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最強が煮込まれる裏側で⑦

 「なんでも願いを一つ叶えてやろう」と言われ――

 「叶えてくれる願いを100個に増やして!」なんて言ってはいけない。


 空気読めよ――である。



 さて――


 メティエから誰でも『二人』なら貸すと言われ、クラマはすぐにロメロとデリータを思いついた。

 というのも『二人』というのが絶妙な人数で、ロメロとデリータは圧倒的な一位と二位だからだ。


 だがクラマは知っている。

 ロメロもデリータもイング王国に無くてはならない存在。

 それは『宵蛇よいばみ』の隊長だったクラマが誰よりも理解している。


 「借りていい?」なんて言えば――

 「は? なに調子乗ってんだ? このクソジジイ」――である。


 だが『二人』と言われた時点で、クラマの脳内にはロメロとデリータでいっぱいになってしまった。

 三人目を考えられなくなってしまったクラマは、言ってしまった。


 そして思う。


(怒られる!)


 ――と。

 そう思った直後、待ち構えていたかのように背後から現れたロメロとデリータ。

 当然、待ち構えていたのだが。


 タイミングが悪すぎて、頭がぐちゃぐちゃになるクラマ。


 ロメロとデリータはゆっくりと歩き出し、メティエの背後へ。

 ロメロは嘲笑いながら。


「しっかし傑作だったな。

 女王の無言の圧力にタジタジじゃないか。

 耄碌したもんだな~ジ・ジ・イ」


「う、うるさい……わい」


「ククク、そもそも自分勝手に『宵蛇よいばみ』辞めといてよく戻ってきたもんだ。

 それになんだ? モンスター如きに押されているだと?

 やっぱり耄碌したな」


「これこれロメロ。

 しかしまあ、あたふたするクラマちゃんは面白かったわね。

 ふふ、ごめんねクラマちゃん」


「ぐぬぬぬ」


 『星天狗』で遊ぶメティエとロメロ。

 呆れ顔のデリータ。


 そして、蚊帳の外のゼナムスとファティマ。

 ふたりのことを察したメティエ。


「ごめんなさいね。

 紹介するわ。こちらデリータ・ヘイゼンと、ロメロ・バトオよ」


 挨拶するデリータとロメロ。

 だが挨拶されても二人からすればやはり『誰?』なのである。


「い、いや、このふたりがなんなのだ?」


「助っ人よ、助っ人。

 オセラシアにお貸しする助っ人」


「だ、だが、やはり、たったふたりなど……」


 クラマが子供を叱りつけるように「ゼナムス」と強く言う。


「な、なんだよ」


「たった、ではない。

 仮にもしもふたりの内ひとりだったとしても、この救援依頼は大成功じゃ」


「は?」


 ゼナムスが理解できないのも無理はないと思うクラマ。

 クラマはデリータを見た後、憎たらしい顔のロメロを見る。


(デリータの能力は説明が難しいのう……。

 ちいと癪じゃが……)


「右側の、軽薄な男」


「誰が軽薄だ、誰が」


 クラマはロメロを無視し――


「この男は、無茶苦茶強い。

 どれぐらい強いかと言えば……ワシ二人分ぐらい」


 オセラシア自治区において個人戦力としては断トツのクラマ。

 それはゼナムスもファティマも理解している。


 そんなクラマ二人分。


「おいおい。

 随分()()見積もったな」


「む?」


「ま、ジジイがふたりもいたら伝書鳩みたいで便利かもな」


「は、鳩ォ!?」


「だが強さで言うなら……そうだな、八人分ぐらいじゃないか?」


「は、八!?

 ばっかもん! そんなワケ――」


 ロメロはつまらなそうに笑う。


「とはいえ、ジジイ八人分も働くつもりはないけどな。

 だがジジイが八人に分身したとして、別に負けやしない。

 数は問題じゃねえんだよ。

 ま、あれだな。

 八倍に巨大化するんなら面白そうだな、ハハハ」


 八人に分身したクラマも、八倍に巨大化したクラマも――

 どちらも瞬時にイメージし、そして――すぐに斬り刻むロメロ。


 ロメロの発言に嘘は無い。

 絶対的な強さに裏打ちされた確信。


(このバカタレ、前よりも圧が増しておる)


「だ、だがメティエ様。

 その……本当に良いのか?」


「ん? なにが?」


「こ、このふたりを借りるなど……」


 メティエはロメロを見ながら、意地悪に笑う。

 ロメロも笑う。


「そう言われると……惜しくなってしまうわね。

 どうしようかしらねえ? ロメロ」


「ハハハ、俺の出来の悪い弟を代わりに行かせようか?」


 クラマは墓穴を掘ったのではないかと思い「い、いや」と慌てる。


「メティエ様。

 私も発言しても良いでしょうか?」


 デリータが問う。

 メティエは悪ふざけが過ぎたと思い、咳払いを一つ。


「ええ、もちろん」


「ありがとうございます。

 では改めて、オセラシア自治区の皆様。

 私とロメロが友好国であるオセラシア自治区を救うためにお力添えさせていただきます。

 ですが、私たちふたりで全て解決できるわけではありません。

 当然、協力していただく必要がございます」


 ロメロは「協力なんて俺はいらんけどな」と呟く。

 デリータは視線で牽制し、ロメロは咳払いして目を背ける。


「基本的には、指示には従っていただきたい。

 でなければ私の特性は活かされない。

 それはクラマ様がよくご存じでしょう」


 クラマは頷いた。


「ゼナムス王もよろしいでしょうか?」


「え?」


 判断に困るゼナムス。

 ゼナムスはクラマを見る。


 クラマは力強く頷いた。

 それを見て、ゼナムスは少しだけ偉そうに「わかった」と言う。


 

 こうして奇妙な国家会談は終わった。

 クラマたちは最高な結果――最高過ぎる結果を得た。


 だが、メティエがなぜデリータとロメロを貸し出したのか?

