進化するその背面で
『う~ん』
「ど……どうしたんですか? 師匠」
日々の日課。
筋トレで身体を虐め、シロとクロとお話ができる状態になったインベント。
『少し気になったんだけどさ、空飛ぶ時……だけじゃねえんだけど、高速移動する時になんかイメージしてたりするのか?』
「イメージ……ですか?」
『そうそう。
なんていうかジグザグというかカクカクした動きをしてるだろ?』
インベントは客観的に自身の動きを思い返す。
「そうですねえ。
なんというか……自分がボールになったイメージかな。
エネルギーが分散しないように、ひとつの球体になった感じと言えばいいのかな」
『ほ~う、ボールか……。
カカカ、さしずめピンボールの世界で弾き飛ばされている鉄球みたいな感じか。
お? なんか上手いこと言ったよな? な? シロ』
『はいはい。そうですね~。
別にピンボールでもいいじゃない。ダメなのフミちゃん?』
『ダメってことは無いさ。
なんだけどさあ~、ちょっとイメージを変えたいんだよな~』
「ほほう!?」
インベントは興味津々。
『も~、ベンちゃんが興味持っちゃったじゃない。
で? どんなイメージなの? フミちゃんの理想のイメージは?』
クロは「げっへっへ~」となにかを企んでいる笑い声。
シロは嫌な予感で顔を顰める。
『ズバリ。【ガ〇ダム】』
『……は?』
『あ~【ガ〇ダム】じゃなくてもいいんだ。
別にマク〇スでも、パトレイ〇ーでもいいんだ。
スパロボでいうリアル系機体だな』
『は? リアル系?』
『そうそうリアル系。
スーパー系はだめだぞ。ありゃ~被弾前提だからな。
んあ? なんだよなんだよリアル系がわかんねえの?
ってまあ……リアル系とスーパー系の違いを説明するのも中々大変……
なんだけど、しゃーないな! 一から説明するとしよう!
カカカ! よ~しまずはリアル系の特徴から……』
『待て待て!
いきなりなにを言い出すのよ!』
『んあ? だからリアル系の……』
『リアル系だかビジュアル系だか知らないけど、なんでロボットアニメの話になるの!?』
『いやだから~、ベン太郎はリアル系機体にだな~』
『え? 全然理解できないんだけど』
『カカカ、やっぱりみっちり教えてやらねえといかんな。
80年代にリアルロボットブームが巻き起こった話からするとしよう』
『心の底から嫌なんだけど!
全然面白そうじゃないじゃん!』
シロとクロのやりとりを楽しそうに聞くインベント。
だが疲労困憊のため、そのまま夢の世界へ。
すると――
「あ! まーたこのバカチンは床で寝て!
おーい起きろ! さっさとベッドに行け行け! コンチクショウ」
「あ……はぁい」
『おいー、シロにクロ!
ベン太郎を床で寝かせるんじゃねえ! 何度も言ってんだろ、かったるい』
『お~うアイナっち。
カカカ、どうだアイナっちもロボットトークに加わらねえか?』
『んあ? なにか知らんけど加わらねえっての!
