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ノルド隊③

 カーン――


 森の中で似つかわしくない金属音が木霊した。


 Bランクのウルフタイプのモンスターはすぐに視線を金属音の発生源に向けた。


 そこには白髪の男、ノルドが剣で柄を叩いている。

 姿を隠さず、静寂を邪魔するように音を鳴らすノルド。


 モンスターはこれが威嚇であることをすぐさま理解した。


 グルル――と喉を鳴らし、牙を見せつける。

 威嚇されることなどモンスターにとってはほぼ初めての経験である。

 Bランクのモンスターは一帯の王者と言ってもいい。

 王に仇なす敵。


 そんな敵がゆっくりと歩いてくる。

 王の怒りのボルテージはゆっくりと上がっていく。


 ノルドは馬鹿にするように笑みを浮かべた。

 王はゆっくりと立ち上がった。


 さて……この狼藉者をどのようにこらしめてやろうか――

 王はそんなことを考えているのだろうか?



 ノルドは――


 剣に回転を加えながら――宙に投げた。


 クルクルと回りながら宙を舞う剣。

 王は不思議そうに見ている。

 王の意識は――剣とノルドだけを注目している。


「!!?」


 王は違和感を覚えた。


 気配、臭い、風の音。

 目の前の狼藉者に注目していたため気付くのが遅れたのだ。


 狼藉者は……二人いたのだ。


「ハッ!!」


 インベントの攻撃が王の左後ろ脚を捉えた。

 薙刀は肉を抉り、骨にまで達しようかという状況だったが――


「か、硬~!」


 勢いは十分。踏み込みも十二分。

 だが切断するには腕力が足りない。

 だが王を激昂させるには十分な攻撃。


「グガアアア!!」


 王は咆哮の後に、インベントを追いかけ殺す算段だった。

 だが――


斜対しゃたい連撃」


 攻撃対象から外れたノルドが、すぐさま接近し、今度は右後ろ脚を切り刻む。

 インベントのように甘さの残る攻撃ではない。

 確実に足の腱を狙っている。


 ターゲットはインベントからノルドへと再度戻る。

 王に余裕は無くなった。


 ノルドの命を刈り取ろうと、爪撃がノルドの顔面を襲う。

 だがノルドは余裕をもって躱す。


 ノルドの真骨頂は攻撃ではなく、回避である。

 人間離れした圧倒的な速度と、研ぎ澄まされた動物的な勘でよほどの攻撃でなければ当たらない。


「今だッ!!」


 ノルドが叫ぶ。



「――捕まえた」


 背後から忍び寄っていたロゼ。

 ロゼの触手は王の左後ろ脚に絡みついていた。


**


 王は焦った。


(ヒダリアシガウゴカナイ……!?)


 蔓のように複数の触手が左後ろ脚に絡まっている。

 どうにか外そうと試みるが、別の触手が邪魔をしてくる。


 ロゼは10本の触手を出しているが、八本を捕縛用に使い、残り二本は牽制を担っている。

 触手を振り払おうにも、牽制用の触手が邪魔をする。


 更にノルドがしっかりと邪魔をしてくる。

 意識を触手に向ければ、すぐさま厳しい斬撃が王を切り刻む。


「グ……グガアアア!!!」


 やけくそ気味にノルドを攻撃するが――


「うふふ、こっちですわ」


 絶妙のタイミングでロゼは触手を引っ張った。

 王の体勢は崩れ、無様に転ぶ。立ち上がろうにも触手と切り刻まれた後ろ脚は踏ん張りがきかなくなっている。


「グウウゥ……」


 王は怯んだ。勝機は目の前か?


(ま……ここからが大変なんだ……けどな)


 ノルドは剣を構え、王の眼球を狙う。

 王は防御するが、縫うように防御をすり抜けノルドの斬撃は眼球にヒットした。


 ガキン――


「チッ」


 ノルドは剣を引いた。

 王の眼球はオーラのようなもので護られている。


「やっぱり出やがったか」


 ノルドの攻撃は幽壁に阻まれる。


(幽壁ってのは命に危険を感じるような攻撃をすると自動的に発動するもんだ。

 だが身体のでけえモンスターは幽力が多く、幽壁をある程度操れることが多い。

 詰めを誤ると、優勢だと思っててもいきなり劣勢に陥ることもある)


