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愛別離苦怨憎会苦

 それはそれは悲しい物語。

 報われない愛の物語。


 捕らわれていたアナタを解放したのはワタシ。

 それなのにアナタはワタシに見向きもしない。


 どうしてアイツにお熱なの?

 アイツはアナタのことなんて好きじゃないのに。


 ワタシがどれだけちょっかいをかけてもアナタは無視する。

 アナタがアイツにちょっかいかけてもやっぱり無視する。


 ねえ? いつになったら振り向いてくれるの?

 ねえ? ねえ?



**


 諦めなければ努力すればいつか報われる――なんて戯言である。

 それをインベントは思い知る。


「お……お、おおおお、なんでだよお!」


 深い悲しみの咆哮が響き渡る。


 数時間に及ぶ追いかけっこは突如終わりを迎えたのだ。


 『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』は、『白猿シロザル』を吹き飛ばし、そして追いかける。

 『白猿シロザル』は全く抵抗せず攻撃を受け続けているがケロっとしている。


 そんな両者の間に割って入り、どうにか振り向かせようとするインベントだが、『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』の『白猿シロザル』に対しての執着は、まさに異常の一言。


 無関心がこれほど辛いとは知らなかったインベント。


 そして永遠に続くかと思われたやりとりだが、『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』は突然、糸が切れたかのように大地に伏せてしまった。


 インベントは『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』を見て、息を飲む。


 瞳は白く濁り、身体も一回り小さくなっていたのだ。

 皮膚も艶を失っていく。


 そんな『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』を見てインベントは『黒白熊獣パンダ』が脳裏に浮かぶ。

 だがインベントは頭を振る。


 信じたくないからだ。

 脳裏に浮かんだ『黒白熊獣パンダ』は、強かったころの『黒白熊獣パンダ』ではなく、弱っていく時の『黒白熊獣パンダ』。


 つまり――寿命で弱っていく『黒白熊獣パンダ』であり、『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』も寿命を迎えたなど信じたくなかったのだ。


「さ、さっきまで元気だったじゃないか!?

 なあ? おい? どうして……どうして今なんだよ!?」


 インベントが深い悲しみに暮れる中、命が静かに終わっていく。

 だが最期、まるで命のバトンを繋ぐかのように、卵ではなくモンスターが産み落ちた。

 『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』の体内で卵を破り、なんとか飛び出したのだろう。


 そして、落ち着く暇もなく一目散に立ち去り――否、逃げ去っていく。


「なんなんだよ」


 母も母なら子も子。

 モンスターらしくない行動にインベントは苛立ちを隠せない。


 そもそも逃げ去った理由は、怒りの形相で異様な圧力を放つインベントに恐怖したからである。


 インベントはもう一度「なんなんだよ」と呟き、視線を『白猿シロザル』へ。


「相変わらずよくわかんない奴だな」


 逃げもせず、かといって敵意も向けてこない。

 ただそこにいるだけ。


 『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』から猛攻を受けているときも、反撃らしい反撃は一度もしていなかった。


「そういや『黒猿クロザル』も『鬼化』するまではすっとぼけた奴だった。 

 にしても、お前はなんなんだよ。

 突然変異か? もっとモンスターらしくしろよ」


 『白猿シロザル』はインベントのことを認識してはいるようで、視線はインベントに向けられている。

 だがやはり行動はしてこない。まるで置物のように佇んでいる。


 インベントは目を細め、薄く口を開く。

 顔の各部は笑顔を構成しているが、全く笑っていないインベント。


 10メートル近く『白猿シロザル』と離れているが、インベントはゆっくりと近づいていく。


 途中、大きく鼻から息を吸い込む。

 そして溜息を吐き、インベントは思う。


 『薄い』――と。


 『モンスターソナー』はモンスターの気配を匂いのように感じることができる。

 『深き泥沼の龍王マッドアングラードラゴンロード』や他の大物モンスターからは、脳を陶酔させるような素晴らしい香りが漂っていた。


 だが、『白猿シロザル』から感じる香りは、雑魚モンスターと変わらぬレベル。

 意味不明なモンスターに更に苛立つインベント。


 すたすたと近寄り、手を伸ばせば届く位置に到達した。

 それでも『白猿シロザル』は動かない。


 危険極まりない行為だが、インベントは落ち着いている。

 シロとクロは大いに焦っているのだが、当のインベントはどこ吹く風。


 インベントはまるで握手をするかのように手を差し出す。

 その手を『白猿シロザル』はじっくりと見ていた。


 そして手は、『白猿シロザル』の頬に触れた。


 熱い抱擁でもするのではないかと思うほど肉薄する両者。

 『白猿シロザル』は「オニ、オニィ」と奇妙な鳴き声を発する。


 インベントは眉間に皺を寄せ、ハッキリとした声で「寸勁すんけい」と言う。


 直後、ゲートを二枚同時に起動。

 左肘と左肩を同時に加速。


 ノーモーションから大きく振るわれたインベントの左腕は、『白猿シロザル』の身体を回転させながら吹き飛ばす。 


 吹き飛んだ先で、『白猿シロザル』は何が起こったのかわからず呆気に取られていた。

 ノーモーションの攻撃だからではなく、頭に刺さるような衝撃に驚いているのだ。


 『白猿シロザル』は自らの頭部をその前肢で触り、異常が無いか確認している。

 そんな様をインベントは悪意を含んだ笑みを浮かべ見ていた。



 『寸勁すんけい』。


 カンフーや空手などの技であり、相手に手が触れた状態から繰り出される打撃。

 ゲームや漫画ではたまに使われるレベルだが、少ない動きで相手が吹っ飛んでいくのは見栄えが良い。


 インベント版『寸勁すんけい』はクロ考案の技である。

 コンセプトは『気功を収納空間パワーで代用した必殺パンチ!』。


 ふざけた技ではあるが、一応意図もある。

 相手に触れた状態からの攻撃であれば幽壁を無効化できるのではないかと想定して開発された。


 幽壁の発動条件は死への危機感がトリガーとなり、攻撃を拒絶する盾が発現する。


 これまでインベントは死角から攻撃し、意識外からの攻撃で幽壁を対策してきた。

 それに対し『寸勁すんけい』は、攻撃を拒絶する隙間を与えない。

 つまり別角度からの幽壁対策なのだ。


 ラットタイプモンスターを実験台に何度か試し、そして狙い通り『寸勁すんけい』は幽壁無視の攻撃として完成した。

 だが完成した直後、封印された。


 なにせ手が触れた状態からの攻撃なんて、危険だからである。

 クロも薄々理解していたが、面白そうだったからインベントにやらせただけだったのだ。


 そんな使い物にならない技。

 あえてリスクを冒してまで『寸勁すんけい』を使用した理由。


 それはこれまで、モンスターを狩る際に湧きあがったことの無い感情のため。

 楽しみにしていた相手を奪われた、そう――――憎しみ。


「へっへっへっへ」


 どう考えても悪役が使うような笑い声。

 指差すインベント。


「お前は……嬲り殺しにしてやる!」


 愛するものを奪われた悲しみ。

 愛するものを奪った相手への憎しみ。



 ふたつの感情を背負い、猛々しい八つ当たりが始まる。

穏やかで純粋な心。

そんなインベントが激しい怒りによって目覚めた!


次回! ついに変身・伝説の超サ〇ヤ人・イン・ベント

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