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ノルド隊① 戸惑う少女

いつもよりちょっと長めです。

 ロゼはノルド隊に所属することになり、様々な違和感を覚えることになる。


「あの? 他の隊員は?」


「三人だけだよ」


「……は?」


 怪我から復帰し、ノルド隊での任務初日。

 ロゼは集合時間30分前に来て、他の隊員が来るのを待っていた。


 集合時間の三分前にインベントが来た時――


(新人がこんなギリギリに来るだなんて……弛んでますわね)


 と思った。だが弛んでいるわけではなかった。


 集合時間丁度にノルドがやってきた。

 そして「行くぞ」と言いインベントはついていく。

 ロゼは戸惑ったが、インベントに倣いついていく。


(あら。他の隊員は別の場所で合流かしら?)


 なんて思ったが、ずんずんと森を進んでいく二人。

 堪えきれずロゼは二人に声をかけた。

 そして知る。


 ノルド隊は自身を含めたった三人しかいないことに。


「お、おかしいですよね?

 隊の最低構成数は確か四人ですよね??」


「ん? ああ~そうだったか?」


 ノルドはしらばっくれた。

 そもそもずっと一人行動だったので、まともな隊の規則など知ったことではないからだ。


「ずっと二人だったから不安だったんだよね。

 いや~ロゼが入ってくれて良かったよ。これでエンボス司令官に怒られずに済むよ」


 思考が追い付かないロゼ。

 なぜこのような規律違反の隊が存在しているのかわからず不安に襲われた。


 ロゼは向上心が強い。

 どこの隊に所属したとしても存在感を発揮しようという気概のある女だ。

 だが――。


(わ、私の輝かしい今後に向けて、この隊で本当に良かったのかしら……)


 不安はまだ序の口なのだ。


**


 次に驚いたのがノルド隊の進行スピードだ。


(お、恐ろしい速さでノルド隊長は突き進んでいく……!

 ついていくのがやっとですわ!)


 ノルドはアイレドで一二を争うスピードの持ち主だ。

 そんなノルドは二人のことを気にもせず危険区域を突き進んでいく。


 実際はロゼのことを配慮して多少スピードを落としているのだが、そんなことは悟らせまいとノルドはロゼがついてこられるギリギリで走っていた。


「とりあえずここでいいか」


 30分走り、ノルドは止まった。

 ロゼは息を切らしているがふと異変に気付いた。


 後ろを走っていたインベントがいないのだ。


「あ、あら? インベントは?」


「ん? そこだ」


 ノルドが指差した先にインベントがいる。


(ど、どういうことよ??

 あの子は私より後ろを走っていたはずでしょう……いつの間に、どこで抜かされたの?)


 インベントは反発移動リジェクションムーブで森林より上を飛んできたのだ。

 だがロゼはインベントが飛べることを知らない。

 凄まじい跳躍力があろうが飛行できるとは想像できていない。


 飛ぶと跳ぶは似て非なるものだからだ。


 そして全く息も切らしていない。

 ロゼは生まれて初めて劣等感を覚えずにはいられなかった。


(うふふ……何が……『神童』よ。私なんて大したことないじゃない……)


 少し落ち込んでいると、ノルドが――


「おい。後ろだ」


 と呟いてロゼの肩を軽くたたきながら通り過ぎた。

 そう思ったのも束の間――


 ラットタイプのモンスターを斬り伏せていた。


「なッ??」


 あまりの早業にロゼはびくりとした。

 そして思い出す。ここは危険区域の真っただ中であることを。


「あ、あの!」


「なんだ?」


 ノルドは「声がでかい」と言おうかと思ったが止めた。


「ここって……恐らく危険区域……ですよね?」


「ああ。そりゃあそうだろ」


 何を当然のことを聞いてくるのかと思いノルドは少し呆れ顔だ。


「き、危険区域をあんなに爆走してきたんですか!?」


「ん? あ~そうだな」


 で? だから? どうしたの?

 そんな言葉が聞こえてきそうな顔だ。

 だがロゼも引き下がれなかった。


「ふ、不意打ちされたらどうするんですか?」


「不意打ちだぁ?」


 ノルドは新人の戯言を聞いたかのように嘲わらう。

 ロゼは自分が間違っているかのような感覚に陥るが、そんなことは無いと頭を振った。


(き、危険区域での死傷者は大半がモンスターに知らず知らずのうちに接近して攻撃されることでしょう?

 よって危険区域では安全第一が求められる。

 あ! はは~ん! そういうことね!)


「なるほど! ノルド隊長は【マン】のルーンをお持ちなんですね!」


「ハッハッハ! あんなレアなルーンあるわけ無いだろう」


「え?」


「そんなことより、さっさと行くぞ」


 ノルドは危険区域を颯爽と歩いていく。

 インベントもついていく。


(い、いやいや! 散歩じゃないのよ!?)


