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【収納空間】を極める男 ~モンスターを狩りたいので誰よりも【収納空間】を使い込んでいたら、色々な事件に巻き込まれてしまう。『俺はモンスターを狩りたいだけなのにぃ!』~  作者: 森たん
第十三章 収納空間と極める男編

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エピットローグ

 ピットがカイルーンの町を離れる前。


「肉体のトレーニングだが、ハードにやるのであれば一日やって二日休ませるぐらいが丁度良いだろう。

 ただ、バランスはしっかり考えるべきだ。

 上半身ばかりやるのは良くないな。

 後は食事。インベント君は小食……集中すると食事を忘れるきらいがある。

 トレーニングするのならもう少し食べたほうが良い」


「は、はい」


 インベントが眠る中、今後のアドバイスをみっちりアイナに伝えていた。


(な、なんでアタシが筋肉講習受けてんだよ)


「剣に関しては……言いたいことは山ほどあるが、それは君が見てあげなさい。

 ただ、肩甲骨がほとんど動いていないのは気になる。

 胸を張るようなストレッチは入念にさせたほうが良いだろう。

 それから――――」


(い、いつまで続くのこれ!?)


****


**


 数時間に及ぶピットの講習を受け、心底疲れたアイナ。

 それでもインベントは目覚めない。


「挨拶ぐらいしておきたかったが、そろそろ私は『宵蛇よいばみ』に戻る」


「あ、そうですよね」


「アイナさん」


「はい?」


「直接言おうと思ったが、最後に一つだけ。

 私は、インベント君は『宵蛇よいばみ』に入るべきだと思う」


 アイナは目を見開き、こめかみをポリポリ掻いた。


「こいつは『宵蛇よいばみ』に入らないと思いますよ。

 シシシ、多分ですけどね」


「そうか。

 ま、伝えておいてくれ。

 私に決定権は無いが、その気があるのなら推薦しよう」



****



 カイルーン森林警備隊駐屯地へ向かうピット。

 『宵蛇よいばみ』との待ち合わせ場所である。


「久しいのう」


 道中、予想外のタイミングで声をかけられたピット。


「……クリエさん。

 こんな場所に独りは――」


 「危ない」と言いかけてピットは首を振る。


「危なくは無いですね。あなたならどこにいても安全でしょう」


「ハッハッハ。

 なにを言う、これでもか弱い女子じゃよ」


「ふっ、それではエスコートいたしましょう」


 歩き出すピットとクリエ。


「で、どうじゃった?」


 ピットは内心で、きたかと思った。


(インベント君のことがよほど気になるのだろう。

 支援もしてあげているし、私を向かわせたぐらいだ。

 しっかり状況報告せねばな)


 ピットは勘の悪い男ではない。

 クリエが待っていた時点で、インベントのことを早く知りたいのだろうと理解していた。


 ピットは10日間の出来事を話し始める。

 10日間のインベントを、まるで観察日記のように事細かく。


 トレーニング内容や話したこと。

 更には筋トレメニューから献立まで。


 これでもかとばかりにインベントに関して報告する。

 最後に模擬戦のことを話し、締めくくった。


 そしてもう駐屯地が見えている。


(ふふふ、我ながら完璧な報告だな)


 ピットは顔に出さないが、ご満悦。

 だが――


 駐屯地に入る気が無いクリエは立ち止まる。

 そして表情を変えず、小さく首を傾けた。


「……なにか気になることでも?」


「ん?

 いやいや、インベントのことはよ~くわかった。

 もうお腹いっぱいじゃ」


「だったら……」


「ふむ、私が知りたいのはのう、ピット。

 お前さんがどう思ったかを知りたいんじゃよ」


「私?

 私が、インベント君をどう思ったかですか?」


「違う。もうインベントの話はいらん。

 ピットはこの10日間でなにを思ったのかが知りたいのじゃよ」


「え? ん?

 いや、私は10日間しっかりインベント君の指導をしてきましたが……」


 クリエは「やれやれ」と首を振る。

 困惑するピット。


「ピットや。

 おぬしの気持ちになにか変化は無かったのか?」


「私の気持ち…………か」


 ピットは顎に手を当てた。


 『気持ちの変化』と問われ、思いついた答えがピットにはある。

 だが、あまり話したい内容ではなく、とぼけようかとも思うが――


(この人相手にそれは無理か)


 観念したピット。


「そうですね。

 気持ちに変化と言われれば……ううむ説明が難しいですが……。

 一言で言うなら、諦めですかね」


「ほう」


 『諦め』という後ろ向きな発言に、クリエは小さく笑みを浮かべた。


「メティエ女王やクラマ様、デリータ隊長や兄。

 それにクリエさんもですね。

 偉大な人たちとインベント君はどこか同じ…………同じなのか?

