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森林警備隊入隊試験②

初戦闘パートです

 インベントはギリギリまで模擬戦の事前準備に時間を費やした。

 そして残り少ない時間で試験官であるバンカースの観察をする。


「はい、次~」


 バンカースの声に反応し、インベントは緊張気味に「はい!」と応えた。


「……次は君か?」

「はい! インベント・リアルトですッ!」


 バンカースは眼を見開いてインベントを観察する。


(どうみても……戦えるタイプには見えないな……。

 ただ、非常に真面目そうだ。そこは好感触なんだけど……う~ん……いやいやレアなルーンかもしれん)


 先入観を持ちすぎてはいけないと思い、バンカースは頭を振った。

 ダイヤの原石かもしれないからだ。しかし――


(でもなあ……。ぷふふ)


 バンカースは頬を緩め――


「ちょ、ちょっと聞いていいかな?」

「え?」

「なんで……その……二刀流なのかな?」


 インベントは左手には小さめの木剣、右手には少しだけ大きな木剣を持っていた。


「だ、ダメでしたか?」

「い、いや、構わん。ここにある武器は好きなものを使って構わない。

 構わないんだけど……しっかり持ててないよ?」

「あ! えへへ」


 インベントの握力では片手で木剣を持つのも一苦労だ。

 特に右手の木剣は、インベントが両手で持ってやっとまともに振れる重さである。

 片手では支えているのがやっとだ。


 ちなみにインベントの身長は170センチの体重は58キログラム。

 少し痩せ気味ではあるものの一般的な肉体である。

 ただ、戦うには線が細すぎるのだ。


「あ、あの!」

「ん?」

「一つ質問なんですけど」

「どうぞ」


「この試験はどうすれば合格なんでしょうか?」

「ん? 説明は受けなかったのか?」

「はい。特には」

「そんなことは…………あ~……そうか……」


 バンカースは受付のフェルネが説明をサボったことを容易に想像できてしまった。


(あのバカ……。説明しなかったな……。

 まあ受付押し付けちまったからなあ……しゃあねえか)


「すまんすまん。これは模擬戦形式の試験だ。

 合否は様々な適性から判断させてもらうが……やはり強さは重要だ。

 まあ、俺を満足させられる強さだったらオッケーってとこだな」


「なるほど……反則はありますか?」


 真面目そうに見えるインベントから「反則」の二文字が出てきたことに、バンカースは意外だなと感じた。


「反則か……特に無いぞ。

 俺はやらないが、目潰し、金的なんでも構わん。

 何をやってきてもいい。勿論二刀流もオッケーだ」


「そうですか。()()やってもいいんですね。

 ありがとうございます。もう大丈夫です」


「……そうか」


 バンカースは少しだけゾクリとした。


(反則に関して聞いてくる時点で、何かやってくるのは明白だな。

 しかしまあ……彼なら大丈夫かな)


 バンカースはインベントの体を観察し、どれだけの奇手を打ってこようが容易に対応できると判断した。


「それじゃあ始めようか! いつでもかかってこい」


 インベントは「はい」と応えて息を吐いた。


(対人戦はあんまり想定してなかったけど……。

 今できることを……やろう。


 全ては――――モンスターを狩るために)



 インベントは動かないバンカースを確認し――行動を開始する。


「ハッ!!」

「お?」


 インベントは左手の短剣を投げた。


(おほう。中々面白い。

 投げるために二刀流にしていたのか)


 バンカースはいとも簡単に短剣を振り払った。


(悪くねえけど、さすがに筋力不足だな。

 あんなフワっと投げられてもなあ。

 虚は突かれたけど、どうってことは……んん??)


 インベントは右手に持っていた剣を両手で握りしめ、こちらも――投げた。


(おいおい! 右手も投げちゃったよ!

 わはは! 中々面白い奴だな。だけどどうするんだ?)


 インベントは武器を失ったが、そのまま突っ込んでくる。

 そして右手を振りかぶって――


(徒手空拳?? それはさすがに――)


 バンカースは油断していた。

 いや、目の前の貧弱な青年を警戒しろというのが無理である。


(む!?)


 バンカースは何か違和感を覚え身構えた。

 そしてインベントの攻撃をなんとか回避した。


「な、なんだと??」


 インベントの右手には、いつの間にか槍が握られていた。

 徒手空拳かと思いきや、長物からの攻撃にバンカースは驚いている。


(……や、槍を隠し持っていただと??

 ま、まさか仕込み槍……!? いやいや、あれは訓練場の槍だ。

 それに……今の槍はかなり鋭い攻撃だったぞ!?)


 インベントは武器の訓練はしたことが無い。

 だが収納空間の扱いだけは尋常ではない時間を費やしている。

 よって普通に武器を使うよりも、収納空間を経由したほうがキレが良かったりする。

 チグハグな男インベント。


 だが予測不能だった槍攻撃をバンカースはどうにか予見し避けている。

 バンカースは己の強さでアイレド森林警備隊の総隊長にまでなった男だ。

 その強さの一端は観察眼にある。


 バンカースは相手の動きを観察することによって、行動を先読みする力に長けていた。

 筋肉の動きや予備動作はバンカースに相手の行動を教えてくれるのだ。


 インベントの槍攻撃は全く予想できなかったが、振りかぶる際に多少の違和感を覚え、どうにか避けることができた。

 だが槍は予想外だった。だからバンカースは困惑しているのだ。


 槍はインベントの身長ほどあり、隠し持つなど不可能。

 だがインベントは【ペオース】のルーンを持つ。

 収納空間から槍を出したのだ。


 右腕を振りかぶったのは、収納空間から槍を出す瞬間を隠すためである。



(くそ……あれを躱すのか!)


