なんと いんべんとがおきあがり なかまになりたそうに こちらをみている
邂逅したインベントとルベリオ。
ルベリオは邪魔者だったラゼンがいなくなり、やっと二人きりになれたことを喜んだ。
そしてインベントは――
「――――ええ~、でも……まだ――う~ん」
首を小さく捻ったり、ぼそぼそとなにかを呟いている。
その奇怪な仕草や、表情の変化もルベリオを興奮させる。
それでこそインベントなのだ。
そんな時、ルベリオ後方の茂みがガサガサと音を立てた。
毛髪が青い人型モンスターが現れたのだ。
目を細めるインベント。明らかに警戒していることを察したルベリオ。
「おい、オクトゥ」
人型モンスターに呼びかけるルベリオ。
人型モンスターは呼びかけに反応し、インベントはその様子を興味深く見ていた。
「お前はもう帰っていいよ。ボクはインベントと遊ぶからさ」
首を捻る人型モンスター。その仕草がインベントには人間のように見えた。
ルベリオは少々苛立った顔で彼方を指差す。
「戻るんだよオクトゥ。
ほら、はやく帰れ。家に戻れ」
人型モンスターは動き始めた。
ルベリオのことをチラチラと見やりつつ去っていく。
完全に見えなくなってから、ルベリオは笑みを浮かべインベントを見た。
「さあ、これで邪魔者はいなくなったよ」
ルベリオはインベントに近づいてくる。
その距離は声を張り上げなくても会話できる距離まで。
つまり、いつでも手が届く――殺し合いができる距離へ。
「――ねえ」
「ふふ、なんだい?」
「オクトゥってのは名前なの?」
「ん? ああ、そうだね」
インベントは笑う。
「そっか。名前かあ。くふふ。
ねえ、それはモンスターの名前?
それとも――人間の時の名前?」
今度はルベリオが笑う。
それは驚きを隠すための咄嗟の笑みだった。
ルベリオは努めて冷静に――
「ハハ、ボクは人間の時の名前なんて知らないよ。
いや、聞いたかもしれないけどさ、もう忘れちゃったね。忘れちゃったよ」
と答える。
「ふ~ん、なるほどね」
「でもそっか、アレが元人間だなんてよく知っていたね」
「ん? ああ、この前さっきのに似た人型と戦ったからね。
途中から喋りだしたから、人間がモンスター化したんだなってさ」
ルベリオは首に手を回した。
「この前……? もしかして最近の話かい? 毛が白いやつだったかい?」
「うん、そうだね。もっと南、オセラシアの近くの森だったね」
ルベリオは手を口にあて、くるりと反転しインベントに背を向けた。
「フ、フフ、そっか。セプテムを殺したのはキミだったのか。
これはハハハ! フフ、あ~おかしいおかしい。
いやはやアドリーには悪いことしたなあ、まあいいけどさ」
「セプテム?」
「あ、セプテムっていうのはキミが殺した白いやつの名前さ。
アドリーが逃がしちゃったんじゃないかと思ってたんだけど……そっかインベントだったのか」
「殺してはいないよ」
「え?」
「最後、逃げられちゃったからね。
まあ結構なダメージは与えたから死んだかもしれないけどさ」
インベントは思い返す。
腹を貫通させ致命傷を与えたはずの『白猿』だが、どうにか腹部の傷は塞がったものの大量の毛髪が抜け落ち、「オデハオニイサン」と連呼しつつ逃げてしまったことを。
その様はモンスターから人間に戻ったかのようだったことを。
ルベリオは髪を掻き上げつつ、いつの間にかインベントのペースにのまれていることに気付く。
ここらで反撃の一つでもしなければと目を見開いた。
「ま、あんなのが生きてようが死んでいようが構わないけどさ。
でも意外だなあ。キミはイング王国のなんだろう?
こんな遠い場所まで輸送団を助けに来るんなんて、献身的だよねえ。
それにタイミングが良すぎるよね。まるで……輸送団が襲われることを予知していたみたいだ」
インベントの行動からインベントの思考や立場を推察し、揺さぶりをかけようとするルベリオ。
ルベリオはイング王国側に予知能力を持つ人間がいることは知っている。
それがデリータであることや、『宵蛇』に属しているかまでは知らない。
ましてやクリエの存在など知る由もない。
だがインベントは予知能力を持つ者と繋がりがあるのは明白。
ルベリオは情報を整理した結果、インベントが予知能力を持つ者の懐刀のような存在だと結論付けた。
だがその推察が的外れだった。
「イング王国は――随分とボクたちを鬱陶しいと思っているのかな?」
インベントはきょとんとする。
まったく動じず「知らないよ」と言い返した。
ルベリオは相手の挙動や仕草から動きを予測したり、感情を読む事を得意としている。
噓発見器のような存在なのだ。
だがインベントの行動原理は非常に予測しづらい。
「知らないよ」と言ったインベントは嘘をついていないように思えた。
しかしそれさえも偽っている可能性も捨てきれずにいた。
結局のところ揺さぶりをかけたつもりが、揺さぶられる始末。
インベントは「そんなことよりさ」目を輝かせた。
「なんだい?」
「ルベリオは――いや『星堕』だっけ?
なんでもいいけどモンスターをさ……ふふ、ふぇへ、モンスターを創っているのかい?」
ルベリオは納得し、頷いた。
(なるほどね。
ボクたちがモンスターをつくっていることを脅威に思っているのか。
だから潰そうとしてるわけだね)
「まあそうだね」
インベントは手を叩いて喜ぶ。
「ど、ど、どうやってるんだい!?」
「え? どう……って言われても、ボクはよく知らいないよ。
やっているのはラーエフだしね」
インベントは小躍りして喜ぶ。
その喜び具合は常軌を逸している。
「ラーエフ? いやいやラーエフさん。
え? そのラーエフさんがモンスターを創っていらっしゃる?
ラーエフさんをリーダーとして、みんなで創っている?」
「え? いや、ほとんどはラーエフが単独でやっているけど」
「た、た、た、たん、単独ゥ!?
モンスターを創りをたったひとりでェ!?
か、かっ、神じゃん! まごうこと無き神、想像神!」
そもそも変人だとは思っていた。
だが、なにを喜んでいるのか意味が分からないルベリオ。
(ラーエフがモンスターをつくっていることを知って喜ぶ理由がわからない。
相変わらず本当に予測不能だよ、ふふふ)
困惑を楽しむルベリオに、正解を導くためのピースが与えられた。
インベントは両手を擦り合わせ、懇願するように喋り始めた。
「ねえねえルベリオ~」
「ん? なんだい?」
「そのお~、是非ですね~、そのラーエフさんとやらにお会いしたいんですよ」
「ラーエフに……会いたい?」
「うん! お願いお願い!」
ルベリオは沈黙した。
なぜインベントがラーエフに会いたいのか熟考した。
もしもルベリオが聞けば、インベントは答えただろう。
インベントはモンスターが大好きであり、モンスターを創り出す方法を知りたいのだ。
ラーエフなる人物はインベントにとって羨望の的である。
だが――
(そうか……ラーエフを殺したいんだねえ)
大いなる勘違い。
その勘違いが向かう先は――




