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苦悩する倉庫番

「ったく、かったるい」


 アイナは整理整頓に励んでいた。


 アイナとインベントが住む家は、森林警備隊から借り受けた家であり、ふたりで住むには少々大きすぎる家。

 だが、インベントが武器や防具、丸太や砂などとにかく集めまくっているため倉庫に収まらないほどの状況。


 ただ乱雑に散らかっているわけではない。

 インベントは几帳面な性格なので、用途ごとに陳列されている。


 しかしとにかく量が多いのだ。


 在庫はあればあるほど良い。

 今は使わないけど、将来使うかもしれない。


 運び屋である父のロイドの教えを守っているわけではないのだが、機会損失しないためにしっかり在庫を揃えているのだ


 当然、目的は『モンスター狩り』である。

 【ペオース】の収納空間は無尽蔵に入るわけではないため、厳選して格納している。


 収納空間のための収納部屋なのだ。



 アイナは当初、増え続けるモノに対し寛容だった。


 なにせ森林警備隊が家を貸してくれているのはインベントのお陰だからである。

 理由は定かではないが、裏で『宵蛇よいばみ』が口利きしてくれたお陰。


 多少の我儘は許そうではないか。

 そう思っていたのはもう過去の話。


 ピットとの修行が終わり、本格的に蒐集コレクター魂に拍車がかかっていく。


「あれも欲しい」

「これも欲しい」


 物欲の権化と化していく。


 それもそのはず、インベントの蒐集魂はインベントだけのものにあらず。


『可愛い盾がいいな~』

『巨大な剣が欲しい!』


 シロもクロも欲しがる。

 三位一体の物欲。


 そんな物欲を満たすだけの、条件も揃ってしまっている。

 『宵蛇よいばみ』はインベントのパトロン状態であり、求めれば求めるだけドウェイフ工房がせっせと武器も防具も作る。

 

 少なくないお給金もあるため、とにかくなんでも手に入る。



 その結果――


 ある日、倉庫に収まらなくなり、部屋を侵食しようとしていたモノたちを見たアイナが爆発する。


「いらねえモンは捨てろ! ボケエ!」


 凄く悲しそうなインベントの顔。

 それでも心を鬼にして、どう考えても不要な壊れた武器などから捨てさせた。


 それ以来、アイナはインベント専用倉庫管理人となった。


**


「んあ~、疲れた。

 ったく、一日がかりかよ」


 朝から晩まで休まず――――そこそこ休みながら倉庫整理を行っていたアイナ。


 アイレド森林警備隊の倉庫番として働いてきた辣腕を発揮しつつ――

 おさぼり倉庫番としてのズボラさを遺憾なく発揮するアイナ。


 アイナは見上げる。

 見上げた先には合計30本の丸太が。


「こんなに丸太いらねえだろっての。

 小屋でもつくる気かよ、かったるい」


 いっそ勝手に捨ててしまいたいと思う衝動にかられつつも、インベントの悲しい顔を思い出すアイナ。

 全てインベントにとっては大事な狩り道具なのだ。


 他人の大事なモノを勝手に捨てることなど、アイナにはできなかった。

 仕方なく廃棄予備軍を、樽に放り込んでいくアイナ。


 心を鬼にしようと思いつつも、甘やかしてしまうアイナの優しさ。


「さあて、今日はおっしまい。

 てかアイツ、遅くねえか?」


 インベントは生活は規則正しい。

 帰宅時間は多少前後するものの変わらない。


(なんかあったのか?)


 胸騒ぎ。

 だが、そんな胸騒ぎを振り払うように――


「たっだいま~」


 ご機嫌なインベントの声。


「お、噂をすればなんとやら」


 倉庫整理を切り上げてインベントを迎えに行くアイナ。

 そして驚愕する。


「え!?

 ど、どうした!?」


 歯を見せて快活に笑うインベント。

 モンスター狩りの後はいつも幸せそうなインベントだが、今日は一際。


 だがその顔に対し、その他がボロボロだった。


 棘と泥で洗ったのではないかと思うぐらい衣服は劣化しており、ところどころ破けている。

 更に塞がってはいるものの額と頬に傷。


 いつもは何事もなかったかのように帰宅するインベントとは雲泥の差


「ふふ、うふ、いやあ~今日はとってもイイコトがあったんだよ~。

 『黒白熊獣パンダ』に会ったんだよ」


「は? パンダ? なんだそりゃ」


「『黒白熊獣パンダ』ってのは白黒の熊のことを言うんだよ。

 いや~楽しかった。いや……ずっと楽しいね」


 インベントが何を言っているのか理解できないが、もう慣れっこのアイナ。

 インベントのペースに巻き込まれたら話がなにも進まない。


 主導権は握らせない。


「よしよし!

