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毎晩やってます

「お~う、戻ったか。

 今日はどう――――ああ」


 インベントの疲労と愉悦が混じった笑み。

 アイナは、いつも通りの一日だったんだろうと納得した。


「今日もモンスターいっぱい……いっぱい狩ったんだな。

 そいつはよ~ござんしたね。

 そんじゃ飯にすっか?

 ちょっと休む?

 それとも――」


 インベントは「アイナ」と言う。

 それだけでアイナはインベントがなにを求めているのかすぐに理解した。


「ハア……今日もやるのかよ?

 やり過ぎは身体に悪いっての」


「大丈夫大丈夫」


 迫ってくるインベントを両手で押し戻すアイナ。


「わかったわかったから! ったく……。

 そんじゃ行きますかね」


**


「ハア……ハア……ハア……」


「焦んな焦んな。

 ゆっくりな。ゆっ~くりだぞ」


「う、うん」


「シシシ、ぷるぷるしてるな。

 ほれほれもうちょっと我慢しろって」


「う、うう~!

 だ、だめだあ! もう限界だよ!」


「よ~っし、いいぞ。

 最後のひと踏ん張りだ」


「~~ッ!!」


 インベントは声にならない呻き声をあげ――果てた。

 精も根も尽き果てたインベントはぐったりしている。


 大量の汗が床を濡らす。


「んじゃ飯食うか」


「は、はいぃ~」


 事が終わり、アイナはてきぱきと動き出す。

 インベントにタオルと替えの服を渡し、自らはキッチンヘ。


 料理を準備し、インベントを呼びに行くと――

 服を着替えず寝転がったままのインベントが。


「あ、おい。着替えないと冷えるっての!」


 だがアイナの声はインベントに届かない。


「ウフフ、()()……今日はどうでしたあ?

 むむ! なるほどなるほど! あはあ~!

 いやいや~ぬはぬは」


 アイナは冷めた目でインベントを見降ろす。


 傍から見れば――いや傍からであろうが間近で見ようが頭のおかしい青年が寝転がっている。

 独り言にしては明瞭に、そして興奮しながら話す様は奇妙以外のなにものでもない。


 アイナはインベントに近づき、片手でインベントの頬を挟む。

 すると「ふぎゅう!?」とこれまた奇妙な声を出すインベント。


「さっさと着替えて、飯だ飯」

『何度も言わせんな、シロもクロも』


 声でインベントへ。

 念話でシロとクロへ。


「はあ~い」

『はーい』

『うえ~い』


 手のかかる子どもが三人もいる気分になり「かったるう~」と愚痴るアイナ。

 そして――


「しっかしメンドクサイ関係性だな。

 ()()()してギリギリまで追い込まないと話しもできないなんてさ」



 アイナはシロたちと念話で話すことができる。


 それは収納空間の中に侵入した経験と、アイナのルーンが【アンスール】であるからだろうと思われている。

 アイナ以外の【アンスール】持ちで試したことがないため明確な条件は不明なのだ。


 それに対しインベントは、直接シロたちと会話する方法が無かった。


 シロたちはインベントから情報を収集可能だが、話しかけることはできない。

 唯一の手段はインベントにだけ見える光。

 この光は取り決めしていないモールス信号のようなものであり、意思疎通は非常に困難かつ手間だった。


 つまりアイナを間に挟まなければまともにコミュニケーションがとれなかったのだ。


 だがピットとの模擬戦の終盤、突如シロたちの声を聞くことができたインベント。

 理由はわからない。


 だが一度でも回線が繋がったことが重要だった。


 できるとわかればこっちのもの。

 ピットとの模擬戦を再現し、可能性を全て試せば良い。


 試す時間はいくらでもあるのだ。


 そして10日間に及ぶ実地検証の結果――

 過度の疲労状態、つまり意識が朦朧とするほど疲れていれば回線が繋がることが判明したのだ。


 クロの見解では『睡眠状態に近いから……じゃね?』とのこと。


 兎にも角にも繋がる術を得たインベント。


 結果――


 寝る前のハードトレーニングがインベントの日課になった。

 自らをギリギリまで追い込むドМっぷりには、アイナも苦笑いである。


**


「モグモグ。

 むむ? アハァ……お、おおおう」


 アイナお手製の疲労回復や身体づくりに適した料理がテーブルに並ぶ。


 そんな料理を気味の悪い笑みを浮かべながら口に放り込んでいくインベント。

 白目を剥いたり、首がもげそうになるほど傾いていたり、食事を楽しんでいる感はゼロ。


 まったくもって作り甲斐の無い相手である。


 さて、テーブルに対し椅子二脚。

 向かい合わせではなく、隣同士に並ぶ椅子。


 カップルシートのような並びになっているが、それはふたりがラブラブだからではない。

 シロたちの会話を把握するために、隣に座っているのだ。


『カカカ、左もかなりレベルアップしてきたじゃねえか。

 シロとの連携もばっちしだしな』


「むふう」


『でもでも、ベンちゃんまた体重増えたんじゃない?