 友好関係だからとはいえ、大盤振る舞い過ぎる。


 替えの利く人材ではないことをメティエが知らぬわけはない。



 その理由を、クラマは一生知ることはない。


****


 ナイワーフの町。

 クラマたちがイング王国へ向かってから20日が経とうとしていた。


 迫りくるモンスターに対し、最大戦力であったクラマが抜けた状態。

 代わりにガラム率いる第一辺境偵察兵団が奮戦する。


 ガラムは戦略を練り、ナイワーフに残る兵士を鼓舞し、自らが率先してモンスターに対峙した。


 ガラムにはクラマのような突出した能力は無い。

 だが、腕っぷしの強さはオセラシア自治区でもトップクラス。

 勇気もあれば、民を愛する優しさもある。


 王になってもおかしくない人物であり、ゼナムスとは比べ物にならない傑物。

 だが運命の悪戯か【故郷オセル】のルーンはゼナムスに宿った。


 ゼナムスの嫌がらせで第一辺境偵察兵団の団長を任されたが、腐らず耐えた男。

 そんな耐え忍んだ男が、これまでの鬱憤を爆発させるかのようにナイワーフの町で輝いていた。


「防げええ!!」


 ボロボロの盾を構えた兵士たちが盾を重ね、巨大な盾をつくる。

 そしてハウンドタイプモンスターの突進を防ぐ。


「今だ! 討てええ!!」


 機動力を削いだところに、これまたボロボロの武器や小手を装備した兵士が群がり、攻撃する。


 数の有利を活かした作戦。

 これまでにオセラシア軍が確立してきたモンスター対策だが、一定の効果はあった。


 だが兵は疲弊し、装備は劣化していく。

 そして支援物資は滞る。


 ナイワーフの町がもうすぐ死を迎えるのは明らかだった。

 敗戦ムードに士気も下がっていく。


 唯一希望を持って戦うのはガラムだけだった。

 いや、ガラムと第一辺境偵察兵団の団員だけだった。


『イング王国からの救援が来る』


 イング王国は敵国扱い。

 ガラムの言葉を信じるのは、第一辺境偵察兵団の団員だけ。



 だが――

 最強がやってくる。


 馬に乗ってやってくる。

 大欠伸おおあくびをしながらやってくる。


「おい、暴れるな」


 オセラシアの荒野を駆け抜ける馬。

 だが、モンスターを縫うように走っているため、馬は今にも逃げ出しそうになっている。


「ほら、進め進め。

 ――逃げたら、叩き斬るぞ」


 モンスターよりもよっぽど凶悪な人間を乗せていることを本能で察知していた。

 恐怖に板挟みになりながら走る馬。


 そして、最強は第一辺境偵察兵団を発見した。


「お、なんかいるぞ?

 おい、あそこへ向かえ、はいよ~ハハハ」


 馬は必死に走る。

 モンスターだらけの荒野を走る馬は非常に目立つため、第一辺境偵察兵団側もすぐに馬を発見した。


 だがなぜこんな場所に馬が?


 困惑する第一辺境偵察兵団。

 そんな困惑する第一辺境偵察兵団に対し――


「おい、止まれ。

 止まれっての!

 ん~ダメだこりゃ」


 興奮状態の馬は止まらない。

 そして最強は――諦めた。


「ひょいっとな」


 飛び降りるロメロ。

 第一辺境偵察兵団に突撃する馬。


 大惨事。

 怪我人多数。


「ハハハ、すまんすまん」


 全くもって誠意を感じない謝罪とともに現れた最強。


「な、なんだ貴様は!?」


 怒るガラム。

 最強はそんなガラムを無視し、第一辺境偵察兵団を左から右へ流し見した。


 そして――


「ハハ、見事にボロボロだな。

 装備も酷いが、怪我人だらけじゃないか」


 今しがた馬を突撃させた張本人が言うセリフでは無い。

 ガラムが憤慨し、怒声を浴びせるが、無視する最強。


「お前たちはもういいから、さっさと町にでも帰れ」


「な、なにい!」


 踵を返し、歩き出す最強。

 困惑する第一辺境偵察兵団。


 ひとり追いかけるガラム。

 だがそんな時、ハウンドタイプモンスターの群れが迫ってくる。


 立ち止まり「止まれ!」と叫ぶガラム。

 当然最強は止まらない。


 ガラムは勇気を振り絞り、最強に接近し引き戻そうとした。

 だが、最強の肩に触れようとした瞬間、剣の鞘が鳩尾に突き刺さる。


「ぐえぇ」


 冷めた目の最強が振り返り、心底迷惑そうに「邪魔だ」と言い放つ。


 ガラムの目には最強と、飛びかかってくるモンスターたちが映る。


「危ない!!」


 勢いよく突進してくるモンスター。

 だが、なぜか最強を擦り抜けてしまう。


 そして最強を擦り抜けたモンスターたちは、二度と動くことは無かった。


 ガラムは動かないモンスターに囲まれ、叫ぶこともできず硬直する。




 最強は一言――「つまらん」と言い残し立ち去った。

このたびキネティックノベル大賞優秀賞を受賞しました!

ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつもお疲れ様です。とても楽しく読んでます。 願いを100個にするのって、よくよく考えると、ひとつの願いを叶えることと矛盾するから、それは願いを100個いうのと同じ意味で、叶えられぬ願いです…
[一言] 受賞おめでとうございます!好き!素敵!
[気になる点] 八人分に紛れてハ人分がある
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