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なに考えてるかわからんのじゃ!

 インベントには見て見ぬふりしている事実がある。

 それは――この世界は結局『モンスターブレイカー』の世界では無いという事だ。


 モンスターはいつまで経っても属性攻撃や特殊攻撃をしてこない。

 モンスターの色は比較的地味で、理解不能でカッコイイ奇抜な形態も見られない。

 稲光が走るようなエフェクトは発生しないし、超高性能な地図も無い。

 鍛冶師の概念を逸脱した天才もいない、マスコットキャラクターもいない。

 どれだけ筋力をつけ武器を改造しても、必殺技は使えない。オーラが溜まって放出することもできない。


 理想を追い求めても、『モンスターブレイカー』の世界には届かない。


 だが――――


**


「取引しませんか?」


 想定通りの動きをしてくれないインベント。

 このタイミングで飛び出した『取引』という言葉。

 クリエは自身がどっと老け込んでいる気がしていた。


(何を言いだすかと思えば()()とな。

 取引というからには、私がなにかを与えなければならんということ。

 この坊はなにが欲しいのじゃ?

 わからん。もうさ~っぱりわからん。

 私の身体が欲しいのであればいくらでもくれてやるんじゃがのう。ハア)


 意味不明。思い通りにいかない。理解できない。

 だがインベントは目を輝かせながら話し始める。


「クリエさんは敵討ちをしたいわけですよね」


 クリエはゆっくりと頷く。


「そんでもってそのかたきは神出鬼没だけど、もしかしたら俺と会う可能性がある。

 で、そのかたきは『星堕ほしおとし』と関係がある……で合ってますか?」

「そうじゃのう」


 今度はインベントが頷いた。表情は僅かに笑みを含んでいるが、クリエにはその笑みの理由はわからない。


「――で、父さんもいるその輸送団とやらに『星堕ほしおとし』がちょっかいをかけてくる……のかな?」

「それは……恐らくとしか言えぬ。なぜなら――」


 インベントはクリエの発言を遮った。


「いや、まあ正直どっちでもいいんですよ。

 だけど……う~んそうだな~。クリエさんの返答次第では……行ってもいいですよ」

「――え?」


 クリエは眉を顰め、額の肉を摘まんだ。

 先程、行かないと言ったばかりなのに、今度は行くという。

 なにがなんだかわからないクリエ、そして――


「お、おい! 行かねえんじゃねえの?」


 クリエの思惑に乗らず、アイナの意見を尊重にしてくれたことに安心していたアイナ。

 これまたインベントの真逆の意見に右往左往。


 アイナの問いかけに対し、インベントは笑って誤魔化す。

 だが、その瞳からは意志の強さを感じていた。


「まあ、父さんを助けるためには動く気は無いよ」

「そ、それはそれでどうなんだよ……」

「手紙のモンスターは狩りたい……本当は狩りたいけど、まあいいや。だけど別の理由ならば行ってもいいかな。ふふ」


 クリエはインベントがなにを言っているのか理解できない。


「あ、そもそも論なんですけど、クリエさんってかたきを探してるんですよね?

 その『星堕ほしおとし』とかいう怪しい組織はどうしたいんですか?」

「む?」


 インベントの問いにクリエは頭を捻らせる。


(質問の意図がわからぬが……『星堕ほしおとし』などどうでもよい。

 オセラシアに大きな混乱を、そしてイング王国にも多少の面倒を引き起こしている組織。

 だがそんなもの本当にどうでもよい。どうでもよいが……むう)


 正直に答えるか迷うクリエ。

 返答次第でインベントの行動が変わるかもしれないからだ。


(なぜ……『星堕ほしおとし』のことを気にするのだ?

 まさか、その組織を叩き潰したいのか? 国に仇名す存在を滅したい?)


 クリエはインベントの表情を伺う。

 その顔からは、国、町、社会、誰かのために動く正義感など一ミリも垣間見ることはできない。


 クリエにはそんなインベントの背後に、ヘラヘラと笑うロメロが見えた。


 大きな力を持つからと言って、正しい心を持つとは限らない。

 そもそも正しさの定義など人や組織や国によっていかようにも変わる。


(想いだけでも、力だけでもだめなのじゃ。

 ロメロの阿呆とインベントはよく似ておる気がする。

 ま……同類という意味では私もか)


 ロメロ、インベント、そしてクリエ。

 方向性は違えども人並み以上の力を持つ三人。

 だが、国や社会のために力を使う気概は無い三人。


(だから違う。この男に正義感など皆無。

 インベントは誰かのために動く男ではない。

 父のピンチでも動かん男が……いや待てよ。そうかアイナのためならば動くかもしれん。

 となれば……復讐か! なるほど、そうに違いないのう!