 ノルドが持つ【エワズ】のルーンは、鍛えれば鍛えるほど野生の勘が強化され、モンスターを発見する能力が高くなる。

 ただし、危険区域を闊歩しても問題ないレベルまでルーンを使いこなせるのはごく一部だ。


「い、インベント」


「ん? どしたの?」


 ノルドは話にならないと感じ、ロゼはインベントに逃げた。


 インベントはいつも通りだ。

 非常に落ち着いているインベントを見て、ロゼの不安は増す。


「こ、こんな危険区域を闊歩して大丈夫なのかしら?」


「ん? 何が?」


「い、いえ……そのぉ……」


 本音を言えば『怖い』だった。

 だが同期のインベントに対し、そんな言葉を言えるほどロゼのプライドは低くない。

 どうにか言葉を選び――


「こ、こんな危険区域のど真ん中に入る必要は……無いんじゃないかしら?」


「え~? そんなことないでしょ」


 インベントはニコニコしている。

 無邪気な笑顔を見て、ロゼはゾクリとした。

 そして――


「だって――――モンスターを狩るには危険区域じゃないとね」


 無邪気な笑顔は無邪気な精神から来る。

 モンスターをただ単純に狩りたいという強すぎる意思。


 己が恨みのためにモンスターを狩るノルド。

 己が楽しみのためにモンスターを狩るインベント。


 二人の狂人がいる部隊。


 少女の頃、枯れ尾花を恐れていた時に感じていた恐怖感。

 そんな、なんとも言えぬ恐怖感にロゼは慣れるしか道は無かった。


 彼女には逃げるなんて選択肢は無いのだから。


**


 戦闘面でも驚きの連続だった。

 ノルドのモンスターの狩り方は常識的な方法ではないからだ。


 一言で言えばシンプル。

 気付かれる前にモンスターを発見し、気づかれる前に殺す。

 効率面で言えばベストである。


 ただし問題がある。他の隊員では再現性が無い点だ。

 正確に言えば他人が再現するには条件を満たすのが困難である。


 ノルド式の狩りを実現するには下記の条件を満たさないといけない。


 ・事前にモンスターを察知する能力

 ・殺傷力(気付かれる前にモンスターを殺せる力)


 この二点を満たす人物はかなり限られる。

 そしてやろうとする者はいないだろう。危険だからだ。



(ノルド隊長は……強い。

 バンカース総隊長と比べても遜色無いレベルですわ)


 ロゼは剣術に関して抜群の才能を誇る。

 バンカースは入隊試験の段階で、ロゼは別格で才能があると確信していた。


 バンカースは才があり、そのうえ努力をしてきた人物である。

 常人では届かないレベルに達している男。

 だからこそロゼの末恐ろしさをすぐさま理解した。


 そんなロゼから見ても、ノルドは異常な強さだ。

 バンカースよりも強いか弱いかで言えば判断は難しい。

 そもそもノルドは対人戦に興味が無いからだ。


 ノルドの剣はモンスターを殺すことに特化した剣。


(私がもしも……本気で立ち会えば……恐らく瞬殺される。

 速過ぎる……)


 まるで作業のようにモンスターを殺すノルド。



 そして次にインベントだ。


 ノルドが指で「そっちだ」と合図すると、インベントはニコニコしながら探し物を始める。

 そしてお目当てを見つけると嬉々とした表情でいつの間にかナイフを構えている。


 ナイフ投げの技量は大したレベルではない。

 思った場所に届いたり届かなかったりするがそれでもモンスターの注意を惹くには十分だ。



 そして反発移動リジェクションムーブでモンスターの三メートル手前に着地する。

 ――と同時に。


(縮地!!)


 超高速の三メートル移動。

 モンスターは何かが接近した気がした段階で攻撃を喰らう。


 どこから攻撃されたかわからず、いつの間にか死んでいるわけだ。


(何よ……アレは??)


 インベントが異常であることは二度の模擬戦で理解していた。

 だが見れば見るほど理解できない存在。


 そして不可解な点があった。


(あの動きは…………模擬戦と比べ物にならない……)


 一般的な人間は模擬戦のほうが動きが良い。

 なぜなら練習だからだ。


 一部本番のほうが力を発揮するタイプもいるが、基本的には思いっきり自分の力を出せる模擬戦のほうが動きは良い。


 だがインベントは違う。

 模擬戦などしたくないのだ。

 もしもモンスターと模擬戦ができるのならば朝から晩までするだろうが。

 人間との戦いでは彼のリミッターは外れない。


(あの動き……剣術は本当にお粗末なのに……あの子に勝てる気がしない……)


「フフ……フフフ」


 失意の少女は小さく笑った。


(こんな面白い隊があったなんてね……。

 誰も寄り付かないのがわかるわ……。

 隊員が二人しかいないのも当然だわ。

 こんなバケモノの隊にいたくない。

 だけど私はロゼ――神童――ロゼ・サグラメント!

