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最強が煮込まれる裏側で①

 明確な目標やビジョン。

 目標やビジョンを実現するためのプラン。

 プランを継続し実行していく強い意志。


 全て揃っているのならば、達成は自明の理。

 必要なのは時間ぐらいだろう。


 

 『最強のインベント』をつくる。


 シチューに例えるならば、必要な調理器具、具材、調理方法など、万全な状態。

 後は適切な時間、焦がさぬように混ぜ、微調整を加えていく。



 これは――

 インベントがじっくりと煮込まれている間に起きた、世界の物語。


****



 時は遡り――


 クラマが放った『極星きょくせい』をインベントが『螺闇極星ダークコメット』に昇華させ『雷獣王ライジンガ』を葬った。


 一難去ったが――その代償はあまりに大きかった。


 討伐部隊は壊滅状態。

 ゼナムス王の親衛隊も全滅。


 ゼナムスが全幅の信頼を置いていた宰相秘書官であるエウラリアは、裏で『星堕ほしおとし』と繋がっていたが、突如現れたルベリオに殺害されてしまった。


 加え、ゼナムスの実姉であるファティマは、ゼナムスの殺害を決行したが失敗。

 本来ならば極刑でしかるべきなのだが、状況が状況のため軟禁状態に。


 一難去ったとは言え、そもそもオセラシア自治区は大量発生したモンスターに疲弊している状態。

 『雷獣王ライジンガ』を討伐したとはいえ、モンスターの脅威に晒されている状況に変わりはなかった。


 そんな状況下で、オセラシア自治区を導いていくべきゼナムスは混乱状態。


 一番の問題は、皮肉なことに裏切り者だったエウラリアを失ったことだ。


 『愚王』ゼナムスに変わり、様々なことを取り仕切っていたエウラリア。


 世間の評価としては、ゼナムスは各地に無意味な巨大像を造ったり、大事なところで嘔吐してしまう残念な王様。

 それに対しエウラリアは、残念な王様を完璧に支え、王の暴走を上手くコントロールしつつ、尻拭いもこなす。


 ゼナムスに集まる不信感に反比例し、支持されていたのがエウラリアなのだ。



 さて、ゼナムスはこれまで、エウラリアに全て相談し決定してきた。

 そんな心の支えを最悪な形で失ったゼナムスは、決断することに恐怖してしまうようになっていた。


 決定権を持つゼナムスが全てを躊躇することで、判断は遅れ、全てが後手後手に。


 その結果、最前線の町ナイワーフは大混乱。

 モンスターに対し、兵が水際作戦をするしかない状況に陥る。


 高まる不信感。

 逆に死して評価が鰻登りのエウラリア。

 『エウラリア様さえいてくれれば』――そんな声が四方八方から聞こえてくる。


 挙句の果てにゼナムスがエウラリアを謀殺のではないかと囁かれる事態。

 なにせ、エウラリアが死亡した経緯が誰もわからない。


 エウラリアが裏切者だと見抜いたインベントは忽然とオセラシアからいなくなってしまった。

 エウラリアがルベリオに殺害されたのを目撃し、経緯を知るのはファティマのみ。


 不可解な死。

 だが、エウラリアが裏切り者であると、誰よりも確信を持っているのはゼナムスなのだ。


 インベントが言っていたように、エウラリアが死んでからゼナムスを悩ませ続けた『呪曲』は聞こえなくなり、嘔吐することもなくなった。

 

