幕間 神隠し
総合評価500ポイント突破しました~ありがとうございます。
アイレドよりも東。
アイレドから馬車で三日かかる町、カイルーン。
カイルーン森林警備隊、駐屯地にて――
ベルケン隊は文字通りベルケンを隊長とする部隊だ。
五名で構成され、メンバーは五年変わっていない。
非常に安定しており評価の高い部隊である。
「よ~し行こうか」
ベルケンが号令をかけ調査に向かう。
「隊長、忘れものですよ」
隊員であるエレナが昼食を手渡した。
「おっ、愛妻弁当ですか~」
「いやはや羨ましいですな~」
同じく隊員の、ビックとスエッジが茶々を入れた。
ベルケンとエレナは恋仲にある。そして結婚の約束もしている。
「う、うるせえな!」
ベルケンは照れ隠し、エレナは俯いた。
「はいはい。さっさと行きましょうね~」
チーム最年少のサイーブはすまし顔で出発を促す。
「そ、そうだな。今日はサウスエッジに行くぞ」
「「「了解!」」」
ベルケン隊は出発した。
**
ベルケン隊は非常にバランスが良い。
回復役のサイーブと探知役のエレナ。
ビックとスエッジはアタッカーもディフェンダーもできる万能タイプ。
そしてベルケンも万能タイプだ。
「しかしエレナさんが隊を抜けちゃうと、結構困りますよね」
「ん? ああ……まあそうだな」
サイーブが世間話程度にベルケンに話しかけ、ベルケンは歯切れ悪く応えた。
エレナのルーンは【人】であり貴重だ。
替えが一番きかない人材である。
「ま、ご結婚ですから仕方ないんですけど、【人】持ちの人材なんて都合良く確保できるんですか?」
「そうだな……まあこればっかりは……運だな」
「それもそうですね」
「とはいえ、俺たちの部隊は実績もある。
優先して回してくれると思うぞ。
それに今年の新人はかなり優秀だって噂だしな」
サイーブはクールに笑う。
「噂なんて信用できませんけどね。
数年前だって、超優秀だって言われてた女の子が実はポンコツだったじゃないですか。
確か……アイナとか言いましたっけ?
そう言えば森林警備隊辞めちゃったのかな?」
「ん? あ~、ま~そんなこともあったな」
「まあいいですけどね」
ベルケンは物思いに耽った。
(サイーブの言い分ももっともだ。
エレナと結婚することで、エレナは森林警備隊を辞める。
二人で話し合ったことだけど……まあモヤモヤするな)
**
「あれ?」
「どうした? エレナ?」
エレナは首を傾げている。
「モンスター反応があった気がしたんだけど……う~ん?」
「なんだよ?」
「いなくなっちゃったのよね」
「ふ~ん。勘違いじゃねえの?」
「それは無い」
エレナは断言した。
エレナが言うのであれば間違いないと、長年の付き合いで全員が同じように判断した。
「だったら俺たちで確認しに行きましょうや」
「そうっすね」
ビックとスエッジが提案した。
「んじゃあ俺も行くよ。
エレナとサイーブは火の番をしておいてくれ」
「わかった」
「了解です」
**
ベルケン、ビック、スエッジの三名はモンスターがいないかどうか確認に向かう。
「……痕跡も何も無いっすね」
「そうですな」
「やっぱり勘違い……ではないか」
エレナの探知精度の高さは隊員はよく知っていた。
「もう少し探してみよう」
「そうっすね。早く愛妻弁当食べたいですもんね」
「う、うるせえ! さっさと探すぞ」
だが――モンスターの形跡を探したものの、なにも見つからなかった。
「いねえな」
「いないっすね」
「う~ん。やっぱりあれじゃないですか」
ニヤニヤするビック。
「なんだよ、ビック?」
「隊長とラブラブなせいで探知がバグっちゃったんですよ」
「う、うるせえな! まあこれだけ探してもいないんだ。
ま、二人のところに戻――」
そういって振り返ったベルケン。
その直後――
聞いたことのない音と衝撃を背後に感じた。
すぐに振り返るベルケン。
そして――
「モ、モン――、ビ、ビック??」
振り返ると探し続けていたであろうモンスターがいた。
だけどいるべきビックがいない。
「た、た、隊長!! あ、足元――!!」
スエッジの動転した声を聞き、モンスターの足元を見た。
そこにはビックらしき肉塊がある。
そこで気が付いたのだ。
このモンスターにビックがやられたことを。
ベルケンは頭に血が上った。
「て、てめえ!!」