 イイコトがあったのはわかったぞ。

 それは後で聞くからな。

 で、怪我してんのか? 大丈夫なのか?」


 インベントは愛おしそうに額の傷を撫でた。


「額って凄く血が出るんだね。

 いや~びっくりしたよ」


 アイナはじっくりとインベントの額を見る。


「額の傷は……大丈夫そうだな」


「病院寄って帰ってきたから大丈夫だよ」


「そ、そんなボロボロの格好で病院いったのか……まあいいけど。

 怪我は顔だけ? そんなわけないよな?」


 インベントは宙を仰ぎ「まあいろいろ」と言う。


「色々? 色々ってなんだよ」


 インベントの右手人差し指は、左手の小指を指した。


「小指か?」


 指し示す場所が移動していく。


「手の甲……肘……え?

 肩……腹……そっちの腹も? 一度戻って……鎖骨?

 ちょ、ちょっとまてい!」


「ああ、ここが一番痛かったな」


 インベントはズボンの裾を捲る。

 すると、真ん丸な浅黒く変色した打撲痕が。


「うぇ!?

 こ、これって骨折れてねえか!?」


「折れてはないってさ。ヒビが入ってるかもしれないらしいけど」


「ば、ばっきゃろう!

 重傷じゃねえか!?」


「はは、大丈夫だよ。【ギルフェ】で治してもらったし」


「バカバカ! 【ギルフェ】だって万能じゃねえんだよ!

 座れ座れ! 服も脱げ!

 いや脱がしてやるからとにかく座ってろ!」


「大丈夫なのにい」


「うるせえ! さっさと座れ!」


 渋々椅子に座ったインベント。

 アイナが服を脱がせていくと、全身アザだらけ。


 絶句するアイナ。


(な、なにがあったらこんなことになんだ!?)


 インベントがモンスターと戦っていたことは把握している。

 だがアイナは『黒白熊獣パンダ』とやらがどのようなモンスターか知らない。


 そして全身のケガは『黒白熊獣パンダ』が原因で間違いない。

 しかし、なにをどうすればこのような状況に陥ったのか見当もつかないのだ。



 『黒白熊獣パンダ』が偶然習得した土投げ。

 有効な対策を思いつかないながらも、インベントは土投げを警戒しつつも戦い続けた。

 クロたちは光の点滅で撤退を指示したつもりなのだが、気にせず戦い続けたのだ。


 広範囲攻撃をある程度回避し、最低限防御しつつ応戦。

 土投げはインベントに対して効果的ではあるものの、まともに喰らわなければ殺傷力は低い。


 全身打撲状態になりつつも、楽しい時間を過ごした。

 アドレナリン全開で戦っていたため、痛みを無視して。



「な、なにがあったらこんなことになんだよ!?

 あ、足以外にもどこか調子悪かったりしねえのか!?」


「ん~?

 首が痛いね。

 あれ? 脇腹も痛い気がしてきた。

 そう言えばお尻も」


「痛いとこ多いね! 全然大丈夫じゃねえじゃんね!」


「いやまあ、寝たら治るよ。

 あ、筋トレしないと」


「アホか!

 こんな状況で筋トレすんな!

 あ~もう! 寝ろ! とにかく寝ろ!

 そんでもって明日は病院な!」


「ええ~!?

 ダメだよ。明日はやることあるし」


「ハア~!?

 こんな状況でやることなんてねえだろ!

 森林警備隊から与えられた任務だって無いのに!

 それに明日は剣の練習の予定だったろ!」


 インベントは笑顔で首を振る。


「やるべきことは、今日できたんだよ」


「は?」


 インベントは最愛の人を思うかのように愛に満ちた顔に。

 そして――

 

「行かないと。

 会いに」


「会う? 誰に?」


 インベントは目を丸くする。

 誰に会いに行くかわからないアイナに驚いているのだ。



「なに言ってんのさ。

 ――――『黒白熊獣パンダ』にだよ」

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