幕間 クレイジーチェリーシンドローム
第12部分 職権乱用ハーレム部隊①
の続きのお話です。
禁断の果実を食べた女の物語。
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それはずっと昔の話。
インベントとラホイルがオイルマン隊に配属された日。
イルイックの滝周辺で、ラホイルがモンスターに足を切断された日でもある。
【癒】持ちが数名集まり、無事ラホイルの足は接合することができた。
その後の話しである。
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「あ~あ、本当に……疲れちゃったなあ」
オイルマン隊の一員であるレノア。
新人二名が配属された初日――
予想外に強いモンスターと出会い――
ラホイルの足が切断され――
ケルバブが――ケルバブが戦死した。
色々なことがあった大変な一日。
ただでさえ大変な一日だが、レノアはラホイルに対し、【癒】のルーンを使用し続けていた。
イルイックの滝からアイレドの町に戻り、病院に運び、接合治療が終わるまでずっと。
(やっと……終わった)
解放された安堵。
と同時にケルバブを失った悲しみもやってくる。
「あ~あ……あんのバカ」
病院の片隅で座りながら目を瞑り、休むレノア。
目には涙が。
「――レノアさん?」
急に名前を呼ばれて驚くレノア。
目の前には、不思議そうな顔をしているインベントが立っていた。
「あ、あれえ? インベントじゃない。
どうしたの? 忘れもの?」
そう言いながら涙を誤魔化すレノア。
「いやあ、聞き忘れたことがあって」
「ん~?」
「明日って任務あるんですかね?
ほら、オイルマン隊、色々あったじゃないですか」
レノアは呆れ顔で笑う。
「も~、任務は無いわよ。
あ、でも、今日のことを報告をしないといけないんだった。
明日の朝、本部に集合ね。
ちなみに前線部隊は基本的に一日働いたら翌日はお休みなのよ。
聞いてないの?」
「あ~、そうなんだ。
知らなかったです」
レノアはインベントの顔が曇ったことに気付いた。
(そっか……ケロっとしてるから心の強い子だと思ってたけど……。
任務初日からあんなことがあったんだもん、不安だよね)
レノアは優しい。
だが全くもって見当違い。
インベントは毎日任務――モンスターに会えると思っていたのに休みがあることにがっかりしたのだ。
「よ~し、今からレノアお姉さんが色々教えてあげようかな」
「へ? 今から?」
「ふふ、もともと今日は隊のみんなで懇親会をする予定だったの。
まあ懇親会どころの状況じゃ無くなっちゃたわね。
軽くつまみながら、どこかでお話しましょう」
「よ~し」――そう言って立ち上がるレノア。
だが、思った以上の疲労によろけてしまう。
「大丈夫ですか?」
「あ、はは。ちょっと疲れてるみたい。
でもまあ……少しぐらいなら」
「疲れてるなら帰ったほうが……」
「だ、大丈夫よ。
体力には自信があるんだから。
それにお腹空いちゃったし。
私、料理苦手なのよ~。
このまま家に帰ったら。干し肉齧るだけになっちゃう」
「だったら俺が作りましょうか?」
「え?」
「料理。
大したものは作れませんけど」
「あ~~」
レノアは考える。
(つまり……私の家で作ってくれるってこと?
え~っと、それって、私……狙われてる?)
インベントの提案は、レノアにとってはまさに不意打ち。
まさかのアプローチに鼓動が高まる。
レノアはインベントの顔を見る。
(なかなか可愛い顔……。いやいやそうじゃなくて。
う~ん…………でもそんなグイグイくる子には見えない。
ってよく考えるのよレノア。相手は15歳の男の子よ。
単に、疲れている私にご飯を作りましょうかって言ってくれてるだけ。
優しい子じゃないの。
そういうやましい気持ちじゃないわよ)
レノアは唇に手を当てながら――
「それじゃ~お願いしちゃおうかしら。
私、舌は肥えてるわよ~」
「はは、男の料理なんで大したものはできませんからね」
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インベントにやましい気持ちがあったかと言えば、一切無い。
ただご飯をつくり、お話をするだけ。
そのつもりだった。
だが問題はレノアにあった。
男が女の部屋に上がったのならば、手を出すのが当たり前。
さっさとキスのひとつでも仕掛けてこい! という考えの持ち主なのだ。
だがインベントは新人の15歳。
それも同じ部隊の後輩。
更に今日出会ったばかり。
(手なんか出しちゃダメダメ。落ち着きなさいレノア)
レノアは大人の女性。
理性でエロい本能を完璧に抑え込む。
しかし、レノアは本当に疲れていた。
更に、恋人だったケルバブを失い寂しい。
そして……極めつけは一杯だけと手を付けたお酒。
疲れ、弱った身体に駆け巡るアルコール。
レノアの酒癖が悪いことは森林警備隊でも有名。
夜が更けて、本当に帰ろうとしたインベント。
だが潤んだ瞳のレノアはインベントにすり寄る。
更に絡みついて――
押し倒して――
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「……ヤっちまったあ」
翌朝、気怠さの中で目覚めたレノア。
インベントはすでに帰宅している。
いつ帰宅したのかも定かではない。
「あ~も~酔った勢いとは言え……私はなんてことを……。
い、いや! そもそも女の部屋に転がり込んでくるインベントが悪い!」
インベントに責任を押し付けようとするが――
「ハアア~、ど~考えても私が悪いですよねえ!
