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優先順位は父をも殺す

 唐突に話題に上がったインベントの父。

 まさに寝耳に水。


「現在、インベントの父上がどこにおるか知っておるか?」


 インベントは知らない。そもそも最後に会ったのはいつだったか思い出せないインベント。

 だが父のことは好きだし尊敬もしている。ただ会いに行く理由も無いので会っていないだけ。


「う~ん、アイレドにいるんじゃないですか? それか近くの宿場町とか」


 首を振るクリエ。


「インベントの父上――父上たちは()()()()()におる」

「へ?」

「お前たちはオセラシアに行ったことがあるから知っておるかもしれんが、オセラシア側は武器が足りん。だからアイレドの町から輸送団を組織し――」


 アイナは「ちょっと待ってよ!」と話を遮る。


「あ、ありえないでしょ輸送団なんて。オセラシアの武器が貧弱なのは確かにそうだった。

 だけど……輸送団? そんなこと聞いたことも無いし……」


 両国が過去に多少の交流があったことをアイナは知っている。だが交流が途絶えて久しいことも知っている。

 輸送団の存在など信じがたいのだが、クリエが話題に上げている時点で実現しているのは間違いないとも思っている。

 だが輸送団が簡単に実現できるはずがない。


 困惑するアイナに「ちゃんと説明する」とクリエは優しく声をかけた。


「輸送団の存在を信じられんのも無理はない。

 アイレドの町から南下する際、一番の問題。それは――道」


 頷くインベント。アイナは「あ、道もか」と言う。


「実はイング王国からオセラシアに向かうルートはある。ずっと使用していなかったがシュトリアの町から南下するルートはまだ道が残っておる。

 なにを隠そう少し前、オセラシアの王とクラマが馬車に乗ってやってきておるからのう」


 アイナはオセラシアの王――つまりゼナムスの顔がよぎり「嘘だろ……」と呟く。


「本来ならばシュトリアから南下させ物資を届ければよいのだが……あまり()が良くなったのでな。

 だからアイレドの町から南下させるルートを使用することに決まった」


 クリエは「決まった」と言ったが決めたのはクリエである。


「でもクリエさん」

「なんじゃインベント?」

「アイレドからオセラシアに道なんて無いでしょ?

 輸送団ってことは馬車なんだろうし、道も無い場所を馬は走れないよ?」


 インベントは一応運び屋の家の子。道の重要性は理解しているのだ。

 イング王国は国土のほぼ全域が森林地帯。そしてモンスターがどこでもうようよしている。

 そんなイング王国で町や宿場町、駐屯地を造っていく際にまず着手するのが道である。

 道が完成後、やっと拠点づくりが始まる。


「道は――ある」

「へ?」

「アイレド近くの駐屯地から道はもうできておる」

「え? いやいやそんな馬鹿な。オセラシアまでの道ですよね? そんな長距離なんて大工事……いや無理ですよ。それにそんな凄いことが起きていればカイルーンの町でも話題になるでしょ?」


 インベントはアイナを見て、アイナは首を振った。


「フフッ、道と行っても人が造った道ではないからのう。言うならば……ケモノ道」

「獣道? え? ……あ、まさかそういうこと!?」

「察しがええのう。道は――カリューたちで造った」

「ええ~! そりゃすげえや!」


 インベントは興奮している。それはカリューが地を馴らし道を造っていく様を想像したからである。

 インベントにとってカリューはモンスターでありながら狩ってはいけない対象として認識しているが、それでもモンスターはモンスター。モンスターが道を造ったなんてロマンたっぷりで興奮しているのだ。

