじゃないかい?」


 インベントは溜息を吐き――「めんどうだなあ」とぼやいてからおもむろにルベリオを指差した。

 ルベリオは警戒するが、インベントはルベリオを指差しているわけではなかった。


(『カシオペア』、『ホクトシチセイ』……『死招き星(ザ・デスブリンガー)』)


 インベントにだけ見える光が織りなす星座。

 実はルベリオと出会った瞬間から何度も何度も輝いていた。

 だがことごとくインベントは無視していたのだ。


 インベントは観念し『死招き星(ザ・デスブリンガー)』を指差し――呟いた。


「『死招き星(ザ・デスブリンガー)』が見える」


 インベント、シロ、そしてクロの三者合意が締結された。

 次の瞬間――


「バァン」


 インベントの指先からナイフが発射された。

 ルベリオの瞳目掛けて発射されたナイフだが、ルベリオは瞬きもせず柄の部分をキャッチした。


 そしてナイフの刃を持ち、柄の部分がインベントに向くようにして、優しく投げ返す。

 インベントはナイフを掴み、そして離した。落下したナイフは収納空間へと吸い込まれていく。


 インベントは一呼吸置いて――


「カカカ、よ~く予習してんじゃねえか」


「フフ、予習……か。学んだことを活かす機会に巡り合えて嬉しいよ。

 やっと……やる気になってくれたみたいだしねえ。フフ、フフフ」


 インベントは首を振る。


「私はやる気満々……殺る気満々だったんだけどな。

 しっかしまあ、民主主義じゃねえもんでさ」


 ルベリオは聞き慣れない言葉――「ミンシュシュギ?」と復唱する。

 インベントは指を三本立てた。


「昔々あるところに三人の仲間がいました。

 三人の内二人はルベリオを殺そうと言いました。

 ですが一人は反対しています。

 さあて、どうなるでしょうか?」


「ん? そりゃあ、二人が賛同してるんだから殺そうとするんじゃないのかな?」


「ぶぶー! はっずれー!

 反対している一人は王様でした。だから二人がどれだけルベリオを殺そうと言っても王様が反対すれば殺せませんでした~。カカカ。

 民主主義……ま、多数決で決まるとは限らないんだぜえ、ルベリオちゃんよう」


 ルベリオは首を傾げつつも、納得したのか首を縦に振る。


「なるほどねえ、やっとインベント王が納得してくれたのかな?」


「カカカ、王は乗り気じゃないけどな~。

 ま、つい最近まではお前を発見次第、即ぶち殺すことになってたんだけどさ」


 ルベリオは自身に対し殺意を持つことが至極当然だと思い頷いた。


「え? ああ、そうなんだ。

 やっぱりあれかい? 愛する女を殺されたから?

 それはそうだよねえ――」


 ルベリオの話を遮るようにインベントは話す。


「アアン? アイナっちのことか?

 カカカ、アイナっちは生きてるぞ。愛の力は偉大だからな」


 ルベリオは「そうか……生きてるんだ」と呟く。


「ま、王様がラーエフとかいうやつに会いたくなっちゃったせいで、色々ややこしくなったんだけどさ。

 そうだな……カカカ、()()がさあ――」


 そう言ってインベントは左手にナイフを持つ。

 と同時にルベリオの死角から別のナイフを発射した。


 だが、ルベリオに死角なんてものは存在しない。

 最小限の動きで回避した。


「うちのシロ()様が絶対にオマエは殺せってさ」


**


 インベント本人は、ルベリオに対して強い感情を持っていない。

 アイナを刺さしたのがルベリオではあるものの、アイナは生きている。

 そしてあの頃はクロに乗っ取られていたため、感情も記憶も曖昧。


 ルベリオはちょっと悪い奴程度にしか思っていないのだ。


 だがシロとクロはルベリオのことを警戒していた。

 正確に言えばシロが非常に警戒していた。


 警戒というよりも、明確に排除しなければいけない対象――抹殺対象だと思っている。


『私……ルベリオってやつだけは殺しちゃうべきだと思ってるの』


 一年以上前、シロはクロに相談していた。

 クロは基本的には事なかれ主義なシロの明確な殺意に驚いた。


『穏やかじゃないねえ。なんでまた?』


『あいつの能力って凄い広範囲の探知でしょ?』


『まあ……そうだな。後は先読み能力とかか。

 カカ、でもまあ負けやしねえよ。ベン太郎も強くなってるし、対人戦なら私がいるしな』


『うん、戦いに関しては心配していないの。

 だけど……暗殺ならどう?』


『あ~なるほど』


 シロの言わんとすることを理解しクロは頷いた。

 シロは胸の近くで両手を組んだ。それはシロが不安な時の仕草である。


『誰にも気づかれずに町に侵入して、寝込みを襲われたら……。

 あいつならそれ出来るよね? 私たちだって24時間警戒なんてできないし……』


『そりゃあまあ、そうだな』


『絶対危険だよね。どうにか排除しないと』


 シロはインベントの死に恐怖を覚えている。

 それはインベントが死んでしまえば自身がどうなるかわからないからである。


『まあ……ルベリオが危険なのはわかるよ。

 とはいえこっちから探すのも難しいしな』


『うん……それはそうだね』


『カッカッカ、ま、発見したらサクっと殺しちまおうぜ。

 それでいいだろ? 心配性のシロちゃんよ』


 シロは頷いた。



**


 シロの心情としてはルベリオを早急に殺したい。

 それはインベントを護るためである。


 クロはシロがルベリオを殺したがっているので、その願いを叶えてあげたい。


 しかしインベントはルベリオを殺すことに乗り気ではない。


 そんなチグハグなインベントたちの心模様。

 だがそんなことクロは気にしていない。


 一度勝っている相手との再戦。

 不安要素などなにも無い。


「カッカッカ、今回は逃がしてやらねえからな」


 ルベリオはただただ愉悦の笑みを浮かべるだけ。 



 数年越しの再戦が始まる。

 足並みならぬ心並みは揃わぬまま。

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