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悪魔の親

 なにかが起こりそうな予感。

 人生が好転していく予感。


 溢れる高揚感からか、何度指摘されても無意識に笑ってしまう。

 そんな笑顔を隠すために、倉庫に眠っていたフェイスマスクを装着した。


 漆黒アビス装備シリーズの頭防具として作らせた一品は、刺々しく禍々しい。

 顔の下半分を隠すフェイスマスクは防具としての意味――身体を守るという点では無意味な一品

 表情を隠すことはできても、マスクから漏れる声はより気色の悪いものとなった。


 準備万端で飛び立ったインベント。


 長く時を過ごした駐屯地を経由し、いざ南へ。

 駐屯地に対し懐古の情は一切なく素通り。


 そして現れる一本道。

 南へと続くか細い道。


 降り立ってみる。

 これが猪たちが造った道かと想像し、身震いする。

 馬車一台が通るのがやっとの道が輝いて見えた。


 自然と右手は視界の右下へ。

 インベントにだけは『スタート』の文字が見えていた。


 文字にタッチした瞬間、見慣れた光の演出。

 粋な演出は精神の同居人からのサプライズである。


 インベントの天を仰ぎ笑う。

 フェイスマスクに変形機構など無いが、まるで仮面までもが笑っているかのように笑い声が一帯に響き渡る。


 笑い疲れ、ゆっくりと歩を進める。

 そして駆け――翔けた。


 クリエのお陰でこの先でイベントが発生することは決定事項。

 だがイベントの内容は不明。


 ハズレ無しのくじ引きを引くような気分。

 願わくば大当たりを。そう願いながら南下していく。


 見過ごさないように注意深く突き進むが、取り越し苦労だった。

 遠くで聞こえる心地よい振動に目を見開く。

 五感を総動員し振動の発生源を探すが、幸運なことにソレはインベントの方へ勝手にやってくる。


 馬車とそれを追うモンスター。

 否――。モンスターとモンスターに追われる馬車。


「ナンダア? あっれえ? なんだなんだ!?」


 巨体が走っている。モンスターで間違いない。

 間違いないはずなのだが、どうにも確信が持てない。


 上空から見ると大岩が猛スピードで動いているように見えるからだ。


「え? ナニアレ!

 岩のような見た目……クフフ。

 まさか……ロックサルモス? いやガラキン!?

 待て待て! 岩のような見た目のモンスターは結構いるぞ」


 モンスターブレイカーの中では岩のような見た目のモンスターはかなり存在する。

 だが、こちらの世界では見たことが無い。

 想像力を掻き立てられるインベント。


 そんな最中、馬車の荷台が持ち上がるように吹き飛ぶ。

 続けて荷台が粉砕された。


「おお~なかなかのパワー!」


 馬車から誰かが逃げていくが、インベントは興味を示さない。

 ただただ観察を続ける。情報収集は狩りの基本だからである。


 だが、なぜか息苦しさを感じ始めたインベント。

 大きく息を吸い、大きく息を吐く。


「なんだ……喉が締め付けられているような……。

 まさか、毒か?」


 自らの首に手を触れようとするインベントだが、柔らかいナニカに触れた。

 そして――やっと気づく。


『降ろせ! 降ろせってんだろ! バカバカ!』


 背中にアイナがいたことを。

 そして首を絞められていることを。


「あ、アイナ。だめだめ……死んじゃうよ」


 パンパンとアイナの手を叩くインベント。


『おい! 多分輸送団の誰かが追われてんだ!

 あのあたりにアタシをとりあえず降ろせ!

 そんでもってオマエはモンスターを引き付けろ!』


「わかった……わかったから離して」


 インベントは大急ぎでアイナが指示した地点へ降下。

 アイナを降ろした後、モンスターを見る。


 猛スピードで迫るモンスターに対し、砂袋を投げつけた。

 注意はインベントへ。


「うはは、ふふ」


 追いかけてくるモンスターから逃げるインベント。

 だが思ったよりも遅い。


「おお……おお? お~う?」


 モンスターは横幅が大きく、森林を縫うように走ることに苦労していた。

 後方を確認しつつ、モンスターを観察する。


(うん、これはイイ。モンブレっぽいモンスターだ。

 だけど……なんだ、こいつ?)


