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煮込み

「ふんふふふ~ん」


 ご機嫌なインベントは料理に精を出していた。


「シチュ~シチュ~、トマトシチュ~」


 母ペトナ直伝のリアルト家特製シチュー。

 インベントは鍋の中身を眺めながらゆっくり手間暇かけて仕上げていく。


 頃合いになったので味見。


「うん、完璧だ。ふふふ」


 料理の準備は完了。

 後は待つだけ。


 そわそわ。


 そわそわ。


 テーブルクロスを敷き直す。

 几帳面なインベントは少しのズレや皺も見逃さない。


 そわそわ。


 部屋の掃除もやっておこう。


 収納空間の整理もやっておこう。


 どこに、なにが、どれだけ入っているか、当然全て把握している。

 完璧に整理された空間だが、パズルを自ら崩し再度挑戦するかのように、収納空間を整理していく。


「ふ~む」


 時が経つのが遅い。

 じれったい。


 そして――――


「あ! 帰ってきた!」


 ドアを開けて出迎えるインベント。

 自動で開くドアに驚きもせず神妙な顔で立っているアイナ。


「おっかえり~」


 アイナは下腹部を擦りながら「はいはい、戻りましたよ」と気怠そうに家に入っていく。


「ご飯もう食べるよね~?」


「へ~い」


 待ってましたとばかりにテーブルを彩っていく料理。


「シチューにサラダ。焼き立てパンもあるよ~」


 渋々席につくアイナ。

 鼻腔をくすぐるシチューの良い香りでもアイナの表情は晴れない。


「さあさあ、食べて食べて」


「へいへい」


 シチューを口に運ぶ。

 数回食べたことがあり、味が確かなのは知っている。


 伏し目がちにちらとインベントを見る。

 その表情は期待に満ち満ちている。


 料理の感想を待っている?

 そんなわけがあるはずもなく――


「……で? どうだったの?」


 アイナは目を細め、頬を掻いた。


(ほ~らきた)


 隠し事。


 人間誰しも大なり小なり隠し事がある。

 一般的に男性の嘘は、簡単に女性に見抜かれてしまうものである。


 インベントとアイナも同様で、インベントがわけのわからないモノを倉庫にこっそり持って来れば、アイナはすぐに気付く。

 インベントは隠し事が得意なタイプではないのだ。


 逆にアイナの嘘をインベントは見抜けない。

 というよりも他人に対しての関心が極端に薄いインベントは、嘘や隠し事にそもそも興味を示さない。

 ある意味騙し放題。


 だが、モンスター絡むと事態は一変する。


 頻度は少ないものの、アイナはカイルーン森林警備隊の本部に出向く。

 ある時は、活動内容の報告であったり、またある時は伝達事項を聞くために。


 そして――インベント宛に不思議な手紙が届いた時も。


 『明日、南東の方角に怪鳥が現れる』


 差出人不明のインベント宛の手紙が届き、出向いてみれば『怪鳥アルヒエドラ』と遭遇した。

 背負子しょいこと言う名の、死のゆりかごに揺られ、走馬灯を見たアイナにとっては嫌な思い出。


 インベントにとっては吉報、アイナにとっては悪報となる手紙。


 実は『怪鳥アルヒエドラ』の件以降も、何度も手紙は届いていた。

 その数なんと12通。


 アイナは名目上隊長職であり、手紙の内容をインベントに先駆けて確認する。

 そして何度かしらばっくれようとしたのだが――


 インベントは手紙のことになると、凄まじい勘を発揮してくる。

 アイナが何食わぬ顔で帰宅してきたら、確信を持って「手紙届いた?」や「なんて書いてあったの?」と聞いてくる始末。


 モンスターに関しての勘や執着は異常な男――インベント。


(あ~……めんどくせ~かったり~)


 アイナはとりあえずの抵抗として、パンを頬張り、シチューを食べる。


「おっ?