にゅああああああ! 同じ部隊の新人に手を出してしまったああ!
バ、バレたらドン引きされちゃうー!
どれだけ飢えてるのよおおお、私!」
酒癖が悪く、男癖も悪い。
それはレノアの友人からすれば周知の事実。
だが節操無しだとは思われたくないレノア。
だから――
「……よし! 無かったことにしよう!
昨日のことは無かったことにしましょう!
インベントって口が堅そうだし大丈夫!
一夜の間違い! 今日からは綺麗さっぱり先輩と後輩よ!」
拳を握り締めるレノア。
だがその決意は、拳を開いていくと同時に霧散していく。
「……でも、多分インベントからすれば、私が初めての相手よね。
ま、またしたくなっちゃうよね……だって男の子だもん。
デートもしたいわよね……。そうに違いないわ。
多分、ウキウキしながら帰ったと思うもの。
『人生で初めて彼女ができたー! やっほ~う!』とか言いふらしてるかも!
ど、どうしましょう!?」
そわそわし、家の中を歩き回るレノア。
「ま、まずはしっかり話し合った方がいいわね!
ちゃんと説明して、年の近い女の子と付き合うように諭してあげないと!
そ、それでも『レノアさんがいいんだ!』なんて言われちゃったら……。
え~、いや~ん、も、も~う、困ったわねえ」
レノアはにやける。
だが、焦りだす。
「やっばーい、本部行かないと!」
昨日の件――インベントとヤっちまった件。
ではなく、任務の件を報告しなければならない。
レノアは急いで身支度を整え、本部へ。
**
予定よりも早く集合場所へ。
インベントが来るのを待つレノア。
そしてインベントがやってきた。
どんな表情をすべきか迷うレノア。
恋人面してくれば、塩対応しようと思っていた。
だが――インベントはまさに平常そのものだった。
(あ、あれ?)
「おはようございます、レノアさん」
「あ、おはよ」
(あ、あっれえ?)
会話が始まらない。
インベントが多弁では無いことは理解している。
それでも、昨日の今日である。
なにか話したいことがあるはずと思い、レノアはインベントの顔を観察する。
照れているのかと思いきや、そんな素振りも無い。
(お、おっかしいなあ。
ポーカーフェイス過ぎる。
え? まさか昨日のことは無かったことにしましょう……ってこと?
それはそれで傷つくわね……い、いやいやアンタ15歳の童貞でしょ!?
なによそのプレイボーイ感!
ワンナイトラブは引きずらないってか!? んなアホな!)
モヤモヤする。
15歳の少年が、なにを考えているのか全く理解できない。
知りたい。
でも、なにから話せばいいのかわからない。
**
本部での報告が終わり、オイルマン隊の活動休止が言い渡された。
インベントは今後の配属が決まるまで休暇。
レノアはすでに配属先が決まっていた。
(や、やばい!
インベントと話すタイミングが無くなる!)
帰ろうとするインベント。
咄嗟に呼び止めるレノア。
「インベント!」
振り返ったインベントは「どうしました?」と言う。
(あ、あれ、な、なんて言えばいいのかしら……。
昨日は気持ちかった? って、あ、あほか!
今日は家に来ないの? って違う違う!
私たちどういう関係? 先輩と後輩だよ!
昨日はごめんね? ってなにを謝ってるんだ、私は!
私のこと飽きちゃった? それはイタイ、イタスギル!
もおー! なんなのよー! その純粋な瞳!)
そして絞り出した答え――
「ラ、ラホイルのお見舞いでも行ってあげなさい」
先輩として、当たり障りのない発言しかできなかったのだ。
**
その後、レノアとインベントはほとんど接点が無いまま時が過ぎていく。
オイルマン隊はいったん解散になり、インベントは駐屯地勤務へ。
それでも、レノアはインベントのことが忘れられないでいた。
だから会話する機会を伺っていた。
インベントの動向もチェックしていたのだ。
そしてレノアは駐屯地勤務になった。
だがどこを探してもインベントはいない。
それもそのはず、インベントはロメロ隊となりカイルーンの町に向かっていた。
「もおー! なんなのよおおお!!」
インベントの焦らしプレイは続く。
続くったら続く。
R18のガイドラインに抵触してないか、結構不安です……。
ま、大丈夫でしょう!
※300話もあるんだ! 1話ぐらい見逃せ運営様!
ちなみに拗らせたレノアは、ショタ好きになってしまいましたとさ。
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