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エピローグ

 『黒猿クロザル』狩りを終えたインベントは意気揚々とアイナの元へ。


「むふ、むふふ」


 気分上々のインベント。

 スキップしながら今日一日を思い返す。


 アイナを収納空間に入れることから始まり――

 シロとクロの協力関係を取り戻し――

 『黒猿クロザル』と戦うことで感覚を取り戻していった。


 途中、キャナルとペイジアが登場したことなどすっかり忘れているのだが。


 これほど濃密で幸せな一日をインベントは知らない。

 だが、メインディッシュはまだ残っているのだ。


「あ~早く……夢を見たい」


 二年間。

 あまりにも長い間お預け状態だった『モンブレ』の夢。

 このまま一生見れないかもしれないと絶望していたインベント。


 そんな夢が、今夜見れるかもしれない。


「あっへっへ、うひゃあ、ひひひ……。

 ご、ごほん。ふっふっふ~ん」


 昂り過ぎれば、眠れなくなるかもしれない。

 インベントはそう思い、心を落ち着かせる。


 そして――


「あ、アイナ~」


 アイナを発見したインベント。


「……と、バンカース総隊長か」


 その隣にはバンカースが。

 バンカースの存在を、インベントは億劫に感じてしまう。


 とりあえず合流することにしたインベント。


「おかえり、インベント」


「ただいまアイナ」


 アイナが『黒猿クロザル』に関して聞こうとするが、バンカースが割って入る。


「『黒猿クロザル』はどうなったんだ!?」


 腕が折れているバンカースだが、応急処置は終わっており、かなり回復していた。

 ぐいぐい迫るバンカースに対し、更に億劫に感じるインベント。


「あ~、ちゃんと狩り終わりましたよ」


「か、狩っただと!?

 お、おまえひとりでか!?」


「ええ……まあ」


 根掘り葉掘り問いただそうとするバンカース。

 インベントが億劫に感じていることを察したアイナ。


「まあまあ、とりあえずアイレドまで帰りましょうよ、総隊長。

 夜になっちまうと大変ですしね~」


「あ、ああ。そうだな。

 アイレドに戻ったら報告してくれ」


「え? 今日?」


「そりゃあ当然だろ。

 『黒猿クロザル』の情報は森林警備隊としてしっかり共有しておかねえとな」


 インベントの顔が暗くなっていく。

 これまた再度、察したアイナは――


「さささ、早速出発しましょ!

 総隊長が先頭お願いしますね!」


 とバンカースの背中を押した。


**


「……ハア」


 最高な気分に盛大に水をぶっかけられた気分のインベント。

 狩り終わったモンスターの報告など、どうでもよいことだからである。


 アイナはバンカースに聞こえないように念話で話しかける。


『あんま落ち込むなよ。

 ま、報告がかったるいのはわかるけどさ』


 インベントは共感してくれるアイナに笑みをこぼす。


「まったくね」


 インベントは少しだけ間を置いて――


「いっそ……どこかに行かない?」


『え? どこかってどこだよ?』


「う~ん……カイルーンとか」


『は!? アイレドから離れちまうのかよ!?』


「面倒なのは嫌なんだよねえ。

 モンスターを狩りたいだけなのに」


『い、いや、まあそりゃあ……そうだけど』


「それにさ……。

 俺、キャナルさんとペイジアさんにず~っと監視されてたじゃない?

 なんでかわからないけど……指示したのってバンカースさんじゃないの?」


『あ~……まあ……その可能性はあるか。

 少なくとも知らないってことは無いだろうな』


 インベントはモンスターを狩るために森林警備隊に入隊した。

 だが、協調性は乏しく、組織の堅苦しさも苦手。


 監視なんてもっての外。

 アイレド森林警備隊に対しての不信感は増している。


 インベントはただ、自由にモンスターを狩っていたいだけなのだ。


「ねえねえ~カイルーン行こうよ~。

 今行こうよ~。

 アイナの地元だし、どうにかなるでしょ~?」


『い、いやいや、地元だからって……。

 もうちょっと考えてからでもいいんじゃねえの?

 そ、それにバンカースさんを放置するわけにはいかんだろ。

 ほら、一応怪我人だぞ?』


 声にならない声で不満を表現するインベント。

 だが、ここですっかり忘れていた人物が登場する。



「あ、おったおった!