 バンカース同様、インベントも驚いていた。


 槍による奇襲は、入隊試験までの僅かな時間で練られた唯一の作戦だった。

 二刀を投げ、何も武器を持っていないフリをしてからの槍による強襲。

 バンカースに自身のルーンが【ペオース】であることが知られていないからこそできるたった一度の奇襲。


(収納空間からの武器変更はバレちゃったなあ……さすが総隊長さんだ)


 タネのバレた手品はもう使えないと、インベントは思っていた。

 だが実はそんなことは無かった。



(ど、どこから槍を出した? 背中に隠していたのか!?)


 インベントのルーンが【ペオース】であり、収納空間から槍を出した事にバンカースの思考は至っていない。


 理由としては、まず【ペオース】を利用してくる相手と戦ったことが無いからだ。

 【ペオース】は多少レアなルーンであるし、更に戦闘向きルーンではないとされている。

 よって戦った経験が無かった。


 そしてもう一つの理由は、インベントの早業だ。

 インベントは戦闘中に収納空間を利用することを想定してこれまで生きてきた。

 いかに速く、いかにスムーズにモノの出し入れができるかに拘ってきた。


 何故ならモンブレの世界では瞬間的に手に入れたアイテムを出し入れする。

 武器や防具を瞬間的に換装するのが当たり前の世界。

 勿論ゲームの世界での仕様なのだが、インベントにとってモンブレの世界はリアルな夢の世界なのだ。


 よってインベントはモンブレの世界を基準にして収納空間を利用している。

 相手に気付かれないほどの速さで武器や防具を取り出すのなんて朝飯前なのだ。


 結果、バンカースは至らない。

 この戦いの中でインベントが【ペオース】のルーン持ちであることに。



(くっそ! 呆けちまった……! だが……これで!!)


 バンカースは槍を剣で弾いた。

 インベントは「あ」といとも簡単に武器を手放してしまう。


 腕力が足りない。握力が足りない。

 そして武器に固執する気が全く無い。

 剣士ではありえない武器に対しての執着心の無さ。


 だがインベントは剣士ではない。モンスターをただ狩りたい少年なのだ。

 手放した槍などどうでもいいのだ。


(これで! 丸腰だ!)


 バンカースは構えた。

 本気の戦いであれば、躊躇なく斬ってしまうがバンカースは本気で斬るわけにはいかない。

 何せこれは入隊試験であり模擬戦だからだ。

 丸腰のインベントに対し、攻撃するわけにはいかなかった。


 対するインベントは反撃を避けるために左手から()()()()を出し、バンカースの顔に目掛けて投げた。

 バンカースは予想外の飛翔物を周辺視野に捉え、すぐさま叩き落した。


「な、なんだと……!?」


 バンカースは叩き落した飛翔物を見て驚愕した。


(た、盾だと??)


 インベントが咄嗟に投げたのは小さな盾だった。

 バンカースは確信を持っていた。インベントが盾を隠し持っていなかったことを。


(盾隠し持っていやがった? い、いや、盾なんて絶対持っていなかった!)


 バンカースは槍に続き盾が出てきて更に混乱した。

 あるはずがないモノが出てくる。自分自身の眼がおかしくなったのではないかと疑うほどに。



(ハッ!? クソ! や、やべえ!)


 バンカースは弾き飛ばした盾に気をとられていることに気付いた。

 戦闘中に目の前の相手から目を切るなんてもっての外だ。

 戦いはまだ終わっていないのだから。


 だがインベントは距離をとっていた。

 インベントとしては、反撃を喰らわず仕切り直しができて安堵していた。


 向かい合う両者は奇しくもお互い同じことを考えていた。


(どうしよう!)


 と。



 バンカースは困っていた。


(先制攻撃してしまいてえ!!

 距離を完全に詰めちまえば、どうとでもなる気がするんだが……これ試験であり模擬戦なんだよな。

 ぶっ飛ばしちまうわけにもいかねえし、こちらから仕掛けるのもなんか微妙だよな……)


 結果、バンカースは待ちの一手になる。

 表情に余裕はない。あるのは迷いと自制心。



 それに対しインベントは――


(う~ん……あんまり自信無いけど、コレでいくか)


 インベントは木剣を出した。

 バンカースはいつの間にか右手に木剣が握られていることに驚いたが、武器がいつの間にか出てくることはそういうものだと思うことにした。


 インベントは居合斬りの構えをした。

 バンカースは更に混乱する。


(居合斬りの構えをしてどうするんだ??

 居合なんてもんは、相手が寄ってくる前提の構えだろ?

 え? 俺が誘われてんの??)


 バンカースはインベントの攻撃を待とうと思っているのに、インベントも待ちを選択している。

 どうしようか考えている最中――




 ――インベントが消えたのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 居合斬りって木剣使ってるのに鞘があるんですか? あと横薙ぎや薙ぎ払いの構えならまだしも日本刀じゃなく西洋剣の形をした木剣で居合斬りは無理がありませんか?
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