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ロメロメロメロ

 イング王国広しといえど【太陽ソエイル】のルーンを授かる者は少ない。

 燃費に難があるとはいえ、希少価値に見合った強力なルーンである。


 【太陽ソエイル】のルーン持ちの中でも――いや【太陽ソエイル】関係無しに最強であるロメロだが、もしも『陽剣』の名を継承するならば筆頭候補はラゼンである。

 ロメロを除けば【太陽ソエイル】持ちの中で群を抜いて強いのがラゼンなのだ。


 ラゼンはイング王国北部の町で生まれた。

 【太陽ソエイル】持ちの時点で『ロメロの後継者』や『第二の陽剣』ともてはやされることが多いが、ラゼンは本当にその器だった。


 それはロメロ本人も認めている。いや――認めていた。


 ラゼンが12歳の時、前触れもなく現れたロメロ。

 「ちょっと遊ぼう」と木の棒片手に模擬戦を始めた。


 ラゼンは『陽剣』に関する話は尾ひれがつきすぎた話だと思っていた。

 ひとりの人間にできることなどたかが知れていると思っていた。

 だが『陽剣』は本物だった。本物の剣神だった。


 ラゼンはものの数分で魅入られた。

 あまりにも乖離している実力差に、ラゼンは打ち震えた。

 人生の目標がロメロになった。


 それから不定期だがロメロがやってくるようになった。

 ふらっと現れて模擬戦をして、そのまま去っていく。

 まるで軽く飲みにやってきて帰っていくかのように。


 ロメロはアドバイスの類は一切しない。

 だがラゼンは模擬戦を重ねる度に強くなった。


 強くなればロメロは喜んでくれた。


 一年が経ち「殺すつもりでこい」と言われた。

 ラゼンはどうしたらいいのかよくわからなかった。


 ロメロは笑いながら、ラゼンを連れて森の奥へ。

 初めて森の奥へとやってきたラゼンは、これまた初めてモンスターと出会う。

 身の丈ほどのボアタイプ。ラゼンは足が竦んだ。


 なにがなんだかわからぬ状況だがとにかく目の前のモンスターを殺さなければならない。

 ラゼンは本来ならば使わない「殺す」や「死ね」を連呼していた。自らに暗示をかけるかのように。

 そして見事モンスターを殺した。


 モンスターを斬った余韻で全身が熱くなっていたラゼン。

 ロメロは「その感覚だな」と笑っていた。


 あの日以来、ラゼンは口が悪くなった。

 いつもは物静かなのだが、殺意と連動し荒々しい発言をするようになったのだ。


 一歩間違えば死ぬ戦いを模擬戦と呼んでいいのかわからないが、ラゼンは恐ろしいスピードで成長していく。


 どうすればロメロを殺せるのか?