 幽壁は拒絶の力。

 体内に眠る幽世かくりよの力である幽力が、防衛本能が働いたときに現れる拒絶の盾。


 どんな生物にもあると言われているが、体が大きければ大きいほど幽力の容量も多い。

 つまり大きいモンスターほど幽壁は強い傾向があり、そして持続時間も長いのだ。


 ただ幽壁は燃費が悪いので、攻撃を繰り返せばいずれは幽力は尽きる。


 現状、追い詰めていることは間違いないが、処理をミスれば逆にこちらがピンチに陥る可能性もある。


「ま。今日は問題無いがな」


 ノルドは嗤い――剣を高らかに掲げた。


「やれい!! インベント!!」


 ノルドの咆哮は王の恐怖を煽る。

 王は周囲の警戒をしたいが、ノルドの剣先はしっかりと王の眼に照準を合わされている。

 ノルドに対しての警戒を解くわけにはいかなかった。


「はあぁーー!」


 インベントは空中からやってきた。


 インベントは加速しながら王の首目掛けて落下してきた。


 上空からの攻撃は腕力の無いインベントでも高い攻撃力を生み出すことができる。

 ただし、相手が動いていると攻撃は当てられない。

 よって奇襲によって機動力を奪いつつ、ロゼの触手で動きを封じた。


 ロゼが捕縛しつつ、更にノルドが威嚇することによって、王は磔状態となった。

 お膳立ては整った。



 インベントはモンスター目掛けて落下する。

 モンスターとの間合いを計算しつつ――


(遠隔ゲート――――起動)


 収納空間から長さ二メートルの丸太が発射する。

 インベントの落下スピードに、収納空間から発射するスピードを加えた丸太。


 現世うつしよ幽世かくりよの速さが合成される。


「丸太ドライブ――参式!!」 


 ドン!


 丸太がぶつかる音がした。

 と同時に「ガポア」と聞いたことのない音がした。


 奇妙な音とともに、王の口から空気、唾液、そして血液が吐き出された。

 あまりの衝撃に、王は何が起こったのか理解できない。


 実は――ノルドとロゼも同じだった。


 事前の打ち合わせでは、「動きを止めるから、合図したら思いっきりやれ」と計画していた。

 よってインベントは思い切りやったのだ。


 自由落下ではなく空中で縮地を使い、加速しつつ降下。

 収納空間で僅かだが加速させた丸太を発射する。

 僅かだとしても、速度の合成が発生する。


 そしてインベントの筋力では持てないような重い丸太。

 破壊力を生み出す要素、重さと速さは十二分だった。



 王は力を振り絞り立ち上がる。

 幸運なことに、ロゼの触手は解除されていた。


(コレハチャンスダ)


 千載一遇のチャンスと、王は気力を振り絞る。

 だが、何故か、視線が地面から動かない。


(ナゼダ?)


 王は視線を敵に向けようとしたができない。

 顔が動かないのではなかった。


 ――首が動かないのだ。


 首の骨が粉砕骨折してる。

 気道は塞がれ、血管もズタボロだ。

 首は顔と体を繋ぐ役割だが、その役割はほとんど機能してない状態だ。


(ナンデ……オレハ……)


 しっかり殺意は残したまま、王は崩れ落ちていった。


 静寂。

 強力なモンスターの周囲には動物は勿論、モンスターもいない。

 それは弱者が強者のテリトリーには入らないからだ。


 ロゼは全てのざわめきが消えたかのように感じていた。


(ま……まさかここまでなの……)


 ロゼは自身の首筋を押さえた。

 威力はけた違いながらも以前、丸太攻撃は自分自身が味わっていたからだ。


 もしもインベントのネジが今以上に壊れていたら、ロゼは死んでいたかもしれない。

 ロゼは呼吸するのも忘れて、死骸を眺めていた。



(なんてこった……)


 ノルドは呆れていた。


 幽壁に対しての対処法は大きく分けて二つある。

 一つは力押し。幽壁は絶対的な防御ではあるもののエネルギー効率はすこぶる悪い。

 よって攻撃を続けていればいつかは打ち破れる。


 もう一つは意識外からの攻撃。

 後ろからザクリと刺されれば幽壁は発動しない。

 ノルドが得意とする攻撃方法だ。



 インベントの攻撃も意識外からの攻撃だった。

 ノルドの作戦はノルドとロゼに注目を集めることで、意図的に意識外からの攻撃を成立させた。

 思惑通り事が運んだ。


 ただし……威力が想定外だった。



 Bクラスのモンスターを条件付きではあるものの、一撃で葬れる男。

 インベントの攻撃力は、アイレドでも屈指の実力になっている。



「い、痛ーーい!!」


 そんなインベントは地面を転がっていた。


 上空から加速して地面に着地したのでは確実に怪我をする。

 よって、着地前に収納空間の反発力をクッションにする必要がある。


 だがテンションが上がりまくっていたインベントは、ギリギリまで落下して丸太ドライブを使用した。

 結果、着地をミスった。

 勢いを殺しきれず……足をくじきながら地面を転がったのだ。


「い、痛いいーー!」



 複雑な表情で転げまわるインベントを見る二人。


「締まらねえな」

「締まりませんわね」

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