今日は飲むばい
数少ないほっこり回です。
駐屯地の一角。
机と椅子が並んでいる場所があり、隊のメンバーで飲んだり歓迎会を行ったりすることができる場所がある。
本日の任務が終わり、ノルド隊の三名プラス一名で飲みの席が設けられていた。
ちなみに15歳になると飲酒は許可されている。
ロゼは飲むが、インベントはお酒は飲まない。
「さすがに毎日出撃はおかしいわ!」
「え~そうかな~?」
ノルド隊にロゼが参加してから一か月が経過していた。
ノルドとインベントでCとDランクを担当し、Bランクはチームで対応する。
チームとしては非常に洗練されてきたと言ってもいいだろう。
だがロゼは不満が溜まり、酒も入ったことで爆発してしまったわけだ。
「休みが無いなんてありえないわよ!」
ロゼは熱弁を振るう。
だが他のメンツは食べ物を食べたり、お酒を飲んだりしているので話半分でロゼの話を聞いている。
「通常、一日任務に出れば翌日は休みなのよ!?
それなのにウチの部隊は毎日、毎日、毎日!!
おかしいわよ! なんで!? なんでなのよ!!」
森林警備隊の中で、周辺警備する部隊や後方支援部隊は二日働いて一日休む生活をしている。
前線に行く部隊は消耗が激しいので一日働き一日休むのが基本とされている。
だがノルド隊は毎日モンスター狩りに出掛ける。
異常な部隊なのだが、ノルドはそんなことを気にしないし、インベントはモンスター狩りが楽しくてしょうがない。
結果休みなんて概念が無いのだ。
「あ、この干し肉美味しいね」
「お? マジか。よこせよこせ」
インベントは干し肉を齧る。
それを見ていたアイナがインベントの干し肉を奪った。
アイナは後方支援部隊で働く女の子だ。
倉庫番をしていることが多く、今日はインベントに誘われて一緒に飲んでいる。
誘われて――と言っても「今日はこれから飲むみたい」と話したら、『お? 奢りか?』と言われ半ば強引についてきたのだ。
ちなみにアイナは【伝】のルーンを持っているので念話ができる。
普段は念話で会話しているのだが、酒が入ると普通に喋るようになるのだ。
「そういえばアイナもずっと駐屯地にいるよね?」
「ん? まあな」
「家に帰ったりしないの?」
「いや……その発言そっくりお前に返すよ……。新人のくせにずっと駐屯地っておかしくね?」
インベントは「それもそっか」と笑う。
「あたしは実家遠いからいいんだよ」
「え? アイレドじゃないの?」
「まあな。太陽の昇るほうにあるんだよ」
「はは、かっこいいね」
取り留めも無く会話していると――
「コラコラー! インベント!」
「ん?」
「私が真剣に話しているのに、イチャイチャして!」
アイナは「どこがイチャイチャなんだよ」と軽く突っ込む。
「そうだよ。イチャイチャなんてしてないよ?」
「もういいの!! そんなことよりどうなのよ!?
さすがに休みが無いのはおかしいでしょう!?」
「いや別に」
インベントは休みなんて不要だと思っている。
楽しい狩りは毎日やりたいのだ。
ブラック万歳!
「く……ノルド隊長はどう思っているんですか!!」
ノルドは一人しっぽり飲んでいる。
ノルドは酒に強いが、翌日にアルコールが残らないようにチビチビと酒を飲む。
「……休みたいなら休めばいい。ま、俺は毎日狩りに出るがな」
「むむむ!」
ノルドはモンスターに対しての憎しみが深い。
というよりも憎しみを拗らせて、毎日モンスターを狩らないと落ち着かない体質になっている。
モンスター殺戮依存症といったところだ。
「あ、アイナさんはどう思いますか?」
「は?」
ノルド隊の男性二人は話にならないと悟り、アイナに助け船を求めた。
ちなみにアイナとロゼはほとんど面識がない。
「や、休みが無いなんておかしいですよね?」
「あはは、あったりまえじゃん。
そんなかったるいことできるわけ無い無い。一日働いたら二日は休みたいね」
「そ、それは休みすぎですけど……そうですよね!」
ノルドとインベントという毎日働きたい変態二人に対抗すべく、アイナという仲間を見つけたと思い顔を綻ばせる。
だが――
「――ま。私の場合は、だけどね」
「え?」
アイナは干し肉を齧りながら小悪魔チックに「ニヒヒ」と笑う。
アイナは今年18歳。残念ながら幼児体型だが、笑うと犬歯がチャーミングだ。
「アンタ、毎朝剣の稽古をしているよね?」
「な、なんで知ってるんですか?」
「ふふ、後方支援の情報網舐めちゃだめよ~。
少し重めの剣を振るうのが日課なんでしょ? 稽古は継続が大事よね。
毎日やることに意味がある。一日サボったら取り戻すのに三日かかるとかなんとか」
「そ……そうですわね」
アイナはエールを流し込んだ。
「稽古はしんどいわよね? でも毎日やってる。
誰かに命令されてやっているの?」
「い、いえ」
「ふふ~ん。もうわかってるわよね?」
ロゼは口をへの字に曲げ――
「モンスター狩りがインベントや隊長にとっては、私の稽古と同じだと?」
「ま、近しいんじゃないかしら。知らんけどね~」
アイナは立ち上がった。
「ま、怪我したら元も子も無いし、休みたいなら休めばいいんじゃない?
体調管理は基本だしね~。
アンタの肩を持つわけじゃないけど、この二人のほうがヘンなのは間違いないんだし」
「……そ、そうですよね」
「ふふ、別に休んだってこの二人はアンタを責めたりしないわよ~。
それじゃあ私はこれで。インベント、ゴチ~」
インベントは「うん」とだけ応えた。
「――休み続けてる私が言えたセリフじゃないけどね」
闇に消えるように呟いたアイナの言葉は、誰の耳にも届かなかった。
「ま、これでお開きにするか」
続いてノルドが立ち去ろうとした。
「あ! 待ってください! もう一つ言いたいことがあるのよ!」
「……なんだ? (コイツ、酒を飲むとめんどくさいな)」
ロゼはニコニコ笑い、瞳を潤ませながら――
「Bランクモンスター倒していること、報告してますよね?」
と言う。
ノルドは無表情で「……ああ」と応えた。
「嘘おっしゃい!! してないでしょう! なんでしないのよ!」
「……また今度な」
ノルドはそもそもほとんど隊長会議に出ていない。
報告なんて興味が無いので出る気も無い。
「インベントだってちゃんと報告してほしいでしょ?
ノルド隊の討伐数は凄いのよ? ちゃんと報告してくれれば……その~」
「褒められる」と言いたいところだが、子供っぽいので言葉を濁すロゼ。
「どっちでもいいよ」
インベントは興味なさげに応えた。
というよりも先刻から収納空間を弄り続けている。
お腹も一杯で、お酒の席に飽きてきているのだ。
「もーー! なーんでインベントはこういうことに興味が無いのよー!」
「――それじゃあな」
ノルドは面倒になり立ち去っていく。
「じゃあ俺も」
インベントはお腹も一杯なので立ち去る。
残されたロゼは――
「もおおーー!」
一人酒を飲み続けた。
翌日――
ロゼがノルド隊に配属されて初めて休みをとったのは言うまでもない。