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ピット③

 引かぬインベントに困惑するピット。

 見かねたアイナがインベントの手首を掴み――


「ハハハ~すいませんね~ピットさん。

 ちょっと作戦タイムですう~。ホレ、こっちこい!」


 引っ張られるインベント。


 アイナは大きく、本当に大きな溜息を吐いた。


「あのな~インベント、それにクロ。

 アタシはピットさんの意見はもっともだと思うぜ。

 まったくよう、そもそも剣一本もしっかり扱えないのに、二刀流なんてさ」


 窘めるかのようなアイナの発言。


 だが、アイナはインベントたちの考えを批判する気は無い。

 インベントもクロも、一度決めたら引かないことは誰よりも理解しているアイナ。

 それならばいっそ、協力しようとしているのだ。


 ピットを説得するために、アイナも納得しておきたいのだ。


『カカカ! アイナっち。

 間違っているぞ。確実に間違っている』


「アタシが間違っていると。そりゃまたなんでだい?」


『例えば斧を上手くなりたいとする。

 そのためにまずは同じ刃物の包丁から練習するか?』


「……なんか極端な例だな」


『二刀流を覚えたいなら下手くそでも二刀流から始めるべきなんだよ。

 それも左手はオマケって考えからスタートするのは良くねえ。

 理想は左右どちらでも自在に武器を操れる状態』


「う~ん……」


『カカカ、ここからはベン太郎にはオフレコな』


「お、おふれこ?」


『言うなってこと! 内緒の話!』


「あ~はいはい」


『別にベン太郎が二刀流を極めなくても構わねえんだよ』


 『ちょっと! それどういうことよ!』と憤慨するシロの声。


『うっせえうっせえ! シロには後で話すから!

 そりゃ~さ、ベン太郎本人がそこそこの剣豪にでもなってくれれば戦術は増えるんだ。

 カカ、そんなの正直何年かかるんだって話だろ?

 それは剣一本だろうが二本だろうが変わらねえんじゃねえの?』


「う~ん……。

 でもなあ、さすがに二刀流と比べると難易度が……」


『う~ん、それもそっか。よし! 論点変える!

 下手くそでもいいんだよ。

 だけど左右どちらでも満遍なく使える状態ってのがありがたいんだよ。

 そのほうが私たち的にはサポートしやすい』


 シロが『え? そうなの?』と言う。


『だあー! シロ! 後でちゃんと説明するから待っとけ!

 もう~。

 と言っても説明するのは難しいところだが……ほら、ベン太郎って右利きだろ?

 だから右手をメインに使ってるんだよな。

 なんだけど、私たちからすれば右とか左って関係無いんだよ』


「それは……クロもシロも両利きってことか?」


『う~ん……いや、私は左利きでシロは右利きなんだけど……。

 ベン太郎をプレイヤーとして見た時、左とか右とか関係無いんだよな。

 格ゲーなら気にするけど、FPS視点なら関係無いっていうか』


 シロは『私、左苦手だけど……』と呟くが――


『シロー! 話しをややこしくすんじゃねえ!

 シロは困ったらすぐに右に移動しようとするの直せよな!

 右キーばっか使いやがって!

 そういや昔、【右側じゃ必殺技出せないよ~】ってベソかいてたな!』


『な、泣いてないし!

 そもそも格ゲーは苦手なの!』


『わかったわかった。

 え~っと、そんな感じなんだけど、アイナっち理解できた?』


「いや、今の話しでなにを理解しろと……まったく。

 まあいいや、とにかく二刀流というか……両利きみたいな戦い方を覚えさせたいんだな?」


『お、さすがアイナっち。

 そういうことそういうこと!』


 アイナは目を細め、握っていたインベントの手首を放し――


「ったく……だったら左手で剣の練習すりゃいいだけじゃね?」


 ぶつくさ言いながらアイナはピットの元へ。


『カカカ、それも考えてたんだけどさ。

 いや~都合良く二刀流が現れるとは。

 渡りに船とはまさにこのことだよなあ! アイナっち! カッカッカ!』


 クロの高笑い。

 アイナには届かなかった。


**


「すんません。

 説得してみたんですけど、やっぱりだめでした。

 ピットさんのお考えはもっともなんですが……教えてもらうわけにはいかんでしょうか?」


 ピットは頷いた。


「まあ、そんな気がしていた。

 そうだな。インベント君。

 ひとつだけ聞きたい」


「はい、なんでしょうか?」


「本当に二刀流が必要なのか?

