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表裏

 デリータがナイワーフの町にやってきてからの半年間。

 ナイワーフの町の再建と強化に取り組んだ。


 と言っても基本的にデリータは前面には出ない。

 クラマとファティマ、それにガラムに対し的確に指示を出す。

 黒子に徹するスタンスは、オセラシア自治区でも変わらない。



 まずはゼナムスをこき使い、ナイワーフの町北部に防壁の建造をスタートさせた。


 ゼナムスは嫌がったが、基本的にクラマを同行させた。

 建前としてはゼナムスの護衛として。

 本当の目的はゼナムスがサボらないように。お目付け役である。


 また、ゼナムスが防壁を造っていることを周知し、見学自由とした。

 監視の目が多ければ多いほどサボりにくくなるためだ。


 と同時に、ゼナムスの信頼獲得のため。

 あまりにも低すぎる民からのゼナムスの評価を、多少なりとも改善しようとしたのだ。



 防壁の建造は【故郷オセル】を駆使してもかなりの時間を要する。

 そして大量の石材が必要に。


 途中、『愚虎』を解体することで得た石材が底を突く。

 ゼナムスは――やっと休める! と思ったのだが――


 事態の解決のため、オセラシア自治区全土に『石像破壊許可』が通達された。

 ゼナムスが造りあげた石像はオセラシア自治区に14体。


 ゼナムスは――


(ナイワーフは、緊急事態だったからな……。

 他の町ではあの芸術的な像を壊したりしないであろう)


 な~んて思ったりしたのだが――


 当然、誰も望んでいない石像は、恐ろしいスピードで全て解体され石材に。


 その結果、余るほどの石材がナイワーフに運ばれることに。

 後に『天下の石壊し』と呼ばれ、歴史に名を刻む出来事となる。



 物資の面でも、ファティマが中心となり流通がかなり改善された。


 当初、ナイワーフの町は危険だと思われており、その通り本当に危険だったため、中々民間の運送団の協力を得られなかった。


 だが次第に防壁ができ、町の安全が確保されていることが噂で広がった。

 ナイワーフの町に所縁のある者や、防壁に興味がある者がナイワーフの町に訪れることになる。


 半年も経てば流通は元通りと言ってよい状況にまで改善されていた。


**


 半年が過ぎ、ナイワーフの町が一段落する。


 北部の防壁が完成したことに加え、定期的に町の周囲をパトロールすることを習慣づけたのだ。

 モンスター発生が少なかったオセラシア自治区では知られていなかったが、安全領域を広げるためである。


 安全領域とは、人間のテリトリーであると主張することにより、モンスターが近寄り難くなっている領域のことだ。



 町も人も、急速にモンスター対策が進んでいく。

 まだまだ危なっかしいものの、平常時であれば対処できる状態になったナイワーフの町。


 そこでデリータは次の一手を打つ。


「タムテンの町を復活させましょう」


 イング王国とオセラシア自治区の国境沿いには三の町があった。

 東から順にサダルパーク、タムテン、そしてナイワーフ。


 タムテンの町はすでにモンスターに壊滅させられていた。

 そのタムテンの町を復活させようと提案したのだ。



 デリータはわかっていた。

 放棄された町を復活させるのは並大抵ではないことを。


 それでもタムテンの町を復活させることには大きな意味があった。

 それは、イング王国側から南下してくるモンスターに対し、防衛線を引くためである。


**

 

 ある夜――

 デリータはひとり、監視塔からイング王国側を眺めていた。


「ハア……さっさと帰りたい」


 ホームシックになった少年のように呟いたデリータ。


 デリータはイング王国が好きなのだ。

 人一倍愛着が強く、本心ではイング王国を離れたくなかったのだ。


 そう――オセラシア自治区がどうなろうと知ったこっちゃない。

 オセラシアに対しての正義感など持ち合わせていない。


 とある理由で嫌々来ているのだ。


 そして――


(この仕事……すぐに終わる仕事ではないな)


 デリータでも予測できないほど、長期滞在になることを察し溜息を吐いた。


 そしてホームシックな表情から、徐々に厳しい顔つきになり、睨みつけるような顔へ。

 睨みつけているモノ、それはデリータにしか見えない風である。


 イング王国側に見える得体の知れない巨大な渦を巻いた風。

 その風はまるで力を蓄えているように見える。


(気を抜けば……この町も飲み込んでしまいそうだ。

 やれやれ……しんどい仕事だよ、まったく)


 得体の知れないナニかが潜んでいる。

 デリータも感じ取ってはいたが、尻尾は掴めずにいた。


 その正体が『星堕ほしおとし』なる組織だとは知らないのだ。


 『星堕ほしおとし』を知るのは、インベントとアイナだけなのだ。



 そして――

 三年の時が流れようとしていた。



****




「うおい!