 まあ、なんとも語りにくいのですが、私のような凡人とは明らかに違うなにかを感じました。

 そして、届きようがないことを確信しました」


「なるほどのう。

 だから『諦め』か」


「久しく感じていませんでしたが、努力しても到達できない世界……領域がある。

 それは生まれ持ったものなのかもしれません。

 もしくは私が劣っているだけなのかもしれません」


「ハッハッハ、天下に轟く『月光剣』がなにを言うか。

 おぬしも十分に天才の部類じゃろうて」


「ははは、私は天才ロメロの弟ですよ?

 私が天才なら、兄は神にでもしなければ辻褄が合いません。

 とにかく越えることなどできぬ壁が確実に存在する。

 そんな片鱗を、インベント君からも感じました。

 ふ、劣等感なのかもしれませんね。


 ただ、まあ、少しすっきりした気もします」


「ほう」


「そういう星の元に産まれた人間がいる。

 そして私は違う。

 だから諦める。

 ははは、これは堕落でしょうかね?」


「いやいや、よ~く理解できるよ」


 天を見上げるピット。


「未練だったのかもしれませんね。

 ただインベント君に会えたことと、兄さんと長く会っていないことで未練を断ち切ったような……。

 むむ?」


「ん?」


「あの……。

 私をインベント君に会わせたのはてっきりインベント君のためだと思ってたのですが……。

 まさか、私のため??」


「ハッ、当たり前じゃろう。」

 インベント(アレ)は放っておいても構わん。

 ピットと出会うことで良い方向に進んだ気もするが……正直わからん。

 あの子は本当に特殊だからのう」


 ピットは髪をかき上げた。


「なんだ……私のためだったのか、ははは」


「ハッハッハ、忘れておるのか? ピット」


「む?」


「私はのう、可愛い可愛い弟の代わりに『宵蛇よいばみ』を預かっておる身。

 最優先は『宵蛇よいばみ』なんじゃよ。

 インベントはついでじゃ」


「は、ははは」


「本当はのう、10日間の休暇は本当に休暇のつもりだったのじゃ。

 インベントと会うことが良い風向きになると思って向かわせたが、まさか10日間みっちり修業とはのう。

 ほんに真面目な男よ」


「え?」


「人型にやられた傷。

 し~っかりと治したほうが良いと思っての」


「ああ、なるほど」


「なんなら、もう10日ほど休んでも良いぞ?」


「い、いやいや、もう休みは当分不要です。

 身体がなまってしまう」


「そうかそうか。

 では明日から頑張ってもらうとしようかのう。

 期待しておるぞ」


「はは、頑張りますよ」



 こうして『宵蛇よいばみ』に戻った『月光剣』。

 元々十二分の活躍をしていたピットだが、その二刀流は更に輝きを増していくことになる。



 太陽の光を反射させることで月は輝く。

 太陽と月は切っても切り離せない関係。


 だが『宵蛇よいばみ』の月は、もう太陽が無くても輝ける。

 むしろ太陽がいるからこそ、月は輝けなかったのだ。



 インベントと出会うことで、兄という呪いをピットは断ち切ったのだ。


****


 ピットと別れたクリエは、カリュ―と共に夜を過ごす。


「これで……ピットも力を発揮できるとよいのう。

 デリータの代わりは私が務めるとして、ロメロの穴はピットに埋めてもらうとするか」


 月を見上げながら、クリエはピットの言葉を思い返す。


『メティエ女王やクラマ様、デリータ隊長や兄。

 それにクリエさんもですね。

 偉大な人たちとインベント君はどこか同じ…………同じなのか?

 まあ、なんとも語りにくいのですが、私のような凡人とは明らかに違うなにかを感じました。

 そして、届きようがないことを確信しました』



(インベントはデリータやロメロとは違うんじゃよ、ピット。

 それに私も違う。私もインベントも役割が無い。

 どちらかと言えば私とインベントは近いのかもしれんのう。

 どちらも……私欲に生きているからのう。


 さあて……インベントはどう転んでいくか)



 渦巻くインベントの風を感じながら、クリエは眠りについた。

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