 私は君が戦っている場面をほとんど見たことが無い。

 最後に見たのは、兄の――おふざけに付き合わされていた時だ」


 インベントは「おふざけ……ああ、ロメロチャレンジか」と渋い顔になる。


「あの時、君はフルプレートメイルを纏い、かなり奇妙――いや特殊な戦い方をしていた」


 アイナは「奇妙で間違いないと思います」と肯定し――

 インベントは「あ、フルアーマーXXダブルエックススタイルか!」と昔を懐かしむ。


「正直、私はあの時、感心した。

 あの頃のインベント君は、今よりずっと細く、お世辞にも強そうには見えなかった。

 兄がなぜインベント君を相手に選んだのか理解できなかった。

 だが、君は独創的な創意工夫で兄を破った」


 インベントは笑顔で「えへへ、創意工夫だって、アイナ」と言い――

 アイナは「アタシはくっそ重い鎧を運ばされた思い出しかねえけどな」と。


 ピットは話を続ける。


「兄にとって君は特別らしい。

 兄に認められるなんて数えるほどしかいない。

 そんな君がどれほど強くなったのか、正直、興味があった。

 だが、君の剣の腕は正直酷いものだ。

 兄は、君と引き分けたなんて言っていたが、とても信じられん」


 アイナはインベントを見ながら、頭を掻いた。


(そりゃ……強そうには見えねえだろうな。

 収納空間を封印して、練習してるのはズブの素人の剣術だからなあ。

 どうしよっかな……説明とかしたほうがいいのか?)


 インベントの事情は特殊である。

 全て説明するとなると時間がいくらあっても足りない。


 だがインベントは小さく鼻で笑う。


「ふふっ。

 強くなるためには二刀流が絶対に必要です。

 自信は無いけど、確信がある」


 インベントは二刀流の先に、自分自身がどこまで飛躍できるのか自信は無い。

 だが、マスターダークが言うのだから間違いない。だから確信がある。


 逆に言えば、マスターダークの存在を知らぬピットからすれば、意味が分からないのだ。


(むう……?

 『自信』と『確信』は連動するものではないのか?

 というよりも、確信があるが自信が無い状態とは?)


 目を細めるピットのことなど気にせず、インベントはロメロのことを思い出し、呆れが混じった笑みを浮かべた。 


「まったく……ロメロさんは本気でアレを引き分けだと思ってるのか。

 ピットさん、あんなの引き分けじゃないですよ。

 俺はズタボロになって、一応最後に一撃決めただけ。

 あんなのは引き分けとは言いません。

 もしもロメロさんが本気で殺しにきてたら10回は死んでますね」


 ピットは息を飲む。

 ロメロに一撃を喰らわすことができる人間は、イング王国全土を探しても恐らく見つからないからである。

 当然、ピット自身にも不可能。


「だけどまあ……。

 あ、言っておきますけどね!」


「ん?」


「俺は別にロメロさんに勝つぞー! とか思ってませんからね!

 あの人……本当にしつこいんですよ! まったく」


 ピットは乾いた笑いで返す。


(兄は興味がある時は強引だが、飽きられれば見向きもされんさ。

 ……俺のようにな)


「――でも」


 インベントの右手は自然と胸元へ。


「これまでの戦い方も、突き詰めていけばロメロさんを倒せる日が来ると思ってた。

 だけど……くふふ、うひひ。

 あの人、俺対策に()()()を見せてきましたからね」


 ロメロと別れる日。

 ロメロはインベントを仮想敵とした演武を実演した。

 これまで一度も見せたことの無いロメロの二刀流。


 その演武を見て、これまでの戦術は通用しなくなったことをインベントは痛感したのだ。


「別にロメロさんの二刀流を見たから、二刀流にしたわけじゃないと思うけど。

 でも過去の延長上では多分、もうロメロさんには届かない。

 だけど、この新しい戦い方の先には、ロメロさんにも届く気がしてるんですよ。

 フフフ、ハハハ」


 インベントの発言はピットに対してだけでは無かった。


 一番伝えたい人物、マスターダークにもしっかりと届いていた。



 クロは右目に蒼い炎を宿らせ――比喩ではなく本当に蒼い炎を宿らせていた。

 中二病全開の構えをしながらクロは笑う。


『安心しろ、ベン太郎。

 しっかり、アレも仮想敵に入れてるっての。

 カッカッカ! カーッカッカッカッカッカ!』

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― 新着の感想 ―
[一言] マルチタスクの訓練なんだろうけど反発制御の方がやっていること凄いと思う。反発制御も身体能力によって限界値が決るだろうから身体能力上げることが能力の上昇になるのか。
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