ベルケンは大鉈を振るいモンスターの頭蓋を狙った。
だが――
「ひ、光った!?」
モンスターの右掌から右肘にかけて発光しだした。
ベルケンの攻撃は光に阻まれ、業物の一刀は簡単に折れてしまった。
「隊長!!!!」
スエッジがナイフを投げ、モンスターの頭蓋を掠めた。
「コイツやばいっすよ! 撤退しましょう!」
「ぐ……!!」
ベルケンは目の前に転がるビックの肉塊を見て頭に血が上りそうになる自分と、隊長として冷静な判断を下さないといけない二人の自分が鬩ぎあう。
(れ、冷静になれ……。このモンスターは……二人では勝てない……)
目の前のモンスターはエイプタイプ。
サイズは人と同程度。通常ならCランクと判断される。
(だが……アレは【太陽】だ……。
【太陽】持ちのモンスターなんて……B……いやAランクと扱われてもおかしくない)
ベルケンは武器を構えながら――
「――退くぞ」
「え、ええ」
二人は逃げることを選択した。
だがただ逃げるにしても簡単な話ではない。
全速力で逃げたとしてもモンスターのほうが最大速度は上だ。
攻撃を避けつつチャンスをつくり逃げるしかないのだ。
「攻撃はとにかく避けろよ!」
「ええ!」
ジワジワと後退するがモンスターは気にせず真っすぐ飛びかかってくる。
防御不可の攻撃を持っているモンスターに対し、二人はどうにか回避しつつ応戦する。
腕は光ったり光らなかったりするが全て避ける。
防御に比べ回避は神経をすり減らされるが、二人は熟練の動きで避け続ける。
何せ【太陽】の攻撃は防御不可攻撃である。
「な、なんとかなりそうっすね!」
「馬鹿! 集中しろ!」
(絶望的かと思ったが……こりゃあなんとかなるかもしれねえ。
コイツ……動きはそれほど鋭くない!)
死地の中で見つけた光明。
避けるだけならなんとかなると安堵したその時――
「――アオ」
モンスターは空を見た。
戦闘中に見せた異常行動にベルケンは――
(俺たちへの興味が薄れた??)
だが――
モンスターは笑ったかのような顔になった。
そして胸部を膨らませ――
次の瞬間――
「アガアアーー!!」
口を開くと同時に光が放射され――
「ああああああぁぁあ!!」
スエッジの叫び声を聞いたベルケンはスエッジを見た。
スエッジの左半身が吹き飛んでいた。
「す、スエーーーーーッジ!!」
どうしていいのかわからずベルケンは狼狽する。
「す、スエッジ……」
「た、たいちょお……」
ベルケンは緊張の糸が切れ、地面に崩れ落ちてしまった。
「す、す、スエ……」
「エレ……ナさんのところ……え」
「え?」
スエッジは言葉を話すのだけでも奇跡的な状況だ。
ベルケンは一言も聞き漏らさないように耳を傾けた。
そして最後の一言は「ニ……ゲ……テ」だった。
「ぐ、ぐおお……スエッジー!!」
怒りで奥歯をかみしめるが、ふと疑問が湧いてくる。
(なんで……俺は……まだ……生きてる??)
ゆっくりとモンスターのほうに視線を向けるベルケン。
だが――
(い、いない?)
モンスターはいなくなっている。
一瞬呆けそうになったが、ベルケンは上空を見上げた。
ビックは上からの攻撃でやられていたからだ。
だがモンスターはいない。
(……どういうことだ?)
ベルケンはゆっくりと歩き始めた。
ビックとスエッジには悪いと思ったものの、エレナのもとに急いだ。
(ここはヤバイ! さっさと安全区域まで逃げねえと!!)
ベルケンは周囲を警戒しつつも走った。
そしてすぐにエレナたちがいたであろう場所に到着した。
「え、エレナ? サイーブ?」
二人の姿は無い。
焚火の準備は残っているが、二人の痕跡は無い。
「ど、どこだ!」
ベルケンは危険だと知りつつも叫ばずにはいられなかった。
「エレナ!! サイーブ!!」
ありえない状況。
ビックとスエッジは死亡。
そしてエレナとサイーブは行方不明。
(逃げたのか? そうか逃げたのかもしれない)
ベルケン達を置いて逃げるわけなどありえない。
だがベルケンの思考回路は壊れていた。
(戻ろう……。カイルーンの町へ)
ベルケンは歩き出す。
だがベルケン隊のメンバーは誰一人カイルーンの町に戻ることは無かった。
一章はここで終わりです。
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