表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

360/446

地獄の特等席

 カイルーンの町を出て、完全版・漆黒アビス装備にお着替え中のインベント。


「ハア…………なんで真っ裸に」


 完全版・漆黒アビス装備はインベントの身体に合わせて製作されているため、服の上から着ることはできないのだ。

 無防備なインベントの警護をするアイナ。


「お待たせ~。

 さささ、乗って乗って」


「へいへい」


 黒を基調とした漆黒アビス装備。

 背負子は漆黒アビス装備に合わせて、グレーを基調とした色合いになっている。

 無駄なこだわりが詰め込まれているのだ。


「よいしょっと」


 背負子に座るアイナ。

 インベントとは背中合わせの状態。


 進行方向と真逆を見たまま飛ぶのかと思い、アイナは少し恐怖心を覚える。

 だがそれは杞憂に終わる。


「インベント! いっきまーす!」


 元気いっぱいな掛け声。

 だが非常に滑らかな加速。


 アイナは優しい浮遊感に包まれながら大地を後に。


「ほっほ~う」


 速度はぐんぐん上がっていくが、揺れはほとんど無し。

 背負子の座り心地も非常に良く、アイナは空中散歩を楽しむのだった。


**


 小一時間、南西へ進むインベント。

 『怪鳥』と出会うため突き進む。


『な~かなか現れねえな~』


 背中合わせの状態なので念話で会話するアイナ。


「ん~そうだねえ」


『しっかしホントに現れんのかねえ、【怪鳥】さんはよう』


「う~ん……まったくそんな気配はしないけど……

 もう少し進もうよ」


『アタシは快適だから構わねえけどさ。

 帰る時間も考えろよ~。

 知ってたか?

 行きと同じだけ帰りも時間かかるんだぜ~』


「そんなのわかってるってば。

 もう少し……もう少し」


『へいへいっと』


 逸る気持ちを抑えきれないインベント。

 と同時に不安も襲ってくる。


 出会えなかったらどうしよう。

 いつもだったら感じない焦り。


 というのも最近は『モンスターソナー』のお陰でモンスターに出会うことに苦労しなくなったインベント。

 だが『モンスターソナー』は空からは機能しない。


 見逃さないように瞬きも少なく空中移動している。

 そのせいか、眼球は乾燥し、目は血走っている。


 そんな時――

 僅かだが強烈な信号がインベントの脳を駆け巡る。

 まるで芳醇なトリュフの香りが、一瞬だけ漂ってきたかのように。


 だが間違いようがない刺激。


「……きゅぴーん!」


 インベントは奇妙な音を発声し、視線を左斜め下へ。


 アイナは「うぇ?」と思わず声が出た。

 急に流れる景色の速さが変わったからだ。


『お、おい?