 おお~い! みんな~!」


 手を振り近づいてくる男。

 それはラホイルだった。


 インベントとアイナは、なぜこんな場所にラホイルがいるのかわからない。

 森の中で単独行動など、よほどインベントで(頭がおかしく)なければあり得ない行動である。

 それもビビリのラホイルがである。


「なにしてんだ? ラホイル」


 アイナがそう呟く横で、インベントは妙案を思いつき笑う。



 逆に、バンカースは「おいおい」と呟きながら両手で口を覆った。

 瞳は少し潤んでいる。


 インベントとアイナは知らないが、ラホイルは死んだはずなのだ。



 『黒猿クロザル』の動向を探るための斥候部隊に配属されたラホイル。


 数日前、任務中に『黒猿クロザル』の急襲を受け、部隊員のひとりが重症を負った。


 抗戦するか、撤退するか、判断の迷う状況。

 そんな中、ラホイルは――


「こっちや!」


 ラホイルは自ら判断し、囮になることで部隊を救ったのだ。

 そして帰らぬ人となった――ことになっている。


 ちょっとした英雄扱い。


「な、なんでお前があー! ラホイルゥ!」


 バンカースはラホイルに駆け寄り力強く抱きしめた。

 死んだはずの勇気ある若者がまさかの帰還。


 感動しているバンカース。


 なにがなんだかわからないインベント、アイナ、そしてラホイル。


 そもそもラホイルは囮を買ってでていないのだ。

 ビビリのラホイルにそんな勇気は無い。


 実は勇ましく『こっちや!』などとも言ってもいない。


 斥候部隊の中で誰よりも早く、『黒猿クロザル』の異常さに気付いていたラホイル。

 何度も「やばいです! 逃げましょう!」と進言しても、若干18歳、最年少のラホイルの意見が通るわけもなく。


 そして『黒猿クロザル』に強襲された斥候部隊。

 誰よりも早く逃げ出していたのがラホイルなのだ。


 その際、恨み節のように――


「言わんこっちゃない!」


 と叫ぼうとしたラホイル。

 だが、『言わん』の部分は喉がカラカラに乾いていたため、発声されず――


 誰よりも早く逃げていたのに、なぜか『黒猿クロザル』の攻撃対象になってしまったラホイル。

 驚いて言葉足らずになってしまった。


 結果――

 ラホイルは「こっちや!」と率先して囮になったように見えてしまったのだ。


 その後は決死の鬼ごっこを続け、体力の限界が訪れたラホイルは、足を踏み外し窪地に転げ落ちた。

 足をねん挫し、万事休すの状況。


 だが運良く、転げ落ちた場所が泥地だったため『黒猿クロザル』に見逃されたのだ。



「良かった! 本当に良かった!!」


「え? あ、はあ」


 バンカースの抱擁に戸惑うラホイル。

 ラホイルは英雄扱いされていることなど知りもしないのだ。


 戸惑うラホイルに、インベントが近づいてくる。


「お? インベント。

 てかなんでこんなとこにおるんや?」


 ニコニコ笑うインベント。


「ねえラホイル」


「なんや?」


「バンカース総隊長、手に怪我してるんだ。

 だからラホイルがアイレドまで連れて行ってよ」


「え? そうなんか!?

 かまへんかまへん! 任せえ任せえ!」


 インベントは笑顔で頷いた。

 そして、「()()()」と言って振り返り、アイナに向かって走っていく。


「お、おう(『またね』ってどういうこっちゃ?)」



 インベントは戸惑うアイナを抱きしめて、そのまま飛び去っていった。




 こうして『黒猿クロザル』事件は終幕を迎えた。


 その後、討伐したインベントがなぜか失踪してしまったため、本当に討伐されたのかわからず、数日間必要のない警戒態勢が敷かれた。

 まあ、そんなことはインベントの知ったことではない。



 アイレド森林警備隊の精鋭で倒せなかった『黒猿クロザル』を、インベントが単独で倒してしまった。

 それはまるで『星天狗のクラマ』のような活躍である。


 もしも、このままアイレド森林警備隊に留まれば英雄として扱われたのかもしれない。


 まあそんなことも、インベントの知ったことではないのだ。

これにて12章完結です。

※13章の前に、1話挟む予定ですが


13章のテーマは『ご都合主義』です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。ラホイルなんだかんだ悪運強くて好き
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