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拗ねて拗らせて爆発させる

「お、お前! 童貞じゃねえのか!?」


 インベントは首を傾げ「違うけど」と言う。

 アイナはインベントの表情を注視する。

 注視するのだが…………


(わっかんねえ!

 つ、強がってる? 嘘ついてる?

 そんなタイプじゃねえとは思うけど……でもホントにヤったことあんのかよ!?)


 『童貞』であることを恥ずかしいと思う男性は多い。

 だから強がって「童貞じゃない」と嘘を吐くことは大いにあり得る。



 アイナはインベントが童貞で間違いないと確信していた。

 異性に興味がある素振りなど今まで見たことも無いからだ。


 それに――いつ? どこで? 誰と?

 インベントに女の影なんてほとんどなかった。

 

(アタシとインベントが出会った頃、新米の15歳だった。

 ま、まさかアタシと出会う前に?

 いやいや、さ、さすがに、早すぎだろ!


 出会ってからもそんな浮ついた話、ひとつも無かった。

 え? 誰とヤっちまったんだ?

 アイレドの人? カイルーン? え? フラウ? ま、まさかあ。

 相手がいねえ! 一夜を共に過ごしそうな相手が皆無!


 え? まさか、そういうお店?)



 インベントとアイナはお付き合いをしているわけでは無い。

 お互い好き同士だと判明しただけである。


 インベントが過去に誰とXXXしようが問題は全く無い。

 全く無いが――


 アイナとしてはどうしても納得いかない。


「い、インベントさんよう」


「ん? なあに?」


「え、え~っと、お相手は誰だったんですかねえ?」


 インベントは無表情で「相手?」と聞き返す。


「いや……えっと、そのお~、は、童貞卒業されたお相手です」


 インベントは残念なモノを見る表情でアイナを見た。


「アイナ~。

 そういうのは聞いちゃだめでしょ?」


 とても常識的なインベントの発言。

 セクシャルな話は、場合によっては墓場まで持って行かないといけないこともある。


 アイナは自身の発言が非常識だったと思い知る。


「ぐぬぬぬぬ……そりゃあそうだな。

 なんか……申し訳無い。

 だああああ!! そんなことよりさっさと拘束外せー!!

 この状態は恥ずかし過ぎるう!」


 靄晴れず、八つ当たりする、アイナかな。


 インベントはキャナルたちに目をやる。

 ふたりも、とりあえずアイナを解放するように無言で促したのだった。


**


「あー、もうかったるい!」


 拘束から解放され、アイナは全身のコリをほぐしていく。


「お疲れ様、アイナ」


「ホンットに疲れた。

 さっさと帰って、今日はゆっくり休みたいところだけどな~」


 インベントとアイナの目が合う。

 アイナは目の動きで『あのふたり、どうすんだよ?』と合図を送る。


 インベントは心底億劫な顔をふたりに向けた。


「で? 結局、どうしたいんですか?」


 インベントには落としどころがわからない。

 別に罰を受けることをしているわけでは無いからだ。


「そうだな。

 まずはここ最近なにをしていたかしっかり説明してもらおうか。

 隠していることがあればちゃんと報告しろ」


 インベントとアイナは息ぴったりに、深い溜め息を吐いた。


「どう思う? アイナ」


「まあ正直な話、説明したところで理解なんて無理だろうな。

 そもそも、理路整然と説明できる気がしない」


「俺も正直、よくわかってないんだよ。

 あれだよね? やっぱり……誰かいるんだよね?」


「え? あ~そっからか。

 ヘッヘッヘ~、聞いて驚くぞ~。

 なんと! ふたりもいるんだぜ」


「ええー! や、やっぱり『モンブレ』の世界の住人!?」


「あ~、う~ん。

 住人……なのかアイツら。

 説明が難しくてよお。

 『モンブレ』の世界の住人っていうか、『モンブレ』の世界で住人……?