 このシチュー美味いな~。こりゃ絶品だ」


 話の矛先を無理やり変えてみようとするが、土台無理な話。

 なにせこの手紙、絶大な信頼を得ている。


 これまでの12通。

 すべて大物モンスターとインベントを引き合わせているのだから。


 インベントにとって手紙はクエストの引き金なのだ。


 『モンスターブレイカー』の世界で、掲示板に書かれたモンスター討伐依頼を受け、モンスターを狩りに行くように――


 モンスター討伐依頼の手紙を受け取りモンスターを狩り行くのは、インベントにとっては紛れもなく『クエスト』なのだ。


 モンスターを狩るのはそれだけで最高。

 だが『モンブレ』をこよなく愛するインベントにとって『クエスト』は極上の体験。

 

 成功報酬の無いことが少しだけ残念ではあるものの、些細な事である。


 アイナはもう観念して手紙の内容を伝えるしかなかった。

 逃げ切れるわけなどない。


 だが――伝えたくないのだ。

 今回は特に。


 その理由は――


「なあ、インベント」


「なあに?」


「確かに手紙は受け取った。

 いつも通り方角が書いてある。

 今回は南。それも結構遠いらしい。

 遠いとさ、行って帰ってくるのだけで時間かかっちまうだろ?

 今回はやめとこうぜ、な?」


「はは、いやいや」


 インベントは笑顔で拒否する。

 拒否されることははなから理解しているアイナ。


 二の矢を放つ。


「最近さ、カイルーンの町周辺でスネークタイプの痕跡が見つかったらしいぜ。

 痕跡から判断すると、か~なり大物じゃねえかってウワサなんだよ。

 だからさ、まずは蛇退治ってのはどうよ?」


 モンスターに対し対抗馬ならぬ対抗モンスターを提示するアイナ。

 効果は抜群かと思いきや、思いもよらぬインベントの返答。


「そんなに大きくなかったよ」


「は?」


「なんていうか頭が大きかったけど、太さも長さも普通だった。

 嗚呼、でも色は綺麗だったなあ。

 斑な黄色が印象的だったよ」


「え……うっそ?」


 対抗モンスター。

 カイルーン森林警備隊で噂のスネークタイプモンスターは、昨日インベントにしっかり狩られていたのであった。


 観念したアイナは手紙を取り出し、インベントに投げつける。


 インベントは嬉しそうに内容を確認した。

 そして――


「ほ~お」


 嬉々とした声でも無ければ、発狂するわけでもない。

 驚きと少し戸惑いの混じった声。


 『南方、かなり遠くにモンスターが現れる

  複数の可能性あり』


 毎度簡潔にかかれた手紙。

 必要最低限しか記載されていない手紙。


 大半の手紙には方角のみが記載されている。


 これまで『()()』と記載されたことは無い。

 初のケース。


 だがアイナがインベントに伝えることを躊躇した理由はこれではない。


 いつもとは違う一行が記載されていた。

 それは――


 『また、人型の可能性あり』



 『人型』という言葉がアイナを躊躇させた。


 『人型』と聞いて連想するのは『黒猿クロザル』である。


 モンスターと呼ぶには余りにも小さいが、異常なほどの耐久力を持ったモンスター。

 アイレド森林警備隊の精鋭で討伐に向かったが失敗に終わっている。


 アイナを収納空間に入れ、シロとクロとの協力関係を築いたその日。

 インベントは『黒猿クロザル』と戦った。


 追い詰めれば追い詰めるほど『黒猿クロザル』は覚醒していく。


 両腕部に幽力を纏い、頭部からは角を生えた。

 極めつけは刀型の幽力を具現化させた。


 通常の大物とは全く方向性が違う危険性を孕んだモンスター。


 いくら強くなったインベントであっても危険である。

 だからこそ行かせなくなかったのだ。


 『人型』に加え『複数』。

 どう考えても危ない橋を渡ることにならざるを得ない。



 だが――

 それでもインベントは嬉々として向かう。

 それがわかっていたから伝えたくなかったのだ。


 アイナの予想は当たる。

 当たるに決まっていた。

 インベントが行かないわけが無い。


 だが、インベントはなんとも言えない表情をしていた。

 確実に喜びの感情は含まれているのだが、喜怒哀楽の判別が難しい表情。

 まるで煮込まれたシチューのように、複雑な表情。



 インベントがその手紙を読み何を思うのか?

 アイナでもそれはわからないのだ。

読んでいただきありがとうございます!

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