 だが、クリエはなぜインベントが今日一番興奮しているのか理解できずにいた。


「猪たちを引き連れ数度往復した。上等な道では無いが馬車には問題無い道がすでにできておる」

「うは~! 今度見に行こうよアイナ」


 アイナは話のスケールが大きすぎて「あ、ああ、うん」と心無い返事しかできない。


「道さえあれば、後はモンスター対策をすれば輸送団は機能する。

 輸送団の護衛にはとびきり優秀な集団を用意しておる」


 アイナは「それって『宵蛇よいばみ』?」と尋ねるが――


「さすがに『宵蛇よいばみ』を護衛だけには使えん。

 育成中じゃった組織を拝借した。えっと……名前はなんじゃったかのう。

 『陽だまり』だったかなんだったか……」


 アイナは「随分と優しそうな名前っすね」と呟く。


「一応、『宵蛇よいばみ』の下部組織らしい。

 欠員があればすぐに補充できるようにとのことだが、欠員がなかなか出ぬせいで『陽だまり』も相当優秀な隊じゃよ。あれだけで大抵のモンスターは狩れる。

 まったく……用意周到なことよ」


 クリエは『さすが我が弟』と心の中で付け足した。

 顔が綻びそうになるクリエだが咳払いを一つ。


「輸送団はアイレドの町の運び屋を八名と『陽だまり』の十名に加え世話役が数名」

「その中に父さんが入っていると」

「そうじゃ」


 インベントは父ロイドのことを思う。そして笑みを浮かべた。


(報酬に釣られた……というか名誉に釣られたのかな?

 『オセラシアとイング王国の架け橋』とか言われたんじゃないの?

 ふふ、父さんらしいな)


「輸送団は今回二回目。数日前に出発しそろそろ戻る予定。

 しかし……恐らく邪魔されている。さすがに全滅は無いと思うが……」


 上目遣いでクリエがインベントを見る。

 ドキリとしてしまう妖艶さを醸し出すが、悲しきかなインベントには効果が無い。


 だがインベントは腕組みし考え込んでいる。

 父の安否を気にしてか、その表情は硬い。


 アイナは顔を顰めていた。


(インベントの父ちゃんがピンチってわけか。

 だったら仕方ねえんだろうけど……なんか掌で踊らされる気がして癪だな)


 クリエのことを油断ならない存在と思いつつも――今回ばかりは仕方がないと思うアイナ。なにせ父親のピンチである。

 クリエもさすがに父親に危機が迫っていると判れば動かざるを得ないと思っている。これこそがインベントを動かす絶対の一手。だが――


「まあ、しょうがないですよね~」


 インベントが言う。それを聞いたクリエは満足そうに頷いた。

 続けてインベントが「自業自得ですし」と言い、そして黙った。


 流れる沈黙。

 急遽不安に襲われるクリエ。不安を払拭するために言葉を紡ぐ。


「ゆえ、明日の朝には現地へ向かって欲しい」


 インベントは鼻で笑う。


「いや、行きませんけど」

「え?」

「え?」


 耳を疑うアイナとクリエ。

 クリエは「い、行かないの?」とこれまでの老人のような喋り方ではなく、見た目通り、少女のようにあどけなく尋ねた。


「うん、行かないですよ。だってもう手紙絡みでモンスターを狩りにはいかないし」

「い、いやいや、それは理解しておるが、ほら。ほら! 今回はお父上が……」

「父さんが関係していてもそれはそれでしょ? アイナとの約束は破りたくないし」


 今度はアイナが「ア、アタシ?」と目を丸くした。


「アイナが嫌がるなら行けないですよ。父さんも危険は覚悟の上で輸送団に加わったんでしょうし、やっぱり自業自得ですよね」

「え? あ、いや~」


 アイナは焦る。


(ア、アタシのせいで父ちゃんを助けに行かないみたいじゃねえかよ!

 そ、それはちょっと……)


 インベントの優先順位は非常に明確である。

 一にモンスター、二にモンスター。そしてアイナである。


 父が危険であろうとも、母が重体であろうとも、たとえ故郷が壊滅しようとも、アイナが「行くな」と言えば行かないのだ。

 アイナの意見を覆すには、例えばモンスターが現れて「行け!」と言うぐらいしかないのだ。


 家族や故郷の復讐に燃えるクリエとしては、父親を簡単に見捨てるインベントの選択が――精神が理解できない。

 もはやサイコパスに打つ手無し。混乱状態のクリエ。


 だが、インベントはくつくつ哂う。

 まるでクリエが頭を悩ませていることが嬉しいかのような表情。

 そこから何度も頷き、そして目を大きく見開いた。


 そしてアイナからすれば、インベントらしからぬ発言が飛び出した。



「ねえクリエさん、取引――しませんか?」

インベントはニチャアと哂い「ゲヘヘ、まずは服を脱いでもらおうか」とクリエの肩に手をかけた。


次回からノクターンノベルズでの連載となります!(嘘

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