 頂が見えぬ山を登り続けているような挑戦。


 確実に実力差は縮まっている。

 そう信じて研鑽してきた。


**


 ラゼンがロメロと出会ってから八年が過ぎた。


 突如メティエ女王から呼び出され、新設する国家直轄部隊の隊長になることを命じられた。

 部隊名はラゼンの希望で『あかつき』に。

 『宵蛇よいばみ』の宵に対抗し『あかつき』と名付けた。


 だがロメロは名前負けしてると笑い――


「そうだな。ひよっこ部隊だから『陽だまり』ってとこだろ」


 ――とどこかで言った。

 だがロメロの影響力は凄まじく、いつの間にか『陽だまり』で定着してしまった。


**


 『陽だまり』――もとい『暁』のリーダーになってからは、ロメロとの模擬戦は減っていった。

 『暁』が大きく力をつけた結果、『暁』がいる場所に『宵蛇よいばみ』が出向く必要が無くなったからである。


 ロメロと会う機会が減り、ラゼンはどこか冷静になっていく自分に気付く。

 いつか届くと思っていた『陽剣』の背中が、いつまで経ってもとどかないのではないかと思うようになった。


 そんなことは無いと言い聞かせ、ラゼンは任務に没頭した。

 だがそんなラゼンを見透かしたかのような事態が起きる。


**


「え? いない?」


 『宵蛇よいばみ』よ『暁』が合流する機会があった。

 ラゼンは久々にロメロと手合わせができると思ったが、そこにロメロはいなかった。


 聞くところによるとロメロとフラウの二名は別行動をとっているとのことだった。

 なにやら『インベント』なる少年と行動を共にしているらしい。


 ラゼンはチクリと胸が痛んだ。

 まるでデートの相手をとられたかのような気分。

 だが、ロメロがラゼン以外とも模擬戦をしていることは知っている。

 その『インベント』とやらもそのうちのひとりだろうと。


 しかしロメロは浮気性である。そして飽き性。

 ラゼンは10年近く模擬戦を続けているのは自分だけだと自負している。


**


 気付けば一年以上ロメロと会えずじまい。

 心なしか『陽剣のロメロ』のウワサを聞く機会も減った気がする。


 まさか死んだのではないかと心配するラゼンだが、ロメロが死ぬわけがないと頭を振る。

 だがもしものことがあるかもしれない――そんな堂々巡り。


「――よう」


 そんな中、ふらりと現れたロメロ。

 驚き、言葉に詰まるラゼン。


 話したい。思いをぶつけたい。

 だがロメロはゆっくりと剣を抜いた。


 ラゼンは我に返る。

 剣を介してしか意思疎通できない関係であることを。


「ブッ殺す!」


 荒々しい言葉で自らの殺意を焚きつける。

 精神が研ぎ澄まされていく。


 挨拶代わりとばかりに、斬撃一閃。

 控えめに言って好調。剣も身体も軽い。


 ラゼンは幽力を剣に纏わせていく。


 連撃。

 全てが一撃必殺。

 当然の如く受け流すロメロ。

 構わず攻撃を続けるラゼン。


 無茶は承知の上。

 偶然の産物でも構わない。

 突破口になるなにかを探し、攻撃を続ける。


 ロメロ相手に何度が経験したことがある、暗闇から一筋の光を発見するような感覚。

 ロメロを驚かせ、喜ばせたあの経験をもう一度。


 だが、攻めているはずのラゼンが逃げ場を失っていくような閉塞感を覚えていた。


(――全く歯が立たない。どうして?)


 絶望的な隔たりを自覚したラゼン。

 まるで自分が弱くなってしまったのではないかと錯覚した。

 だがそうではない。


 あろうことか久方ぶりのロメロは凄味を増していた。強くなっていた。


 ラゼンの三手に対し、ロメロも三手繰り出す。

 全てを見透かした最適で残酷なロメロの剣。

 ラゼンは動けなくなってしまう。


 ロメロは剣を仕舞う。

 呆然としているラゼンに対し――


「じゃあな」


 と言い去っていく。そして――


「もう、会うことも無いだろう」


 ――と決別を告げた。あまりにも唐突に当然のことのように。


「な、なぜ!?

 俺が……俺が弱いからですか!?」


 思わず問うラゼン。


「ハハハ、お前は弱くない。

 しかしまあ、適任者だと思ったが……むしろ俺のせいだろうな」


「は? 適任者? どういう――」


「こればっかりは仕方のないことだ。ま、達者でな」


 ロメロの言葉が理解できない。

 悲しきかなロメロも説明する気が無い。

 去り行くロメロに対し――


「その……適任者ってのは()()()()()なんですか!?」


 どうにか言葉を紡いだラゼン。ロメロは振り返り、目を見開いた。


「インベント……知ってるのか?」


「し、知りませんよ。『宵蛇よいばみ』の人が言ってただけです」


 ロメロは視線を宙に。

 楽しそうな――それでいて名残惜しそうな顔をした。


 ラゼンはインベントとやらのことを考えているのだとすぐに理解した。

 そしてたまらなく嫌な気持ちになった。


「適任者……だと思ったんだがな」


「え?」


「違うと言われてしまったが、どうにも諦めがつかん。

 ま、あと数年で答えが出るだろうさ。ハハハ」


 結局ロメロが何を言いたいのかわからずじまい。

 別れを告げられた惨めさと、インベントとやらに対しての嫉妬だけが残った。



****


 それから数年後。

 オセラシアからの帰り道。


 思いもよらぬ場所でインベントと邂逅するなど露知らず。

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