 どっちかと言えば収納空間の住人?」


「ほ?」


「いや、すんげえ説明が難しいんだよ。

 あ、『アイナの冒険』から説明しないといけねえかもな」


「『アイナの冒険』って何回か言ってたけど、どういうことなの?」


「ふっふ~ん、聞きたいか?

 しゃあ~ねえな――――」


 盛り上がるインベントとアイナ。


「イチャつくのは後にしてもらっていいですかねえ!!」


 キャナルが怒っている。

 踵で大地を削りながら――


「ああ~もう面倒だな。

 ただでさえ大物・・の件で忙しいって時に――」


 インベントはキャナルの『大物』発言にすぐ反応した。


「え? 大物? 大物が出たんですか?」


 輝くインベントの瞳。 


「あ? 知らないのかよ。

 駐屯地でも話題になってるだろうに」


「ええ~そうなんだあ。

 ヒヒ、どんな大物なんですか?

 もう大物狩りは組織されてるんですか?」


 急なテンションの変化に驚くキャナル。

 インベントがモンスターを大好きなことなど知らないのだ。


 ペイジアが鼻で笑う。


「あなたに教えるわけ無いでしょ~う?

 まあ、私もキャナルも……というよりキャナルはすぐに来るように言われているの。

 だから本当はあなたに構ってる暇はないのよ」


 インベントはペイジアの話を途中で無視し――

 「ねえねえ、どんな大物かな?」とアイナに話しかけた。


 アイナは戸惑いつつも――


「し、知らねえよ。

 おうおう元気いっぱいだなあインベント」


「へへ、早く夢を見たいけど、モンスター狩りも行きたいなあ~って。

 大物なんて特に良いよね。

 はあ~狩りたいなあ。どこにいるのかなあ~?」


 いつも通り、本来のインベント。

 モンスター以外に興味無いインベント。


 だがキャナルは、意図的に無視し、煽っているように感じた。


「おい、いい加減にしろよ?

 舐めてるんなら、ぶん殴って喋らせてやってもいいんだぞ?」


 キャナルは両拳をぶつけ、インベントたちを威嚇する。


 アイナは眉間に皺を寄せる。


(どうしたらいいんだろうこの状況。マジでさ。

 説明は無理だよなあ。

 収納空間に入ってました~なんて言っても理解されねえだろうし。

 インベントはご機嫌斜め……いや逆に大物の件でご機嫌斜め上になっちまったけど。

 一触即発みたいになっちまったなあ。

 う~~ん、逃げちまう?

 いやいや、明日からど~するって話だ)


 なんとか穏便に。

 そう考えていたアイナだが、予想外の行動にでる人物がひとり。


 急にアイナの左手が包み込まれる。


「ん? うぇ!?」


 なぜかインベントがアイナの手を握っているのだ。


「ななななな、なんだなんだ!? どうしたインベント?」


(手でも引っ張って逃げる気か?

 え? か、駆け落ち!?)


 手を握っているインベントだが、次のアクションを起こさない。

 ただ握り、そのまま静止している。


「い、インベント?

 あ、あのお……手なんか繋いでどうしたんだよ?

 恥ずかしいんだけど……」


「いや、俺にもよくわかんないんだけど」


「へ? いやいや、なに言ってんの?」


「いや……だって……」



 理解不能のやり取りを繰り広げるインベントとアイナ。


 そんな様子をキャナルとペイジアは見ている。

 いや、見させられている。


 人知れず森の中で、アイナを拘束していたインベント。

 問い詰めても反抗的な態度で、説明拒否。


 あげく手を繋いでいちゃいちゃする始末。


 ペイジアはともかくキャナルは我慢の限界だった。

 そもそもラホイル隊に配属されてから溜まりに溜まった鬱憤が爆発しそうだったのだ。


 そしてなんと、インベント以外の人物が、その怒りの導火線に火をつけてしまった。





「――ククク、愚かな女め」


 突然の侮蔑的発言。

 その発言の主は――アイナだ。


「弱いくせによく吠える。

 さっさとモンスターの居場所を教えろ。役立たずめ」

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