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仕組まれた舞台

 インベントたちがカイルーンの町にやってくる数日前――



 『宵蛇よいばみ』の隊長、『炎天狗えんてんぐ』のホムラは、用事を終えカイルーンの町から森の中へ。

 身長は小柄だが、凛とした姿と鋭い眼光は『宵蛇よいばみ』を率いる隊長としての貫禄十分である。


 さて――


 カイルーンの町を出て数分。


「ホムラ、ご苦労じゃったのう」


 クリエ・ヘイゼンと、神猪カリューがホムラを待っていた。

 幼く美しい容姿の少女と、白く大きくそして神々しい猪が森に溶け合っている。


 まるで神話の世界のように。


 クリエを見たホムラは、みるみるうちに眠そうな瞳に変わり、頬を膨らませた。


「こ~なとこにカリューちゃんと一緒にいたら、カイルーンの人に見つかっちゃいますよお~。ぷんぷん」


 ホムラは『宵蛇よいばみ』隊長という仮面を脱ぎ捨て、30歳の女の子『ホムラちゃんモード』に。


「ハハ、そこまで耄碌しておらんよ」


「ま……そりゃそうですケドォ」


 ホムラは知っている。

 クリエの未来予知の能力は、クリエの弟であり、本当の『宵蛇よいばみ』隊長であるデリータ・ヘイゼンよりも精度が高いことを。


 隠れられたら発見することは不可能。

 かくれんぼ大会があれば、優勝間違いなしなのだ。


「さて、皆と合流しようかのう。

 明日はアイレドまで行かねばならんし」


「はあ~い」


**


 『宵蛇よいばみ』本隊と合流するため、歩くふたり。


「すまんかったのう。お使いを頼んでしまって」


 ホムラちゃんは腕組みし「まったくですよ!」と憤慨する。


「すまんすまん。じゃがうまくいったようじゃの?」


「そりゃ~そうです。なんたって隊長の私が頑張ったんですから、えっへん」


 クリエは「えらいえらい」とクリエの頭を撫でた。


「や、やめてください~! もう!

 これでも天下の『宵蛇よいばみ』の隊長なんですからね!

 ……お飾りだけど」


 クリエは首を振る。


「ホムラはよくやっておるよ。

 しっかりと役目をこなしておる。

 お飾りと言うがのう、デリータが前に出たがらんのだから本物の隊長じゃよ」


「へっへ~ん。

 でも、隊長なのに使いっ走りに使われちゃいましたけど」


「仕方ないじゃろうて。

 『宵蛇よいばみ』の威光を使うには、ホムラが一番適任。


 私が出向いても、説得力が無いからのう。

 なにせ私はデリータの代替品。

 そもそも『宵蛇よいばみ』の隊員でも無い。

 ホムラが向かってくれたからこそ上手くいったんじゃよ」


「そりゃあまあ……そうですねえ。

 例の工房や、森林警備隊に『インベントくんは『宵蛇よいばみ』関係者だからサポートしてあげてね』ってクリエさんが言っても混乱するだけですね~」


「私の知名度は皆無じゃからの。

 ま……人里に入るのが億劫だったのも本音じゃがな」


「もお! ぷんぷん!

 工房のほうはインベント君のこと覚えててくれたから良かったけど、森林警備隊のほうは結構大変だったんですよ!

 総隊長さん『インベントなんて知りません』とか言い出すし!」


「ふむ……やっぱりそうか」


「仕方ないからごり押しで『インベント』って名前を聞いたら判断してください! ってことにしましたよ」


「そうか、まあ大丈夫じゃろうて。

 それにインベントがカイルーンにやってくる可能性は……四割から五割といったところじゃし」


「え!? 低っ!?

 もっと確実なんじゃないの!?」


「私の予言は万能では無いからのう。

 それにインベントは行動範囲と選択肢が広過ぎる。

 一番高い可能性に賭けただけじゃよ」


 クリエのルーンは進化した【フェオ】のルーン。

 インベントも風として見えている。 


(数日後、インベントの風が爆発的に濃くなる。

 昔のように黒い風……いや幾つかの風が絡まるような異様な風になる。

 そして、人型モンスターと邂逅する)


 クリエはインベントと『黒猿クロザル』が出会い戦うことは予見していた。

 だが――


(可能性は低いが死ぬかもしれんし、瀕死になる可能性もある。

 しかしなぜかアイレドの町に戻る可能性はかなり低い。

 相変わらずよくわからんわっぱよ。

 未来の選択肢が多すぎるのう)


 イング王国に住むほとんどの人間は、生まれた町で生き、生まれた町で死んでいく。

 引っ越しはあまり多くない。


 そんなイング王国で空を飛べるインベントは、かなり異質な存在。


(しかしまあ……カイルーンの町にやってくる可能性が一番高いのは確か。

 だが、なぜカイルーンなのかのう?

