どんまいラホイル①
本日は晴天なり。
「あれ?」
「お、おおお?」
「ラホイル!」
「インベントやないかー!!」
出会いは突然に。
駐屯地でインベントとラホイルはすれ違った。
「なんでまた駐屯地に?」
「配属になったからに決まっとるやないかー!!」
「おお~そうなんだ!」
「なんやなんやインベント会わへんな~と思ったら駐屯地におったんかいな~」
「うん」
インベントにとって、ラホイルは数少ない友達と呼べる人物だ。
任務初日に足を切断するという不幸に見舞われたが、足の接合も上手くいった。
そんなラホイルが元気そうに任務に就いていることが嬉しかった。
「脚は大丈夫なの?」
「おう! もうピンピンやで!」
多少庇っているものの飛び跳ねるラホイルを見てインベントは笑う。
「おい、ラホイル」
「あ、隊長!」
ラホイルが隊長に呼ばれ敬礼する。
インベントはラホイルに倣い、敬礼した。
「ははは、アイレドはそれほど厳しい規則は無いから敬礼はいらんぞ」
そう言われラホイルとインベントは敬礼を崩した。
「マイダス隊長! コイツが同期のインベントです!」
「おお、あのインベント君か」
マイダスはにこやかにインベントに話しかける。
「俺はマイダスだ。隊長をやっている」
「あ、インベントです」
「ラホイルを助けてくれたそうだね」
「あ~、いえいえ。僕は大したことをしてません」
「ははは、あんなことがあったのにラホイルがもう復帰できているのは君の功績が大きいさ。
ちなみに今は誰の部隊なんだい?」
インベントは裏表なく褒められたことを喜んだ。
そして「ノルド隊長の部隊です」と応えた。
マイダスは驚いている。
「ノルド……さん? ノルド・リンカースさんか?」
「はい。そうですよ」
「……ノルドさん部隊を率いるように?」
「どうしました?」
「ん? ああ、なんでもない。そうかノルド隊長か」
マイダスは考え事をしている。
「おっと、俺は用事があるんだった。ラホイル」
「はい!」
「任務は三日後からだから、それまではゆっくりしてろ」
「了解でっす!」
「それとインベント君」
「はい」
「ラホイルは初めての駐屯地勤務だ。色々教えてやってくれ」
「わかりました」
「それじゃあまた」
そう言ってマイダスは去っていった。
「良い隊長さんだね」
「せやな~」
**
ところ変わって――
「ノルド先輩」
「――ああ、マイダスか」
マイダスに呼ばれノルドは顔を綻ばせた。
マイダスはノルドの後輩である。
かなり昔ではあるが、ノルド隊にいたこともあるのだ。
「駐屯地勤務になったのか」
「ええ。一か月予定ですが」
「そうか」
マイダスはノルドがあまり喋らないことを知っている。
だがそれは口数が少ないだけであり、会話が嫌いなわけではない。
「今日も狩りに?」
「ああ」
「相変わらず毎日ですか?」
「ああ」
「俺が言う筋合いじゃないですけど、あの事件は先輩のせいではないですよ」
「――」
「まあ……いいんですけどね。
ああ~そうそうそんなことより! ははは!」
変なモノを見るような眼のノルド。
「聞きましたよ! 隊員が増えたそうじゃないですか!」
「――ああ、そのことか」
「いやいや、一大事ですよ。あの……」
狂人と言おうとしたところでマイダスは喉を詰まらせた。
さすがに悪名であり言ってはいけないと察したのだ。
「と、とにかく、ノルド先輩が隊員を率いるなんてびっくりですよ!
それも二人も! 更に二人とも新人!」
「ハア……成り行きだ」
「いやはや……ノルド先輩が新人育成に乗り出すなんて……」
「帰るぞ」
「いやいやちょっと待ってください!!
実は折り入ってお願いが――」
**
翌日――
いつも通り、休みもせずにモンスター狩り。
待ち合わせ場所にはロゼ、インベント、ノルドの順にやってくる。
「――あれ?」
インベントは待ち合わせ場所にきて驚いた。
「なんでラホイルがいるの?」
「おおー! インベント! 聞いてくれよー!
ロゼのやつ俺のこと知らんなんて言うねんで!」
「え?」
「冷たい奴やでー! 前線組の同期三人衆やっちゅうのにな!」
ロゼはめんどくさそうにしている。
本当に覚えていないのだ。というよりは同期というカテゴリーに興味など無いのだ。
「でもどうしてラホイルがここに?」
「ええ~っとやな――」
「それは俺が説明しよう」
振り返るとマイダスが立っていた。
「あ、おはようございます」
「おはよう、インベント君。
今日はラホイルを是非同行させてほしいんだ」
「――? ノルド隊にですか?」
「そうなんだ」
マイダスは微笑む。
「ノルド隊長が部隊を率いているなんて昨日知ったんだが、二人とも新人なんだろ?
ラホイルも新人だ。色々経験させてやりたいんだよ」
「ああ~、確かに……隊長以外新人ですね」
「特にラホイルにはノルド隊長から学ぶことが多いと思う」
「そうなんですか?」
「隊長、なんでそない思うんですか?」
マイダスは自慢げに話しだす。
「ラホイルのルーンとノルド隊長のルーンは近しい。
あの高速戦闘術は是非参考にしたほうがいい。
それに……ノルド先輩ほど、卓越した技術を持った人はアイレド森林警備隊を探しても中々いないぞ。
――ね? 先輩」
「――――ハア」
いつの間にか合流していたノルドが大きくため息を吐いた。
「俺は指導なんてしないぞ」
「またまた! 新人が二人も配属されているじゃないですか」
「配属」という単語を聞いて、ノルド、インベント、ロゼは三者三様に疑問に感じた。
(勝手についてきてるだけだな)
(あれ? いつ配属されたんだっけ?)
(……賭けに負けただけですわね)
微妙な認識のズレはあるものの、マイダスはラホイルにとってノルド隊に参加することはプラスになると確信していた。
例の怪我以降、ラホイルはある意味丁重に扱われてきた。
新人が大怪我したのは森林警備隊としても非常に由々しき事態だったからだ。
(ノルド隊長はピリっとしているからな……。
これからのためにもラホイルには良い刺激になるはずだ)
マイダスの隊長としての親心。
さて……どうなることやら。
マイダスがノルド隊にいたのは10年以上前です。※ノルドは現在39歳
8年前に嫁と娘が亡くなっているので、昔のノルドを知っているわけです。
さて次回ラホイルが大活躍します!
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