 増えてる!

 まーた増えてる!!」


 アイナが叫ぶ。

 机に伏せ、うとうとしていたインベントは「体重?」と言う。


「アタシゃ~太ってない!」


 インベントは目を閉じながら笑いつつ呟く。


「ははは、『乳はでかくならない』なんて言っちゃだめですよ、むふふ」


 アイナは咄嗟に胸を両腕で隠した。


「てんめえ、クロだな!

 うるせえうるせえ! 増えたのはアタシの体重でも胸でもねえ!

 倉庫だ倉庫!」


「倉庫?」


「また大量に荷物が増えてるじゃねえか!

 この家は元々森林警備隊の物資倉庫だった家だけど、本当に倉庫みたいになってるじゃねえか!」


 インベントとアイナが住む家。

 それは元々カイルーン森林警備隊の管轄で、ハリド倉庫と呼ばれていた。


 今は空き家だったので、カイルーン森林警備隊総隊長であるメルペのご厚意でお借りしているのだ。

 元倉庫であるため、収納スペースは非常に広い。


「ん~?」


「武器や防具が多すぎんだよ!

 武器屋でも始める気か!?

 それに加え、砂とか岩とか袋とか……もうなんの倉庫だかわかんねえよ!」


「あ~、まあ~、うん」


「ドウェイフさんのところで色々作らせてんだろ?

 それ以外にも森林警備隊の倉庫からも色々かっぱらってきてんな!?

 あと材木屋! 材木屋のおっちゃん、『注文が多い』って嘆いてたぞ!

 ……ん? インベント?」


 インベントは寝息を立てていた。


「ぐあー! もう寝てんじゃねえか!

 机で寝るんじゃねえ! あ~もう!」


 アイナはインベントの頬を軽く叩き、「ほれ、寝室行くぞ!」と腕を掴んだ。


「うん~……わかったあ」


 寝惚けているインベントを引っ張るアイナ。

 だが――


「わあ!?

 おいちゃんと歩け! も、もたれ掛かってくるな!!

 お、お前、筋トレしてるせいかなんか重くなってるんだよ!

 ちょちょちょちょー!」


 徐々に体重を預けてくるインベント。

 そんなインベントを踏ん張り支えるアイナ。


 だが、インベントがぽつりと――


「――今夜は寝かせないぜ」


 なんて呟いたのだ。

 驚いたアイナは体勢を崩し、インベントに押し倒された。


「え? いや……あの」


 赤面し身構えるアイナだが――

 インベントはアイナのお腹の上で本当に寝てしまった。


 アイナは徐々に冷静になる。


 アイナはペチリとインベントの頭を叩いた。

 そして――


「テメエ、またクロだな~?」


 問いかけるものの、インベントは本当に寝ている。

 反応は無い。


「お~いインベントさ~ん?」


 優しく語りかけるアイナだが、ぐっすりと眠ってしまっている。

 起こしてまで問い詰めるの気にはなれないアイナ。


 アイナは丁寧にインベントの頭を持って、覆い被さっているインベントから脱出した。

 そして枕と布団をインベントに。


「風邪ひくなよ~」


 インベントの寝顔を眺めながら語りかけるアイナ。

 インベントは返事したのか、それともただ反応しただけなのか判断に困る声を漏らす。


「まったく。

 しっかし、クロはいたずらっ子で困るねえ。


 ……クロだったんだよな?

 まあいいや、アタシも寝よっと」



 ベットに潜り込むアイナ。


 インベントに押し倒される妄想を振り払いながら、眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔物化している動物が現代生息しているものなんだと思いますが、恐竜は絶滅しているのですか?
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