 深夜にカイルーンの町を練り歩いて関係性の深い人物を探したが……誰もおらん)


 みんなが寝静まった夜。

 クリエはカイルーンの町を徘徊していた。


 カイルーンの町に来るのだから、インベントに縁の深い人物がいるだろうと思い探したのだ。

 だが見つからなかった。

 薄い~縁とも言えぬ縁をドウェイフ工房にて発見しただけ。


(縁も無い場所になぜ来るんじゃろうな?

 本当に……予測不能なわっぱよ)


 インベントと関係が深い人間はカイルーンにはいない。


 インベントが最後にカイルーンに滞在したのは二年以上前。

 その頃はロメロ、フラウとともにアイナ隊として活動していたが、特にカイルーンの住人と仲良くなったわけではない。


 人間関係はすべてアイナにお任せ。

 そう――アイナがいるからカイルーンの町を選ぶことになる。



 しかし……クリエの認識ではアイナは死んだことになっている。

 ――オセラシアにて収納空間にアイナ入れた時点で死んだと思っているのだ。


 収納空間にアイナを入れた時点で、アイナの風は消えた。

 クリエからすれば風の消失は死を意味する。

 当然、死んだ人間は生き返らない。


 まさか数日後遠く離れたアイレドの町で復活するなど予想できるはずもなく。

 だからクリエはアイナが生きていることを知らないのだ。



「あの、クリエさん? もしもーしクリエさーん?」


「ん? ああ、少し考え事をしとった」


「まあいいですケド。

 でも、なんでそんなにインベント君に固執するんですか?」


 クリエは「固執……か」と呟き遠くを見る。

 遠く遠くに感じる弟――デリータの風を感じながら。


「そうじゃのう。

 デリータが戻ってくるためには、インベントが必要になる……かもしれんからかのう」


「う~ぬぬ、なんか今日のクリエさんは曖昧だなあ」


 クリエは笑みを浮かべ、待機している『宵蛇よいばみ』本隊を指差した。


「ふふ、遠い未来はどうなるかわからんからのう。

 ほれ、戻ってやれ、隊長殿」


「はあ~い」


 クリエは小さく――


「可能性に賭けてみたいんじゃよ。

 私は……欲深いからのう」


 と呟いた。


**


 くるりと踵を返し、クリエの元へ戻ってくるホムラ。


「なんじゃ?」


「いや、インベント君ってカイルーンに来るかわからないんですよね?」


「まあのう」


「それなのに、ドウェイフ工房に大金を渡しちゃってよかったんですか?」


「別に構わん。

 ど~せデリータの金じゃ」


「え!?」


「私は金なんて持っておらんからのう。

 愛しい姉のために金を使えて、喜んでおるじゃろうて、はっはっは」


「お、おおう」



****


 一方、インベントご一行――


 ドウェイフ工房を出てすぐの場所。


 なぜ『宵蛇よいばみ』の隊長であるホムラが、インベントのために動いたのか?

 戸惑っているアイナ。


「わかんねえ。

 なんで、このタイミングで『宵蛇よいばみ』が出てくる?

 やっぱりロメロの旦那か?

 それだったら、もう出てくるだろ?

 まさか近くに隠れていたり……」


 インベントはビクリとして周囲を見渡す。


「さすがにいないと思うよ、アイナ」


「そりゃそうだな。

 でも理由がわからん!」


「まあ別にいいじゃない」


「なーんでチミはそんなに落ち着いていられるのかね!?

 わけのわからん援助ほど怖いものは無いだろ! え!?」


「まあ、そうだけどモンスター狩れるなら別にいいかなって」


「くっそお!

 よくねえ! いいわけねえ!

 やっぱり理由を知るべきだろ!」


「え~いいじゃない、別に。狩りにいこうよ。

 ふふ」



①状況を受け入れモンスターを狩る?

②理由を知るために行動する?


 さて、チームインベントには二つの選択肢。

 二人の意見は平行線。


 だが――ここで第三の選択肢が。


 突如、アイナの両肩をがっしり掴むインベント。


「わ!?」


(え!? 突然チューしてくる気か!?

 ま、町中で大胆過ぎるー! いや~ん!


 ――――な~んて思わねえよ。もうこのパターンは飽きたっての!)


 アイナはインベントの両手首をがっしり掴み返した。


『何の用だ!? クロ!

 もしくはシロ!』


『あ、バレてた。カカカ。

 ど~もど~もアイナっち』


『今忙しいんだけど!』


『あ~状況は把握してっから。

 カカカ、把握して理解してる上で提案があるんだけど』


『提案? なんだよ』


 意味深に笑うクロ。

 そして――




『ここらで一つ、修業パートに突入しねえ?

 パワーアップイベントぶっこもうぜ。

 というかあれだ。


 【インベント俺Tueee大作戦!】決行しようぜい!』

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