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愛してるの響きだけで強くなれる気がしたよ

「ふっふふ、ふ~ん。

 う~ん、本当に解けないや。

 いや~きつく締めすぎちゃったかな? ねえアイナ」


 ご機嫌のインベント。

 楽しそうに拘束されたアイナを解放しようとしているが、少しだけ難航している。


『ま、アタシもやれるだけやれって言ったしな

 ……ん?』


 インベントがニコニコしながらアイナを見つめている。

 アイナは顔を背け――


『見んな! 見んな見んな!!』


 ――と念話で伝える。


 アイナは困っている。

 お互い好き同士ではあるものの、お付き合いするなんて考えてもいなかったからだ。


 とは言えもしも、正式にインベントから「お付き合いしてください」なんて言われたら、アイナは断るのか?


 悶々としているアイナ。

 少しだけ甘酸っぱい時間が流れる。



 だが――


「あれあれ~?

 インベントきゅ~ん?」


「あら~? こ~んなところでなにしてるのかしらあ~?」


 甘い時間の邪魔をする人物が現れた。


 ラホイル隊のメンバー。

 キャナルとペイジアである。


 インベントはふたりを眺め溜息を漏らす。


「どうしたんですか? こんなところに」


 言い放ったインベントの態度は、明らかに反抗的。

 キャナルとペイジアはインベントの反応に違和感を覚える。



 インベントはキャナルとペイジアに監視されていることを知っている。

 定期的に部屋を覗かれているし、そもそもラホイル隊はインベントを監視するために組織されたことも薄々気付いている。


 ただし、インベントは監視されている理由は知らない。

 実のところ、監視している側のキャナルとペイジアも理由を知らないのだが。


 監視を命じたのは森林警備隊総隊長のバンカースである。

 否、正確に言えば監視を命じたわけでも無い。


 発端としては、大ファンである『星天狗』のクラマに「良くしてやってくれ」と依頼されたからである。


 なのでバンカースは、数少ないインベントと仲が良い隊員のラホイルを隊長にし、アイナを隊員にした。

 更に優秀なキャナルとペイジアも隊員に加えることで、盤石になったラホイル隊。


 そしてキャナルとペイジアには、『なにか変わったことがあればすぐに報告するように』と指示をした。


 しかしながら、キャナルとペイジアはなぜインベントを特別扱いするのか知らない。

 そもそも、バンカースもクラマとインベントの関係性を知らない。


 だからキャナルとペイジアは、極秘でインベントを監視するのは、インベントが犯罪行為でもしているのではないかと疑っているのだ。



 キャナルとペイジアは秘密裏に監視を続けているつもりだった。

 だがインベントは幽結界のお陰で、すぐに監視されていることには気づいていた。


 インベントとしては、『モンブレ』の夢を取り返すために目を付けられるのは面倒だと考えた。

 だから良い子のフリをしていたのだ。


 だが――

 『モンブレ』の夢を取り返した現在――



(鬱陶しいな。本当に――)


 監視されていることは知ってるが、もう知ったこっちゃない。

 そんな気分のインベント。


 アイナとの楽しい時間に横槍入れてくることにも苛立っているのだ。



「にゃはは、随分とご機嫌斜めみたいだねえ」


「でも~こんな場所でふたりっきりなんて危ないわよお~」


 インベントはアイナの拘束を解除する作業を一旦やめた。

 そして苛立ちを隠さず、ふたりを見やる。


「ハァ~ア。

 最近は監視が甘いから、ふたりのことは忘れてましたよ。

 ま、俺としても忙しかったんでね」


 キャナルの眉がピクリと動く。

 だが平静を装うキャナル。


「ん~? なんの話しかしら~?」


「ハハ、監視してたのがバレてないとでも?

 中々、おめでたいですね」


 アイナは「おいおい」と驚きの声をあげた。


(ど、どうしたんだインベント?

 あ、煽り力が格段にアップしてやがる!

 ま、まさか、またクロが乗っ取ってんじゃねえのか!?)


 クロは全く関係無く、単に苛ついているだけなのだ。

 まあ、クロの口の悪さはある程度影響してるのだが。



 それでもキャナルは「か、監視~?」とはぐらかそうとする。

 だが――


「もうバレてるみたいよ、キャナル。

 どこでバレたのかわからないけどお~」


 インベントは乾いた声で笑う。


「あれだけ定期的に人の部屋を覗いてたんだから、わかるでしょ?