アタシも寝るんだからな』
『カッカッカ、ベン太郎と一緒に寝たらいいじゃねえか』
『うっせえ! 色ガキ! あんまり変な事をインベントに吹き込むなよ!』
『へいへーい』
『おやすみ~アイナちゃ~ん』
アイナの手を離れベッドにダイブしたインベント。
『よーし、それじゃあ語るとしますか!』
『え? 本当にやる気だったの!?』
『当たり前だ~! 夜は長い! 今日は寝かせないぜ~』
**
二日間かけてみっちりと語り尽くしたクロ。
結局のところクロが言いたかったのは『リアル系ロボットのような動き』をインベントにやって欲しいというシンプルな要望。
だが長々と語り続けたことに意味はあった。
ロボットゲームもロボットアニメも興味が無いシロに対して説明することで、どうすればゼロから『リアル系ロボット』を理解してもらえるか学んだクロ。
その甲斐あって、そもそもロボットの概念も存在しない世界のインベントに対し『リアル系ロボット』の動きを説明することができたのだ。
『リアル系ロボット』らしい動き。
クロがイメージするその動きは、大型ロボットであってもスピードと機敏さを両立したロボット。
そんな動きをインベントにさせるために必要なキーワード――
それは――
****
『怪鳥アルヒエドラ』を凝視するインベント。
昂る高揚感。
集中力は研ぎ澄まされていく。
「いきますよ――師匠たち」
インベントは収納空間から伝わってくる同意を感じ取り、目を細め笑みを浮かべた。
インベントは剣の柄部分を使用し加速する。
身体への負担を考え、かなり抑えめの加速。
だが左右の剣をリズミカルに使用することで、多少ジグザグしつつも一気に『怪鳥アルヒエドラ』との距離を詰める。
そんな様子を見ていたクラマは、青空に黒い稲妻が走ったかのように見えた。
しかし稲妻と形容したことが間違いだとすぐに気付く。
『怪鳥アルヒエドラ』は接近するインベントに対し羽ばたき威嚇する。
だが安定しないのかバタバタともがきながら後退した。
それに対しインベントは、大きく弧を描きながら追随する。
続けてふわりと浮き上がり『怪鳥アルヒエドラ』の頭上へ。
頭上を取らせないように『怪鳥アルヒエドラ』は大きく羽ばたくが、意図せず進行方向を変えてしまう。
追うインベント。その動きは再度黒い稲妻のように。
かと思いきや空中でブレーキをかけてからの急浮上。
そんなインベントの飛行に対し、クラマは驚きながら傍観者を続ける。
(な……なんじゃありゃ)
インベントとクラマ。
この世界で稀有な飛行可能なふたり。
収納空間から得た力を推進力に変えるインベントと、直進する【雹】に【騎乗】のルーンで乗るという荒業で飛ぶクラマ。
やっていることは全く違うが、飛び方に関しては似ていると思っていたクラマ。
飛行安定性に関しては自身のほうが上だと思っていた。
久方ぶりに目撃したインベント。
インベントの飛び方が圧倒的に上達している。
むしろ別物と言ってもいいレベルにまで到達している。
その動きはまるで――――
「……本物の鳥じゃ」
直線的だった動きは、生物的な動きへ。
『怪鳥アルヒエドラ』狩りに参戦しようとしていたクラマだが、インベントの動きについていけないと判断し、傍観を続けることにしたのだ。
さて――
インベントは『怪鳥アルヒエドラ』の死角へ回り込もうと飛び回る。
それを嫌い暴れる『怪鳥アルヒエドラ』。
さながらドッグファイトを続けるインベントと『怪鳥アルヒエドラ』。
クラマが驚愕するほどの飛行能力の向上の理由は、インベントの飛行に対しての意識が変わったからだ。
「バーニアと……」
剣から伝わるエネルギーで大きく加速するインベント。
「……スラスター」
漆黒装備に仕込まれた、全身に散りばめられた強化装甲。
その強化装甲と丸太を接触させる。
時に滑るように――時に小さく弾くように。
推進力に対して変化を加える。
『リアル系ロボット』のような動きをさせるために、インベントはバーニアとスラスターを意識している。
と言ってもバーニアもスラスターもなんのことか知らないインベント。
クロが懇切丁寧に――奇奇怪怪な『リアル系ロボット』の説明を受けたインベント。
意味不明であっても、理解したい熱意はなんとか一定の解釈をすることに成功した。
剣や足からの大きな加速をバーニア。
全身の各種強化装甲部分からの小さな変化をスラスター。
インベントが認識できたのはその程度。
だが、『リアル系ロボット』は各所に推進力を搭載することで、姿勢制御や細かな移動を実現している。
その事実を知り、クロたちと共有できたことが大きい。
人間であるインベントは二足歩行。
だが剣からの反発力を多用してきたため、インベントは両手両足を使い移動してきた。
広義で解釈すれば四足歩行に近かったのかもしれない。
そんな移動は手足で行うものという常識を打ち破った結果――
まさに自由自在に空を舞うことに成功した。
さて――
その動きの凄まじさを最もよく知るのは?
インベント?
シロやクロ?
アルヒエドラ?
それとも傍観者のクラマ?
否。
特等席で必死に背負子に掴まる健気な美少女なのだ。