 過去にアイナに重傷を負わせたのは『星堕ほしおとし』の輩だったな。

 なるほど読めた! インベントめ、『星堕ほしおとし』に対して復讐したいのじゃな。

 ふふ、ならば――)


 答えが見えた。


 クリエはインベントの顔を見る。

 そしてその笑みは、復讐のために迸る感情が発露した結果の笑みだと断定した。

 本来ならば憎しみに顔を歪めるのが一般的だが、インベントは憎しみで笑う性なのだと。


「インベントや」

「はい」

「私は世を捨てて久しい。今は訳あってイング王国のために力を貸しているがのう。

 そんな私でも『星堕ほしおとし』の行動は目に余る。

 やはり壊滅させるべき……べき……え?」


 見る見る表情が曇るインベント。そして悩みだした。


(え? 壊滅はだめなのか? 復讐じゃないのか?

 もう、ど、どう答えたらよいのじゃ!?)


「か、壊滅させてはいかんのか?」

「う~ん……だめではないですけど~。壊滅の定義によるっていうか~」


 壊滅。それは壊れて滅すること。

 クリエからすれば壊滅に定義もクソも無いのである。


「お、おい、インベント」

「なあに? アイナ」

「結局オマエ、どうしたいんだよ。全然意味わかんねえし」


 クリエは思わず大きく首を縦に振った。


 クリエはともかくアイナはインベントのことをかなり理解している。

 だからこそインベントの突飛な思考にもある程度ついていける。

 だが、今のインベントがなにを考えているのか全く理解できない。


 それもそのはず。インベントはつい最近心境の変化があったのだ。

 それは『白猿シロザル』と戦った後に、朧げに浮かんできた想い。

 そしてクリエとの会話を経て、朧げな想いはくっきりと輪郭を持ち始めた。


 何を隠そう不動の優先順位に変化が起きていたのだ。

 モンスターとアイナだけだった優先順位にもう一つ追加された。


 それは――


「クフ、クフフ」


 インベントは目を見開いてはいるものの、机や壁やアイナやクリエ、見えているはずのモノを見ていない。そしてぽつりぽつりと語り始める。


「『星堕ほしおとし』がなにをしたいのかはよくわからないんですよ。

 でも、ひとつだけ確かなことがあるんですよ。フフ。

 それは、モンスターをツクッテイルコト」


 インベントは首を大きく捻った。


「作っている? 造っている? 創っている?

軍隊鼠アーミーラット』とか『拘束されし魔狼フェンリル』の時は、増産って感じだったけどさ。あ、『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』もそうか。

 いや、増やすだけでも素晴らしいんだけどさ、ふぇふぇへ」


 モンスターの名前など知らぬクリエは、なんとなくしか理解できない。

 アイナは言葉は理解できても、なにが言いたいのかいまだにわからない。


 だが、話を中断することはできない。奇妙で禍々しい圧力を放っているインベントを止められない。


「でも『黒猿クロザル』や『白猿シロザル』は人間から創っている。

 多分、生きている人間をモンスター化させた……と思う。いや違うのかなあ? フフ。

 人間をモンスター化だよォ? そんなのどうやってやったのか想像をできない。

 モンスター化した人間なんてキモチワルイけどさ、でもさあ、人間をモンスター化させれるんだから……他の動物もモンスター化させられるんじゃないかなあ?

 嗚呼、どこまでできるんだろう? ゼロからモンスターを産みだせるのかなあ?

 それにさあ、モンスターを強化できたりするのかなあ?

 そうだ、そうだよ。モンスターを産むモンスターを創り出せるんだったら絶対にできるよねえ。

 なんて素晴らしいんだ。ハハ、フエッハッハハ」


 黒く渦巻く暴風。

 だが拡散するのではなく、風の密度が高まっていく。

 まるで無数の鋭利な黒刀が旋回しているかのような悪辣な暴風。


 暴風の中から赤黒い悪魔のような瞳がクリエを見ていた。



「ねえ、クリエさん。

 俺、俺さあ、モンスターを創り出す方法を知りたいんだよねえ」

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ...
[一言] あれー?あいつらよりやばいやつが主人公やっとるよー? ……なんで?! ついにゲームメイク側にも手を出すのか
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