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オニ

 一方的な展開。

 というよりも一方通行の展開。


「エアリアルスターイル!」


 『白猿シロザル』を丸太で打ち上げ、蹴撃で更に浮かせる。

 浮遊状態に驚き手足をばたつかせる『白猿シロザル』。


「オラオラオラオラー!」


 普段は使わないパンチを連続で繰り出す。

 連続パンチを放つ際は「オラオラ」を連呼するのは、『モンブレ』からの知識である。


 ただ頑丈な小手を装備しているとはいえ、武器で攻撃したほうが安全であり、威力も高い。


 それでもパンチを使うのは、八つ当たりだからである。

 楽に死ねると思うなよ――なんて思っている。


 と同時に、怒らせ敵意を呼び起こしてやろうと思ってもいる。


 『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』との戦いとも呼べぬ戦いから継続して攻撃を受け続けている『白猿シロザル』。

 反撃の意志を一切示さず、ただただ攻撃を喰らい続けているサンドバック状態が気にくわないのだ。


「ほいさっ!」


 宙を舞う『白猿シロザル』に対し、インベントは鉄槌を装備。

 思い切り脳天目掛けて振り下ろす。


 まさにクリーンヒット。

 『白猿シロザル』は大地に叩き落とす。


 だがインベントの顔は晴れない。

 鉄槌を眺めてみるが、血液は一切付着していない。


(う~ん……手応えが気持ち悪い。

 幽壁に阻まれた感じじゃないけど、肉や骨にめり込む感触が無い。

 骨が固いのか? それとも皮膚が固いのか?

 まるで柔らかい鉄の球を殴った感じ)


 インベントはなんとも形容し難い感触に不可思議に思いながら降下する。

 案の定、『白猿シロザル』は何事も無かったかのように頭をポリポリと搔いている。


(――打撃がダメなら)


 インベントは右掌を大地につけ、まるで地面から召喚したかのようにゆっくりとなにか引き抜いていく。


「クックック!

 馬を一刀両断するほどの伝説の剣!

 ……あれ? 悪魔を切り裂く剣だっけ?

 まあどっちでもいいか! いでよ! 斬魔刀!」


 肩幅以上ある柄、そして露わになる刀身は収納空間に収まる限界の長さ。

 刀らしい反りは無く、片刃であることだけが唯一刀らしい点。


 斬れ味も良いとは思えない大雑把な巨大刀。


「ぬ、ぬおおお」


 重さも凄まじく、アイナ一人分の重さを誇る。

 筋力アップに励んだインベントでも持っているのがやっと。


 インベントは力を籠め振り上げるが、静止させることができず小刻みに震える。


「く、くくく、お前にこの剣を受け止めることができるかな!?

 ははは、無理だろうな! この腰抜けめ!」


 安っぽい煽り文句と共に、剣を振り下ろし、反発力で飛び上がるインベント。

 インベントが飛び上がったというよりも、吹き飛んだ剣にインベントがしがみついていると言った方が正しいかもしれない。


 空中で微調整しつつ振り下ろした一撃。


「オ、オニ、ニイ」


 さすがの『白猿シロザル』も戸惑っているのか、奇妙な鳴き声と共に後ずさる。


「喰らええ!」


 インベントも制御しきれない一撃は、想定していた軌道から少しズレ、『白猿シロザル』の肩口へ。

 斬魔刀は凄まじい勢いで地面にめり込んだ。

 『白猿シロザル』の身体と共に。


「オ、オニイ、オニィ」


 奇妙な呻き声を発しながら、動けなくなっている『白猿シロザル』。


 そんな『白猿シロザル』を見てインベントは呆れている。

 意図せず拘束状態になったが、斬魔刀と喰らってなお、切断はおろか出血にさえ至っていないからだ。


「まったく……どういう身体の構造してるんだか。

 だけどまあ、丁度いいね」


 インベントは手槍を取り出す。


「クフフ、ハハ。

 お前のお兄ちゃん――『黒猿クロザル』もさ、これで貫いたんだよ」


 『白猿シロザル』はじたばたしながらも「オニ、オニ」と連呼している。


 インベントは距離をとり「師匠、いきますよ」と呟いた。

 カチカチとインベントにしか見えない光が瞬く。

 シロとクロからのゴーサインである。


 インベントは身動きの取れない『白猿シロザル』の胸部目掛けて――


「グングニール」


 インベントの手から放たれた手槍は、放った直後にゲートに入っていく。


 手槍はインベントが持つ二つの収納空間を経由。

 一つ目の空間で加速、二つ目の空間で旋回が加えられた手槍。


 グングニールは北欧神話のオーディンが持つ槍。

 幽世を経由した手槍は、グングニールの名に恥じぬ威力とスピードで『白猿シロザル』に迫る。


 『黒猿クロザル』さえも貫いた槍。

 インベントは『白猿シロザル』も同様に貫けると信じて疑わない。


 貫いて、激昂した『白猿シロザル』は襲いかかってくる。

 『黒猿クロザル』と同じ展開になる――そう信じていた。


 だがインベントは目を疑う。


「う、うそーん」


 手槍を『白猿シロザル』は腹部に確かに命中した。


 凄まじい貫通力を誇るグングニールは、命中箇所の周囲の体毛を吹き飛ばす。

 だがグングニールは『白猿シロザル』の体内に入っていかない。


 ギリギリギリと、まるで岩を削るかのような異様な音。

 やがて、推進力と旋回力を失ったグングニールはただの手槍に戻る。

 