 『妖狐』を超える女)


 ロゼは自身の額を、自身の右拳を尖らせて殴った。


 それは彼女自身もバケモノの仲間入りをすると決めた瞬間だった。


**


(とはいえ……ですわ)


 ロゼは考える。

 自分にできることはなんだろうと。


 モンスターはノルドとインベントが見つけ次第殺しまくる。


(この隊……チームワークが全く無い……いや違いますわね)


 ロゼはこの隊における自分自身の役割を分析する。

 言語化し何が自分にできるかを考えているのだ。


(ノルド隊長は基本的に……さっさと倒せるモンスターは自分で殺してしまう。

 少し距離がある場合はインベントに任せている……のかしら?

 これはこれで……分業できていると言えるのかもしれないわね。なるほど……。

 ノルド隊長のレベル……というかスタンスに合わせるとなると……ふ~む)



 ノルドとインベントはロゼのことなど忘れてモンスターを狩りまくっている。

 ロゼは焦ることなく、二人を観察する。


(しかしまあ……とんでもない数を殺していますわね……。

 これって凄まじいことなのでは? もっと評価されるべき……。

 というよりも何故噂にもなっていないの??)


 ちなみにノルド隊のモンスター討伐数は、一日10~20体。

 だがノルドはまともに報告しないし、そもそも数えてもいない。

 そして証人もいないので何体討伐しているのかは誰も知らなかったのだ。


 インベントもインベントで報告なんて興味が無い。



(ふ~む……ん??)


 ロゼはとある違和感を覚えた。

 ノルドのある動きに違和感を覚えたのだ。



**


 昼食――


 インベントは一人収納空間を弄っている。

 ノルドは眼を閉じている。


「ノルド隊長」


「ん?」


 ノルドとしては気にかけていなかったわけではないが、特段話すことも無かったので黙っていた。

 適当にインベントと話していれば一番ありがたいと思っていたが、話しかけられるほうが楽だった。


「さっき……進路を変えてましたよね」


「……ほう」


 ノルドは――


(コイツ……よく見てやがったな)


 と思った。


「理由を聞いてもいいですか?」


「――あ~」


 ノルドは頭を掻いた。


「ハア……まあいいか。

 あの先には恐らく強いモンスターがいた。だから進路を変えた」


「そ、そんなことまでわかるんですか?」


「フン……そんなことがわからないようでは一人で森の中に入って生きていけない。

 まあ今は三人だがな」


 自嘲気味に言うノルド。


「意外ですわね」


「あ?」


「いえ……バンカース総隊長に聞いた感じだと……その~なんというか……」


 まごつくロゼに対し――


「フン、ハッキリ言え」


「フフフ……もっとクレイジーな方かと思ってました」


「ハハハ。なるほどな」


 ノルドは服を捲り左腕を見せた。

 そこには大きな傷跡があった。


「何年か前に一人で強いモンスターに挑んだが……その時にやられた。

 昔は今以上に無茶もやった。索敵も未熟だった。確かにクレイジーに見えても仕方なかったかもな」


「なるほど……」


 ノルドは自分で自分自身の言葉を反芻した。


「――そうか……クレイジーじゃなくなってきてるのか」


「ノルド隊長?」


「ん? ああ、まあそんな訳だ」


 話はそれで終わり――そんな態度のノルド。

 だが――


「さっきの話に戻るんですが、避けたモンスターに関してです」


「ん?」


 ロゼは笑いながら――


「力を合わせればその強いモンスターも倒せたんじゃないですか?」


 ロゼの意見を聞いてノルドは思った。


(あ~……やっぱ隊員が増えるとめんどくせえなあ……ハア)


 ノルドはインベントを指差した。


「あのバカは恐らくモンスターを見つけたら突進するタイプだ。

 強ければ強いほど燃えるタイプ。ある意味俺なんかよりよっぽどクレイジーだ」


「……わかる気がします」


「この前もイレギュラーと出会ったが、あいつは嬉しそうに立ち向かっていった。

 あんな戦い方を続ければ命がいくつあっても足りねえ。

 そもそもあいつはまだまだ未熟だ」


 ロゼはクスクスと笑う。


「――なんだ?」


「いえいえ。思ってたよりも……お優しいんですね」


「チッ。もういいだろう」


「すいません生意気言いました。ただ……もう一つだけ」


「……なんだ」


 ロゼの瞳に炎が宿る。


「やばそうなモンスターは……私に任せてもらえませんか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ロゼは元は男だったところを妖狐?に女へ性転換されたんですか?
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