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黒猿② 黒と黒、ところによってクロ

 心昂る。

 地獄から天国へ。


 モンスターを狩るという行為。


 モンスターを狩ることは日常茶飯事。

 だが昨日までと今日とでは意味が全く違う。


 『モンブレ』が復活した。

 まだ夢を見ていないが、インベントは確信している。


 空の容器に熱く濃厚なスープを注ぎこんだかのように、インベントは満ち満ちている。


 心も身体も狩ることを望んでいる。


 もう止まらない。


「ふっへへへ、まだかなあ~。

 あれぐらいじゃ大したダメージ無いだろお~?

 ふふ、くふふ、うふうふ」


 笑いが漏れ、止まらない。


 二年以上の鬱屈が一気に爆発してるインベント。

 異常な興奮状態。


 背負われているアイナが「い、一旦降りていい?」と問うと――

 相槌と思われる曖昧な音を出すインベント。



 降りたアイナはバンカースに近寄った。


「あ、ども」


「お、おお。

 アイナだったな」


「こんなとこで総隊長が、それもひとりでなにしてんすか?」


「い、いや、お前たちこそなんでこんな場所に?」


「あ~、ウチのボスが『黒猿クロザル』を狩りたいみたいで」


「バッ! ダメだダメだ!

 『黒猿クロザル』はなりは小せえがバケモンだ!

 いますぐ止めろ!」


「いや~無理ですよ。

 インベントが止まるわけ無いんで」


「な、なに言ってやがる!

 11名の精鋭部隊でも勝てなかったんだぞ!?

 オイ! インベント! やめろお!」


 後方からの騒音。

 森林警備隊総隊長モブがなにやら騒いでいる。


(うるさいな。

 こっちはいいとこ……おお~キタキター!)


 『黒猿クロザル』が戻ってくる。

 何事も無かったかのように戻ってくる。


「う~ん、あまり敵意剥き出しって感じじゃないんだねえ。

 でも見れば見るほど確かに『黒猿クロザル』だ。

 全身真っ黒な体毛で、顔まで毛むくじゃらじゃないか。

 ――お、そうだ」


 インベントは収納空間からあるものを取り出し、装着した。

 その様子を見て、アイナは呆れ、バンカースは困惑する。


「お、おい! なんだあれは?」


「あ~……ありゃ~『頭防具』ですね」


「あ、『頭防具』ゥ? あ、あんな被り物防具になんてならねえだろうが!?」



 インベントお手製『頭防具』。

 モンスターの頭蓋骨と、モンスターの毛皮を素材に利用している。

 出来はお世辞にも良いとは言えない代物。


 『黒猿の元祖は俺だ!』と主張しているかのようなインベントの行動。


「まったくさあ、奇妙な偶然だよねえ。

 しかし改めてみると小さいな。

 スピード自慢なんだってえ? スピードだけ?」


 インベントは足元の小石をこつんと蹴り、収納空間の中へ。

 そしてすぐにゲートを開き、右手へ。


 収納空間を駆使した瞬間移動。


「ハハハ、おいでおいで」


 インベントは石を投げる。

 投げた石はとんでもない速さで『黒猿クロザル』の顔面目掛けて飛んでいく。


 実際には投げたのではなく、丸太で吹き飛ばし急加速させたのだ。


 寸前で避ける『黒猿クロザル』。

 これが開戦の合図となった。


 『黒猿クロザル』が吠え、駆ける。

 そして飛んだ。走り幅跳びのように。


 インベントは「確かに速いけど……」と呟きながら、冷静に『黒猿クロザル』を凝視している。


 前のめりに突っ込んでくる『黒猿クロザル』。

 インベントの幽結界に侵入すると同時に指を振る。


 すると――


 鈍く嫌な音を響かせながら、『黒猿クロザル』はまるで映像を逆再生されたかのように元の位置に吹き飛んでいく。


「――丸太ドライブ零式」


 相手の突進してくるエネルギーを反発力に変え、相手に返すカウンター攻撃。


 インベントの想定以上に吹き飛んだのは、『黒猿クロザル』の突進エネルギーが想像以上だったからであろうか。


 インベントはゲートを開閉させ、手に馴染む感覚に笑みを浮かべた。


 シロとクロの存在。

 インベントには見ることができないふたり。


 だが、ゲートを通じて繋がりを感じているのだ。


「むふう」


 だが――


「お?」


 『黒猿クロザル』は何事も無かったかのように体勢を修正し、再度突進してくる。


「ほお~、結構思いっきりぶっ飛ばしたと思ったんだけどなあ~」


 後方から――


「そいつは想像以上にタフだ!

