MPゼロでも死ぬクソゲー
MP→メンタルポイント
「さて、どう調理しちゃおっかな~」
クロはすれ違い様、鉄槌による一撃を喰らわせる。
墜落していく『白猿』だが、落下途中で踏み止まる。
そこから大きく飛び上がり、途中一度加速しインベントに迫る。
「オニイ! オニイ!!」
ヒラリと余裕をもって躱すクロ。
「はいはい、うるせいお兄ちゃんだなあ。
私はもっと寡黙で、優しい兄ちゃんがいいなあ。
あ……なあシロ。兄ちゃんってことはコイツ弟か妹がいるのかも知れねえな!」
『え、こんなのの兄弟?
って集中しなさい!』
「へいへい。
まあいいや、クソザルお兄ちゃ~ん。
私はねえ、ベン太郎と違って、容赦しないからな。
クックック!
背後から頸動脈切り裂いたこともあるし、袈裟斬りで真っ二つにしたこともある!
船丸ごと一隻爆破したこともある!
殺戮の天使とは私のことだっ!
カッカッカ!」
ノリノリのクロ。
『ねえ、フミちゃん』
「あ? なんだよ、ゲームの話だろってか?
うっせーな! 私からすりゃこの世界もゲームみたいなもんだ。
自分の身体じゃないし、異世界だし……むむ?
ベン太郎の身体がアバターって考えれば、お、これってフルダイブ型のMMORPGじゃね?
ナハハ~、時代を先取りしてる」
『あのね、お楽しみのとこ悪いんだけど、怖がってるよ』
「あ? あのクソザルに言葉が伝わってるようには思えねえけど?」
『そっちじゃなくて……ベンちゃんが』
インベントは現在、狸寝入りの状態。
夢見心地なのだが、悪夢を見ているような気分。
尊敬し敬愛するクロが、まさか猟奇大量殺人犯だとは思ってもいなかったからである。
インベントはモンスターブレイカーの世界で華麗に戦うクロしか知らないのだ。
「は? え? ぬあ!?」
突如落下するインベント。
身体の制御ができなくなってしまったのだ。
インベントにとって、『夢=モンブレ』。
そしてインベントにとってモンブレは喜びや楽しみ。
悲しみや恐怖は存在しない世界。
「せ、精神も安定させないとダメってことかー!?
ベ、ベン太郎! 私は怖くないぞー!」
『ベンちゃん。フミちゃんは悪い子じゃないの!
えっと! その! わ、悪い奴を成敗してたの!』
インベントのメンタルを回復させなければ、このまま地面に激突する。
シロとクロは必死でインベントを励ます。
「そ、そうだぞ!
私が活躍しなきゃ、世界は魔王に滅ぼされていた!
せ、正義のために戦ってたのだ!」
言い慣れていない『正義』という言葉に気恥ずかしさを覚えるクロ。
「そう、そうだ! 正義の戦いだ!
我が力は正義のために!
モンスターを狩る理想郷に到達するために正義の剣を振るってきたのだ!
そして今からあの白い悪魔を狩るのも、正義のためである!
これは……聖戦! 世界の平和のためのクエストなのだ!!」
インベントは『クエスト』と聞き、心が落ち着いてくる。
『そうそう! クエストクエストー!』
「いざ! クエストに出陣じゃ!」
インベントの精神が持ち直した。
すかさずクロは姿勢制御を行い、『白猿』を探す。
だが――
『やばい! フミちゃん!』
視界に収めるよりも早く、すでに幽結界の中に侵入してきている『白猿』。
クロも気付いているが、不敵に笑う。
そして『白猿』の攻撃は届く。
インベントの身体を貫いた――と錯覚した。
なにせ『白猿』の右肩から先は、インベントの腹部を通過しているのだから。
「オ、オニ?」
インベントは――いやクロは怪しく笑う。
「カカ、久しぶりだけど上手くいった。
ま、昔よりヌルゲーになってんだけど……な!」
指をパチンと鳴らすクロ。
すると次の瞬間、『白猿』の視界はぐるぐると目まぐるしく回転しながら吹き飛ばされた。
上下がわからなくなり、もがきながら墜落。
「オ、オ、オ」
落下ダメージは無く、自らの右腕を捻りながら観察している『白猿』。
異常は無いのだが何が起こったのかわからないのだ。
「カカカ、頑丈だねえ」
ハッとして振り向く『白猿』。
背後には中腰になり待つクロが。
咄嗟に左腕を思い切り振るう『白猿』。
拳は顔面を捉えた。
だが手ごたえが無く、『白猿』は自らの左腕を見る。
クロの高笑いに反応し、攻撃を繰り返す『白猿』。
全て命中している。
命中しているはずなのに攻撃は全てすり抜けてしまう。
クロはご満悦な顔で語り始める。
『白猿』の攻撃を受け続けながら。
「弟子がねえ~、修業してるわけよ。
教える側からすればすご~く可愛い弟子なわけ。
文句も言わず一心不乱に頑張ってるんだもん。
もう免許皆伝レベル。というか……モンスター相手ならばもう私が操作するより強いかも」
インベントは褒められて舞い上がる。
「ベン太郎もだけど、シロもマメなのよ。
ベン太郎の動きに合わせて色々微調整してるワケ。
まさに一心同体ってやつ?
愛の成せる業ってところかしらねえ~」
シロも珍しく褒められて照れる。
「もう正直、私なんてお役御免なんだけどね。
だけどまあ、こんな私もただただ弟子と親友の成長を見てたわけじゃないワケ」
クロは左手を前に。
『白猿』は反射的にそれを攻撃する。
クロの想定通り、『白猿』の動きはまるで右ストレートの動きに。
「――オマエの敗因を教えてやろう」
そう言った次の瞬間。
『白猿』の右腕はゲートの中に入っていく。
そして右腕は旋回運動を加えられながら、収納空間から弾き出された。
収納空間に入った右腕は、『白猿』からすればまるで消失したかのように見え、混乱する。
更に先程同様、理解不能な力で回転しながら吹き飛ばされたことに混乱極まる『白猿』。
「ゴウ、アウ……ナウ……」
動揺を隠しきれない『白猿』を見て、邪悪な笑みを浮かべるクロ。
「敗因。
それはねえ、モンスターのくせに小さいこと。
ま、膨大なパワーを小さな身体に封じ込めることによって強くなる、ってパターンは嫌いじゃないけどねえ。
だけど私には通じない。むしろ悪手!
なぜならば、私は対人戦最強だから!
人間用の技を開発してきた私に、まさか人型で挑んでくるとはねえ!?」
クロは掌を『白猿』に向け、ゲートを展開する。
続けてゲートから黒煙が噴き出した。
「カッカッカ!
遊びはここまでだ!
闇の渦に巻かれて消えろ!」
勝ち誇った顔でクロは言い放った。
『フミちゃん……。
それがしたいから黒い粉用意させてたのね……』
MPゼロで死ぬと言えば……SO3ですかねえ。