 インベント? インベントさん?』


 インベントは反応しない。

 視野を最大限広げ、激しく眼球を動かし、些細な事も見逃さないように探し続ける。


 なにせ相手は『怪鳥』。

 『モンスターソナー』は左斜め下方向に反応しているのだが、もしかすれば上空から現れるかもしれない。

 アイナに構っている場合ではないのだ。



 アイナはインベントがなぜ反応しないのかわからない。

 速度が上がった理由もわからない。

 背中合わせの状況では、インベントがなにを見ているのかもわからない。


 急に訪れる不安。



「む!?」


 インベントは僅かな森のざわつきを発見する。

 ざわつきの中心部分に注目し、息を飲むインベント。


 そして――

 垂直に飛翔する物体。


 鋭く長い嘴。

 長く伸びた首。

 全体は茶色を基調としているが、赤や黄色が散りばめられた非常に派手な翼。


「お、お、お、おお!?」


 『怪鳥』である。


「いっ――たああああ!!」


 『怪鳥』を発見し歓喜するインベント。

 突然叫びだしたインベントに驚くアイナ。


 そしてもうひとり。

 インベントと同じタイミング。


 『怪鳥』を挟んでインベントとは真逆に、男がひとり。


「おった!!」


 なぜか『星天狗』のクラマがそこにいる。

 クラマは『怪鳥』に近づこうとするが――


「む!? なんじゃ……アレ」


 『怪鳥』に急接近する真っ黒な物体を発見する。

 見間違いかと思い目を擦る。


 だがやはり消えない黒い物体。


「むむむ?」


 高速で動く黒い物体。

 それが漆黒アビス装備を纏ったインベントであることを、遠くからは判断できなかった。


** 


「おおお~」


 インベントは打ち上げ花火のように舞い上がる『怪鳥』を眺めていた。


 そして最高到達点で大きく翼を広げ羽ばたいた。

 さぞ優雅に飛ぶのかと思いきや――


「あれ?」


 まるでもがくようにバタバタと翼を動かす。

 なんとも無様に乱高下する。


「ふふ、なんかバカっぽくて可愛いなあ。

 なーんか愛嬌のある顔してるしねえ。

 なんかアルドモスに似てるかも。

 クフフ、アルドモスとヒエドラか。

 なんか似てるし……よし! アイツは『怪鳥アルヒエドラ』にしよう!」


 モンスターの名前も決まり、ご満悦のインベント。

 『怪鳥アルヒエドラ』の甲高い雄叫びも心地よい。


「ぎゃあー! なんの声だ!?

 出たのか!? 『怪鳥』がでたのかっ!?」


 アイナはいまだに『怪鳥アルヒエドラ』を見ることも叶わず。

 ただただ見えない恐怖に怯えている。


 インベントはとりあえず槍を発射した。

 注意を引くために。


 『怪鳥アルヒエドラ』はインベントを発見する。

 そして急接近――――するかと思いきや


「あ、あっれえ?」


 空中で制御を失った『怪鳥アルヒエドラ』は、不規則に高速な動きで落下していく。

 インベントは不満げに「なんだあれ」と呟く。


 『怪鳥アルヒエドラ』が落下していく影を見たアイナは「な、な、な、なんかデケエの落ちてった!?」と喚きだす。


 落下した『怪鳥アルヒエドラ』を観察していると、またもや急上昇する『怪鳥アルヒエドラ』。


「ふふ、なんか変な奴だなあ。

 あんまり……強そうじゃないかも。

 でもあれだな~、不規則ってのはある意味予測が難しいってことか。

 丁度いい。アレの……」


 インベントは柏手を打つ。


「そうだった!

 アイナ! そうだったよ!」


「あ!? なんだなんだ!?」


「大事なことを忘れていた!

 今日は漆黒アビス装備のお披露目だったよ!」


「は? い、いや、そんなことより――」


 インベントはアイナの発言を遮り話を続ける。


「くふふ、おあつらえ向きな相手だと思わない?

 大空を支配する狂った『怪鳥アルヒエドラ』。

 そんな空の王に今から挑むわけだよ」


 インベントは意味ありげに収納空間から『死刑執行双剣エクセキューショナーズ』の片割れを取り出し右手に装備した。


「二刀流の修業して、師匠からたくさんのことを学んだ。

 そして現在! 未完成だった漆黒アビス装備がようやく完成した!

 つまり! そうつまり! 足りなかったピース(ピィス)が埋まったということだよ!」


「は? い、いやそんなことより――」


 インベントはゆっくりと左手にも『死刑執行双剣エクセキューショナーズ』装備。


「ククク!

 ここから戦いの概念が覆るよ、アイナ!

 これまでの常識を捨て――新しい自分に生まれ変わるんだ!

 そう! 変わるためには!

 執着している今を捨てなきゃね!

 俺は師匠にそれを教わったんだ!」


 剣と剣を擦り合わせ澄んだ音が鳴り響く。


「ここからが第二幕ってとこかな!

 キーワードはス〇〇〇ー!

 ス〇〇〇ーだよ? アイナ!

 アイナは特等席でじっくり見ていてね!!」


「なに言ってんのかわかんねえ!

 そもそも見えねえんだよ!!

 そんなことより、まずはアタシを降ろせええええ!!」



 アイナ。

 願い叶わず。

 地獄へ向かう特等席からは降りられない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