 なんかズレちゃうんだよねえ』

『そこはシロがなんとかシロよ。シロだけに』

『親父ギャグうっざ!』

『ま、毎日筋トレしてたら体重も増えんだろ。

 筋肉は重いんだぜ~、なんかの漫画で読んだ』

『微調整大変なんだからね!』

『いいじゃんいいじゃん。

 筋肉は正義! ガチムチベン太郎に進化させようぜ』

『えー! 細マッチョぐらいがいいよ!』

『なーに言ってんだ、結局はデカいほうが強いんだよ!

 そうだ! キン肉バ〇ター覚えさせてモンスターをぶったおそうぜ!』

『え? なにそれ』

『カカ、キン肉バ〇ターだよキン肉バ〇ター。

 知らねえの? なまたまご先生の代表作じゃん』

『名前ぐらいしか知らないよ!

 それにあれってプロレスでしょ?

 モンスター相手にプロレスとか馬鹿じゃないの!?』

『いやいや、なにか使える技があるかもしれん!

 ま、プロレスって実際見たこと無いけどな』

『なんだそりゃ!』


 ほぼ実の無い会話が繰り広げられる。

 インベントは幸せそうに耳を傾けている。


 アイナとしては大半がなにを言っているのかわからない。

 だが、話を聞いていないと、知らぬうちに理解不能な決定が下されるかもしれない。


 仕方なく、監視目的でおバカトークであっても毎日律儀に聞いているのだ。


『おい、おふたりさんよう』


『なんだ~? アイナっち』

『アイナちゃん元気~?』


『あ~元気元気。

 一個だけいいか?』


『なに~?』


『毎日毎日筋トレしてるけどさ、休みを決めたほうがいいじゃねえの?

 さすがに身体壊すぞ』


『あ~それもそうか。

 そうそう、筋トレよりも素振りとかのほうが良い気がするな』


『ん?』


『ほら、ボディビルダーになりたいわけじゃねえからさ。

 モンスター狩るための身体づくりならそれに適した訓練したほうがいいっていうか』

『フミちゃん、さっきはプロレスラーにしようとしてたじゃん』

『いや、まあ、プロレスラーは置いといて……。

 ほら、良く言うだろ? 必要のない筋肉は逆に動きを鈍らせる的な。

 どっかの漫画だったか、スポーツ選手が言ってた。

 言ってた気がする!』


 アイナは「ぷろれすってなんだよ」と愚痴りつつ――


『まあ、効果的なトレーニングは考えてみるよ。

 あと休みな。

 三日に一回ぐらいは休みにしようぜ~』


 そう伝えた次の瞬間――


 アイナの体に衝撃が走る。


「え!? お、おわ!? なんだ!?」


 隣に座っているインベントが突然、アイナの肩を掴んでいた。


「ど、どどどど、どうしたのかな!? インベント君?」


「休み……いらないよ!」


「え?」


「休んだら師匠の声が聞こえないじゃないか!」


「あ、ああ……ソノコトね。

 でも……その……やり過ぎは毒っていうかさ」


 インベントはぐぐっと顔を寄せる。


「大丈夫だよ」


「いや、大丈夫じゃねえだろ」


「大丈夫!

 いざとなったら【ギルフェ】で癒してもらえばいい!」


「え、ええ~……。

 いやいや! ば、ばかばか!

 『筋トレの疲労を回復してください』なんて言えねえよ!」


「ぐふふ、大丈夫。

 モンスター狩って怪我したことにすればいいよ。

 へへへ、モンスターの首でも持ってこようか? へへっへへ」


 猟奇的な顔に、猟奇的発言。

 そんな猟奇的インベントに両肩を掴まれ逃げれないアイナ。


「色々ダメ!

 てか近い! 離れろ! 離れろおー!!」





『いやあ青春ですなあ、シロさんや』

『本当ですねえ、おフミさん』

マッスルリベンジャー!

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