 インベントがこれまで見てきたモンスターと一線を画す、岩っぽい見た目なのだ。

 だが基となった生物がなにかわからない。


(体毛が無いぞ……。ドレークタイプっぽいな。

 だけど、大きな岩を背負ってる……というか同化してるし、身体の各所に岩がくっ付いてる?

 んん? これは……)


 インベントが出した結論、それは――


「オマエ……岩と合体したドレークタイプだな!

 ハハハ、素晴らしい! モンスターと物体の合体に成功したのか!?

 面白い! 実に面白い!! クフフ、ハハハハハ!」



****


 一方その頃。


 アイナは輸送団の人の介抱を行っていた。

 全速力で走った結果、酸欠状態に陥っていたが徐々に回復してきている。

 だが次は腰部の痛みで動けなくなっている。


 馬車から落ちた際に強く打っていたのだ。


「まいったな……こりゃ」


 輸送団の人の背中をさするアイナだが、周辺の警戒は怠らない。

 今いる場所はいつモンスターが襲いかかってきてもおかしくない危険地帯。

 腰を痛めたおっさんというお荷物を抱えている今、低ランクモンスターにも会いたくない状況。


(クリエさんが造った道まで戻ろうと思ったんだけど、さすがにおっさんを抱えるのは無理だ。

 少しでも安全な場所に移動したいけど……)


 アイナは輸送団の人を見る。

 疲労と痛みですぐには動ける状態ではないのは明らか。


(くっそ~……インベントと別れたのは失敗だったか。

 早く戻ってきてくれ~。

 あ、そうだ狼煙のろしの準備しとくか)


 インベントと別れてからまだ10分程度。

 さすがにまだ早いとは思いつつも、剣で鞘を叩き周囲を警戒しつつ、小枝を集めるアイナ。


 だが、突如アイナの眼前に真っ黒な悪魔が現れた。

 アイナは思わず「ぎゃああ!?」と叫ぶ。


「ただいま」


 全身真っ黒な漆黒アビス装備に、さらにフェイスマスクまでしているインベントは、悪魔と見紛う存在感を発揮していた。


「と、突然その恰好で現れるんじゃねえよ!

 そ、それにモンスターはどうしたんだ? お前早すぎんだろ!?

 まさか、逃げてきたのか?」


 インベントは鼻で笑う。


「いや、もう狩り終わったから」


「へ!? もう終わったの?」


「うん。見た目は面白かったんだけどねえ、弱かったから」


「そ、そか。にしても、よくこの場所がわかったな」


「カンカン音が鳴ってたしね」


「そっかそっか。シシシ、よく戻ってきたな偉いぞ~」


「ふふ、子供じゃないんだから」


「いやいや~、門限を守らず、無断で外泊するような悪い奴がいるらしいんだ」


 インベントはばつが悪そうに顔を背ける。


「ま、いいや。とりえあずこっちに来てくれ。

 輸送団の人だけど、腰を痛めてるんだ」


 アイナが指差した先には横たわっている人物が。

 インベントは「輸送団の人?」と首を傾げる。


「馬車に乗ってた人だよ」


「ああ、あの馬車、人が乗ってたんだ」


 アイナは呆れた。


「ハア……馬車から人が逃げたの見てなかったんだな。

 もういい、ホレ、こっちこい」


「はあ~い」


 アイナに連れられて、輸送団の人の前に連れてこられたインベント。

 そして――


「あれ? 父さん?」



 父ロイド――悪魔になった我が子との再会。

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― 新着の感想 ―
[一言] 亀っぽいな。なら、頭を潰せば死ぬか。 警備隊が負けたのは、頭を潰す手段がなかった。 相性差で圧勝したのか。
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