 精鋭11名でも――――」


 バンカースが発言を続けている。

 だが、インベントは『想像以上にタフ』であるという部分以降は無視した。


「なるほど~、小さいけど、速くてタフなモンスターなのか~。

 ふふふ」



 そこから一方的な展開が繰り広げられる。


 『黒猿クロザル』はとにかくスピードに任せて突進を繰り返す。

 だが突進攻撃はインベントにとって全く脅威にならない。


 何度でも何度でも強烈なカウンターで弾き飛ばす。


 腕がちぎれ、首がねじ切れそうになる『黒猿クロザル』。

 骨が折れ、筋肉が断裂し、再起不能になってもおかしくない攻撃を、何度も何度も喰らい続ける『黒猿クロザル』。


 だが――何事も無かったかのように立ち上がり続ける『黒猿クロザル』。

 インベントもさすがに呆れ始める。


「クフフ……タフ過ぎるね。

 タフってレベルじゃないなあ。

 まさかの鈍器耐性?

 う~ん、どうしようか~。あ~困った困った、クフフ」


 呆れつつも、笑うインベント。

 独り言も多くなる。


 逆に先程までは口煩かったバンカースは、絶句していた。


(ど、どうなってやがる……。

 インベントはなにをしてやがんだ?

 なんで『黒猿クロザル』があんなにぶっ飛んでやがるんだ?

 指を振ってるだけじゃねえのか?


 オイオイ……討伐隊11人で喰らわせたダメージより、インベントひとりのほうが……。

 いやいや! 派手にぶっ飛んでるだけで大してダメージはねえのかもしれねえ。

 剣で斬ったり刺したりしてねえしな。


 ……いや、あんなに捩じ切れるぐらいぶっ飛んでるのにそりゃねえか。


 だ、だけど、『黒猿クロザル』の野郎、ケロっとしてやがる)


 バンカースは息を飲む。

 もしも討伐隊が戦闘を継続していれば、全滅していた可能性が極めて高いからだ。



「――さて」


 ワンパターンな『黒猿クロザル』。

 機械的に弾き返すインベント。


 次の一手を考える。

 考えるのだが――


(無難に徹甲弾かな~。

 でも在庫が五個しかないんだよねえ。

 剣で斬ってみようか?

 あんまり接近するのは危険な気もするけど……。

 そもそも俺の剣の腕で斬れるのかねえ?)


 効果的な攻撃を思いつけないインベント。


 加え、ラホイル隊に入隊してから食料などを入れるようになり、剣や盾は一通り揃っているものの収納空間の中は少し心許ない。


 悩むインベント。


 そんな時――


「むむ?」


 収納空間から手に取ってほしそうにアピールしてくる武器が。

 インベントは躊躇なく取り出す。


「……槍。手槍だねえ」


 柄の短い槍。

 インベントはじ~っと手槍を見つめる。



「これをどうしろと?」


**


「カッカッカ、よ~し槍を持ったな」


「ねえ~フミちゃん、やめなよ~」


「あ? なにがだよ?」


「干渉したらアイナちゃんに怒られちゃうよ?」


「カカカ。新しい必殺技を伝授するだけだ。

 それぐらいならいいだろ。別に操ってねえし。

 ちょっとだけ、ちょ~っとだけだ。

 そう! これはアドバイス!」


「も~知らないよ」


「はいはい~。

 さてと……あ、違う違う! 持ち方はこう!

 槍投げの持ち方しろ! ロンギヌスの槍を投げる時のような持ち方!

 だあ! 違う違う! そんな三国志の方天画戟ほうてんがげきみたいに持つな!

 片手持ちでいいんだよ! そのための短い槍だってのに!

 だああ~まどろっこしいな! アイナっちと合体しろよもう!」




 テンションが上がってるのがもう一名。

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