 それともふたりとも男性の部屋を覗くのが趣味なんですか?」


 インベントの発言にキャナルは目の色を変えた。


「……ッチ。

 いつから気付いてたんだよ」


「ハハッ、いつから? はじめからですよ。

 あまりに覗きスキルが低すぎて驚いたぐらいです。

 でも、なんで監視なんてしてたんです?」


 キャナルは一呼吸置いて――


「お前には関係無いだろ」


「関係無いか。

 監視される筋合いは無いんだけどな」


 ピリピリとした空気が流れる。


 捩れ。拗れ。


 そもそもバンカースのインベント特別扱いから始まったラホイル隊。


 監視するキャナルとペイジアは、インベントが悪人なのでは無いかと疑う。

 監視されるインベントは、監視される理由がわからず、当然良い気分ではない。


 半年間積み上げてきた信頼関係など、無いも同然なのだ。



 ペイジアが一歩前に。


「でもねえインベント。

 最近のアナタおかしかったわよお?

 アイナ先輩の部屋で騒いだり~、さっきも森の中で奇声をあげてたしねえ。

 なあにをしていたのかしらあ?

 ――そもそも、この状況はどういう状況なのかしらあ?」


 視線は拘束されているアイナへ。

 インベントは「ふたりには理解できないですよ」と言う。


「そりゃ理解できないね。

 女性を雁字搦めにするなんて、変態の極みじゃねえか」


 アイナは「ち、違うー! 変態じゃねえ!」と叫ぶが説得力は皆無だ。

 キャナルは続け――


「インベント。お前がこれまでどんな悪事を働いてきたか知らねえけど、少なくとも危険人物だってことはわかる。

 女縛るだけでも気持ち悪いが、野外でなんて嫌悪感を覚えるね。

 他にも人様に言えない秘密があるんだろ? え!?」


 キャナルは変態行為を嫌う。

 真面目な女性なのだ。

 特に、性の乱れを許せないタイプである。


「別に、趣味で縛ってるわけじゃないですよ」


「だったらなんなんだよ?

 こんな森の中で? ど~考えてもド変態じゃねえか」


「まあ~確かにねえ~」


 インベントは溜息一つ。


「理由はありますけど、ふたりには理解できないですよ。

 俺と――アイナにしかわからない」


 キャナルとペイジアはふたりの『性的な趣味』だと理解した。


「ハッ!? ふたりだけの秘密ってか?

 まったく。

 インベントはともかく、アイナ先輩まで変態だったとはね。

 いつから急速接近したんだか」


「そうねえ~。

 昔からの知り合いみたいだし、ず~っとそういうことをしてたんじゃないかしら~?」


 アイナは「勘違いすんなー! アタシは変態じゃねえ!」と弁解する。

 当然、無視されるが。


「ま、覗きが趣味のおふたりに言われたくないですけどね」


 アイナが「お前も否定しろよー!」と叫ぶが、これまた無視される。

 インベントは冷笑する。


「そもそも俺の監視なんてしてる場合なんですか?

 ふたりともかなり優秀だ。隊長に任命されててもおかしくないレベル。

 クク、なのにやってることは覗きやつきまとい。

 恥ずかしくないんですか?」


 インベントの発言が、キャナルの逆鱗に触れた。

 図星だったからである。


「うっせーよ!

 私だってな、お前の監視なんてしたくねえんだ!

 仕方なくやってんだよ! このクソ童貞野郎!」


 ペイジアが「下品よ~キャナル」と窘める。


「チッ……」


 煽りスキルがアップしているインベント。

 インベントは淡々と言い返す。


「キャナルさん」


「あ? なんだよ」


「俺は、童貞じゃないですよ」


 キャナルもペイジアも目を見開いた。

 見開いた目は、アイナへ。


 そして納得する。


「ああ、そうだったな。卒業おめでとうさん」

「それはよかったわねえ~、いやだわ~いやらしい」


 キャナルとペイジアは知っている。


 アイナがインベントを自室に連れ込んだことを。

 連れ込んだのが男性で、騒いでいたことも知っている。

 そして最近、駐屯地近くの森で人知れずアイナとナニかしていることも。


 だからキャナルとペイジアは納得する。

 童貞を卒業するには相手が必要であり、そして相手はもうわかりきっている。


 些細な話なのだ。

 ――ひとりを除いて。






「ちょ、ちょっと待てーい!

 お、お前! 童貞じゃねえのか!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] インベントの童貞は殺人童貞な気がするぞー……。 女子ーズは脳内ピンクだけど、インベントは脳内が血の海に染まってるからな、モンスターの。 バンカースがトチ狂った命令だしたせいで誤解ががが
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