 『白猿シロザル』は削れてしまった腹部を撫でるように触った。


(いやいや……まさか、あいつの身体は岩なの?

 血も出てないし)


 インベントは確かめるために更に二回グングニールを発射した。

 だが、毛を吹き飛ばすことには成功したがダメージらしきダメージは与えられない。


「も~……なんだこいつ」


 八つ当たり気分のインベントだったが、冷や水を浴びせられたような気分に。

 あまりの防御力の高さ――というよりもまるで無機物で構成されたかのような身体の『白猿シロザル』。


 モンスターらしくないため、どうしていいかわからなくなってきているのだ。


 『白猿シロザル』は体を捩りながら必死に拘束から抜け出そうとしていた。

 インベントはあえて邪魔せず、静観する。


(もしかしたら、もう怒ってるかもしれない。

 そうしたら襲いかかってくれるし)


 そんな淡い期待も裏切られる。

 拘束から抜け出した『白猿シロザル』は、インベントを一瞥した後、周辺をキョロキョロと眺め、その場から離れてしまう。


 インベントは溜息交じりに、まず『斬魔刀』を回収する。


「調子狂うな……。『黒猿クロザル』よりも意味不明だ。

 さて、どうしたもんかなあ……待てよ。『黒猿クロザル』か。

 ふふ、いいことを思いついたぞ」


 『黒猿クロザル』との戦いを思い返し、インベントは『黒猿クロザル』が極端に泥を嫌っていたことを思い出す。


 インベントは上昇し、近場に泥沼を発見する。


 インベントは笑みを浮かべ『白猿シロザル』に近づき――


「素晴らしい所に連れて行ってやろう」


 そう言って乱暴に『白猿シロザル』を吹き飛ばす。

 『白猿シロザル』は抵抗もせず、インベントの思うがままに連れていかれ、目的地の泥沼へ。


「そ~ら! 大嫌いな泥沼だぞ」


 『白猿シロザル』は盛大に泥沼を転げまわる。

 白い体毛は泥で汚れ、風貌はまるで『黒猿クロザル』のように。


「怒るかな~? 怒るかな~?」


 インベントは手ごろな岩の上に立ち、警戒しつつ『白猿シロザル』の動向に注目する。


 だが警戒も虚しく、『白猿シロザル』は顔についた泥を払うだけ。

 特に嫌がる様子は無い。


 インベントは大きく溜息を吐いた。

 そして多少苛立った声で『白猿シロザル』に話しかける。


「お前さ~、本当になんなんだよ。

 姿形だけは『黒猿クロザル』にそっくりなんだから、泥を嫌がれよ!」


 『白猿シロザル』は不思議そうに首を傾げている。

 「なに言ってるの?」とでも言いたげな仕草に、インベントは更に苛立った。


「だ~か~ら~!

 お前そっくりな『黒猿クロザル』は泥が嫌いだったの。

 そんなに似てるんだから血が繋がってんじゃないのか?

 お父さん? いや、やっぱり()()()()()か?」


 『白猿シロザル』は突然、拍手するかのように前肢を叩く。

 更に、嬉しそうに「オニ、オニ」と鳴く。


 苛立っていることを笑われているかのように感じ、眉間に皺を寄せ、舌打ちするインベント。

 だが、『白猿シロザル』は鳴き続ける。


「オニ、オニィ。

 アヴェ……オニイザン。

 オ、オ、オイ、オニイタン」


 なにかを伝えたいのか、必死に発声する『白猿シロザル』。

 そして――


「オ、オニイラン。

 オニイラン! オニイラン!」


「……え?」


 インベントはまさかと思いつつも、気付く。

 『白猿シロザル』は『お兄さん』と発声していることに。


(俺が、『お兄ちゃん』って言ったから真似しているのか?

 だけど、なんで? 『お兄ちゃん』にだけ反応しているんだ?

 いや……そもそも『オニオニ』って鳴き声は『おにい』だった?

 ハハ、そんな馬鹿な)



 インベントは悪寒を感じている。

 だが、なぜ悪寒を感じているのかわからず、爪を噛むのだった。

「エド……ワードおにいちゃん」

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

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