レベル1×2
剣の修業は三日目へ。
崇拝するマスターダークからの指示なので、やる気満々なインベント。
だがやる気と成長が全く伴わない。
頭を悩ませる剣術指南担当のアイナ。
(地道にやるしかねえなこりゃ。
一歩一歩がんばろう……アタシ)
**
転機が訪れたのは四日目。
アイナのアドバイスを意識し、剣を振るうインベント。
だが驚くほど成長しない。
アイナは声をかけようとするが、なにを言うべきか考えていた。
だが――
インベントは両手で持っている木剣をじっと見つめる。
(う~ん、こうじゃないな。
もっとこう……ズガっと)
両手で持っていた木剣を、片手持ちに。
そして思い切り左右に二回振る。
すると――
「あ!」
木剣が手からすっぽ抜け、飛んでいく。
「し、しまったな」
少し恥ずかしがって笑みを浮かべながら木剣を拾うインベント。
そして自主練を続けるインベント。
アイナは黙ってインベントの様子を眺めていた。
(急に動きが……変わった)
両手持ちから片手持ちへ。
基礎から教えていたアイナからすれば、「アドバイス無視してなにしとんじゃい!」という話ではある。
だが、明らかに動きが良くなったのだ。
(左右の連撃に関しては、しっかり腰の入った斬撃になってる……気がする。
うん、悪くねえな。片手持ちが性に合ってるのか?
だけど……)
身体を捩り溜める動作。
剣を持っていない左手を突き出す動き。
小さなジャンプ。
(う~ん……意味が分からん無駄な動きが多い。
なんだこりゃ)
良くなったのか悪くなったのか。
とりあえずアイナはインベントの観察に徹することにしたのだ。
****
「おお~い、シロ~」
「なあに? フミちゃん。
ってどうしたの? ひどい顔だよ?」
白目を剥きそうな顔に、なにかに掴まっていないと立てないほど衰弱しているクロ。
「徹夜で色々作業してたから、すんげ~眠い」
「や、休んだほうが」
「そりゃそうなんだけどな。
休んでる場合じゃない。
今を逃すと、一日後になっちまうからな。
ほらさっさと準備しろい」
「準備? なんの?」
「モンブレだモンブレ。
さっさと準備しろ~」
ここ三日間、クロはモンブレを起動することを禁じていた。
プレイしなければ、インベントが夢でモンブレを見れないことは確認済み。
だから事前にインベントに対して、モンブレの夢が見れなくなると伝えておいたのだ。
シロは戸惑いながらも「わかった」とモンブレを起動する。
「カカカ、サーバも準備しておいたからな」
「サーバ?」
「ほれ、新しいサーバがあるだろ? そこに入れ入れ」
モンブレの画面が開く。
そこには『ベン太郎強化サーバ』との文字が。
『ベン太郎強化サーバ』を選択したシロは、あることに気付く。
「あれえ? キャラメイク画面にいかないよ?」
「ふふん、キャラメイクは不要だ。
シロはただプレイすればいいだけ」
「え? でも……」
振り返るシロの目に映るクロは、寝不足も相まって非常に邪悪な笑みを浮かべていた。
「カメラ設定も不要だぜ~」
「え? なんで?」
カメラ設定。
その名の通りカメラの各種設定。
一例をあげれば、コントローラスティックを傾けた際のカメラの移動速度。
他にはコントローラスティックを右に倒した時、カメラも右に移動させるか、それとも左に移動させるか――など。
気にする人は気にするが、無頓着な人は全く触りもしない設定。
だがシロは、これまで念入りにカメラ設定を調整してきた。
それは性格的な理由もあるが、もう一つ大きな理由がある。
それはシロが使う武器が関係している。
「弓にしてもボーガンにしても、カメラ設定は必須だよ?」
そう、シロがモンブレで主に使用する武器は、遠距離武器である。
咄嗟の判断が求められがちな近距離武器は性に合わないため。
そして遠距離武器で重要なのは『エイム』――モンスターにいかに素早く照準を合わせるかである。
そのためにはカメラ設定が非常に重要。
だが――
「カッカッカ。
いらねえんだよ、カメラ設定なんて。
そんなチマチマしたことは気にする必要ねえからさ」
「え?」
「ほれ、ロードが終わったぞ」
画面にはキャラが表示される。
男性キャラクター。
そしてその手には――剣と盾が。
「へ?
キャラ……全然可愛くないし、それに片手剣じゃん」
「カッカッカ!
そうだ、シロ!
お前はこの『インベント君壱号』を使ってプレイするんだ!」
「な、なんでえ!?」
「なんでだあ? そんなの決まってるだろ。
ベン太郎を強くするためだっての」
「わ、私がモンブレやったってベンちゃんは強くならないよ!」
「カカカ! なる! 絶対になる!
昼間はアイナっちが稽古してくれてる。
そんでもって寝てる間もモンブレで睡眠学習。
24時間フルに使えば、ベン太郎でも確実に成長する!
――――ハズ」
「確信無いんでしょ!? 絶対無いよね!?
それに片手剣なんて私、凄ーく凄く苦手だよ!
知ってるよね!? そもそもアクションゲームが苦手なんだよ!?
フミちゃんがやればいいじゃん! そうだよ! 絶対フミちゃんがやるべきだよ!」
クロは手と頭を振り子のように振る。
「私じゃだめだっての。
私も片手剣はそれほど得意じゃないけど、それでもある程度練習すればそこそこのレベルになるだろう」
「だったらやっぱり――」
「それじゃだめなの。
ベン太郎は剣の初心者。
シロも片手剣初心者。
初心者同士、まさに『レベル1』のふたり。
一緒に成長していくのが最高だろ?
これこそ、努力! 友情!
それに加えて重要な要素! 好敵手とかいてライバルと読む!
互いに高め合う存在ってわけよ!」
「な、なんか強引だよ、その理論」
「うるせえうるせえ!
私は色々忙しいんだ!
シロはどーせ暇だろ!
エロゲーやってる暇があったら協力しろ!
ベン太郎強くするためだろ!?
シロも頑張るよな!? なに一人だけ楽チ〇コしようとしてんだ!?
このハゲ!」
「は、ハゲじゃないもん!」
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさとプレイ始めろ!
はやくしないとベン太郎が寝ちまうだろ!」
「わ、わかったわよ! もう!!」
クロは大きく欠伸をした。
「夢の中でベン太郎が、シロのことをちゃんと見るように設定しといたからな。
ケッケッケ、私は一旦落ちるわ」
「ちょ、ちょっと!? フミちゃん!?」
「そんじゃあまあ、とりあえずファンガス100体ぐらい倒せ。
そういうステージ用意しといたからな~」
「ひゃ!? ひゃく!?」
こうしてシロの片手剣修業が始まるのだった。
**
「おい、盾系技は極力使うなよ。
ベン太郎に盾持たせてないんだからな」
**
「おい、あんまり非現実的な技は使うなよ。
ベン太郎が真似しちゃうだろ」
**
「逃げんな逃げんな!
立ち向かえ!
だけど避けろよ。
おい! 避けろって言ってるだろ!
見極めろ! 逃げるな! 立ち向かえー!」
「もうやだああああ!!」
24時間修業しますか♪
インベント、インベント、僕らのインベント♪
※ネタが古いですね