 ゼナムスは誰よりも信頼していた部下の死と、裏切りをほぼ同時に経験したことになる。

 深い悲しみと怒り。


 だがエウラリアが裏切り者だったと証明する方法は無かった。


 死して英雄になっていく裏切者エウラリア。



 日に日に混迷を極め、王家やゼナムスに対し不信が高まるナイワーフの町。

 皮肉なことに、ゼナムスがナイワーフから首都へ撤退することで事態は多少改善された。


 ゼナムスがいなくなることで、自然と現場の指揮権がクラマに移ったのだ。



**


 『雷獣王ライジンガ』が討伐されてから半年。

 『雷事変かみなりじへん』と名付けられ定着していった。


 クラマが獅子奮迅の活躍を見せるが、事態は変わらず最悪一歩手前の状況。

 防戦一方で疲弊していくナイワーフの町。


 民は傷つき、補給物資は滞っていた。

 悲壮感と諦めムードが漂う。


 ナイワーフの町を捨てる。

 いつその決断が下されるか待っている状態。



 イング王国とオセラシアの国境沿いには三つの町がある。

 いや――あった。


 西から東へ順にサダルパークの町、タムテンの町、そしてナイワーフの町。


 サダルパークの町は、どうにか持ちこたえている。

 それはアイレドの町出身のノルド・リンカースと、『宵蛇よいばみ』のロゼ・サグラメントの存在が大きい。


 森林警備隊を組織し常にモンスターに備えているイング王国出身のふたりは、言わばモンスター対策のエキスパート。


 数少ない物資や人材を計画的に運用し持ちこたえているのは、やはりリーダーとなる存在が大きい。


 それに比べ、タムテンの町は短期間で壊滅してしまった。

 ナイワーフの町はタムテンの町と同じ道を辿ろうとしているのだ。


**


 転機が訪れる。

 ガラム・ハイテングウがナイワーフの町へやってきたのだ。


 ガラムはゼナムスの長兄である。

 第一辺境偵察兵団という、オセラシアの遠方を巡る部隊の団長である。


 ガラムは優秀な男だが、ゼナムスとは仲が悪く、第一辺境偵察兵団団長を押し付けられている。

 第一辺境偵察兵団は、大半が移動時間の大変な仕事だからである。


 だが『雷事変』以降、第一辺境偵察兵団には指示が下りてこなくなった。

 これはエウラリアがいなくなったため、指示を出す人間がいなくなってしまったからである。


 ガラムはナイワーフに向かうことを申請していた。

 却下されると思いきや、返事は無し。


 返事が無いのであれば、反逆行為にはあたらないと判断し、第一辺境偵察兵団がナイワーフ入りしたのである。



**


 ガラムはナイワーフの町へ入り、非常に驚いた。


(これほどまでに状況が悪いとは……)


 ガラムは町が死に向かっていると肌で感じた。


 一刻も早く手を打たねば命取りになる。

 すでに手遅れかもしれない状況。


 ガラムは一通の手紙を乱暴に握りしめ、とある部屋に向かう。


 ファティマが軟禁されている部屋へ。


**


「あらあら~。

 お久しぶりです~ガラム兄さん」


 力無い笑顔のファティマ。

 まるでナイワーフの町と呼応し弱っているように見えた。


 ガラムは顔を強張らせながら、握っていた手紙を手渡した。


「ファティマ。

 これは――なんだ!?」


 ガラムが握っていた手紙。

 それはファティマからガラム宛の手紙だった。


 ファティマは目を細め、手紙に目を落とす。


「あはは……カッコいいこと書いたのに申し訳ないのですう。

 いやあ~失敗してしまいました~」


 ガラムは舌打ちする。


「バカなフリはやめろ、ファティマ」


 ファティマから笑顔が消える。

 道化の仮面を捨てたのだ。


「フフ、フフフ。

 計画は失敗しました、それが全てですよ」


「お前は……本当にゼナムスを殺そうとしたのか?」


「ええ、手紙の通りですよ、兄さん。

 千載一遇のチャンスだったのに、失敗しました」


 ファティマの手紙。


 その中には、ゼナムスを殺害すること。

 そしてゼナムス殺害後はガラムがオセラシア自治区を仕切って欲しいと書いてあったのだ。


「なぜ……そんなことを」


「なぜ?

 それは兄さんにもわかるでしょう?」


「それは……まあな」


 ゼナムスの存在がオセラシア自治区にとって癌であることは、誰よりも理解しているふたり。

 国を思えばこその行動。


 あまりに無様なゼナムスに対し、反抗的な態度をとっていたガラム。

 結果、第一辺境偵察兵団に送られてしまった。


 そんなガラムの様子を見ていたからこそ、ファティマは違う手段をとった。

 政治に全く興味がない、遊び惚けている愚かな女を演じたのだ。


 ゼナムスにファティマが取るに足らない存在だと認識させるために。

 そして虎視眈々とゼナムス殺害の機会をうかがっていたのだ。



「ファティマ。

 俺はナイワーフの町を救うために前線に出ようと思っている。

 だが……ナイワーフはもうだめかもしれん。

 ファティマ。

 お前はどう思う?」


「私の意見を聞いたところで……」


 ファティマの肩を優しく掴むガラム。


「俺はナイワーフの状況を把握していないんだ。

 だが色々聞いている時間も無い。

 だからファティマ。

 俺はお前に状況を聞くのが最善だと思っている。

 お前が希望があると言うなら、俺は命を賭してナイワーフを守る。

 なにせ、俺は誰よりもお前が聡明な妹であることを知っているからな」


 ファティマは申し訳なさそうに笑う。


「兄さん。

 ごめんなさい、もうナイワーフは手遅れです」


 ガラムは唇を噛み「そうか」と呟いた。


「――手があるとすれば」


 目を見開くガラム。


「手があるのか?」




「イング王国に救援を求めるしかないと思います」

モンスターがやってきた!

どうする?

①たたかう

②にげる

③検討する

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