幕間 異界のデバガメ
「ふっふふ、ふ~ん。
これをこーして、こっちをこうすれば、う~んどうでしょうねえ」
鼻歌交じりでなにかしているクロ。
「なにしてるの? フミちゃん」
「ん~? ああ、調整だよ調整」
「調整?」
「そ、調整調整。
シロも知っての通り、インベントの視界ってのはモンスター狩りの時だけクリアだろ~。
恐らくモンスターを狩ってる時、ベン太郎は強く『モンブレ』をイメージしてる」
「そだね。
それを利用してベンちゃんを乗っ取ろうとしてたんでしょ?」
「カカ、まあそれは置いておいて。
そんでな~、モンスター狩ってる時以外も、ベン太郎の視界をクリアにしたくってさ。
そのための調整さ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「設定画面でもあればな~。まあこればっかりは何度も実験するしかねえか」
そう言ってクロは真剣に作業を続ける。
「カメラ関係は得意じゃねえってのに……。
ピントが調整が難しいんだよ……。
あ~画質……F値? ISO値? カメラの概念から離れたほうがいいのか?
動画はもっとわからねえけど……うぬぬ。
クリアな画質は絶対必要……う~ん」
シロは、久しぶりに真剣なクロを見る。
(ベンちゃんとの『接続』を切ってから、マインスリーパーばっかりだったもんなあ。
なにしてるのかはわからないけど、真剣に打ち込むのはイイコトだよね。
うんうん)
邪魔しないように、クロの後ろで座るシロ。
作業が終わるのを待ち続けた。
**
「ふあ~、こりゃあ難しいわ」
クロが作業を中断し、寝転んだ。
「お疲れ様」
「ん? おお、いたのか」
「ふふ、真剣だったね」
「いや~まあな。
久しぶりにやる気に満ち満ちているぜ、クックック」
「ん~、でも急にど~したの?
ベンちゃんに干渉しないんでしょ?」
クロは意味ありげに「むふ」と笑う。
「あ、悪いこと考えてる顔だ。
アイナちゃんに言いつけないと」
「バカバカやめろやめろ。
この素晴らしい研究は、シロにもメリットがあるんだぜ?」
「メリット?」
「むふふのふ。
ベン太郎とアイナっちは、晴れて彼氏彼女になったわけだ」
「彼氏彼女なのかな、あれ?」
「お互い好き同士な男女なんだから彼氏彼女でいいんだよ。
まあ、デートとかする感じには見えねえけど、付き合い方なんて人それぞれだ」
「う~ん、まあ、そうか」
「そこでだ。
さあて白岩君」
「ハイハイ、なんでしょう先生」
「うむ!
彼氏彼女になった男女がすることと言えば?」
シロは顔を赤らめ――
「ええ~、そりゃあ、学校帰りにファミレス行って~、色々とお喋りしたり~?
休みの日には一緒にお出掛けとか~?
カラオケ? ボーリング? 遊園地? ゲーセン? ん~とパンケーキ?
それから~」
「だあああ! 行きたいリストはもういいの!
それ以外にも、ほれ、あるだろう。
彼氏彼女ならではのやることが」
「む、むふふ。
え~、そりゃやっぱりぃ~。
チュ~?」
口を尖らせるシロを見て――
「シロのキス顔なんて見たくねえっての」
「う、うっさいなあ」
「キスの先があるだろ? ほれ、ほれほれ」
シロの頭の中に溢れる妄想。
言葉にできるわけもなく。
「ちょ、ちょっと! やめてよもう!」
「はい、ムッツリスケベー。
ま、愛し合う男女は自ずと、そ~いうことになるわけじゃん」
シロは「そりゃあ~まあ~ねえ~」と顔を綻ばせる。
だが、シロはあることに気付く。
「……え? まさか」
「クックック、気付いたか!
気付いてしまったか!?」
シロは恐る恐る「盗……撮?」と呟いた。
「フハハハハ! 正解だ!」
「ば、バッカじゃないの!?
ベンちゃんとアイナちゃんの……その……アレなシーンを……」
「見たいだろ? 見たいよな?
覗き見してる感じのエロ動画好きだもんな~シロ」
シロは顔を硬直させた。
お気に入りの『覗き見してる感じのエロ動画』が頭の中で流れている。
「おおう、本当に好きだったのか。カマかけただけなんだけど……」
「え!? あ! ば、ば!」
「相変わらずエロにどん欲だよなあ、シロはさ~」
「う、うるさいうるさい!」
「ククク、収納空間じゃネットサーフィンもできねえもんな。
欲しいよな~? エロシーン。
見たいよなあ~? リアルなエロシーン」
クロは間を取り――
「大丈夫だって。
ベン太郎にもアイナっちにもバレないからさ」
と囁いた。
白岩姫子。
揺れる乙女心ならぬ、スケベ心。
「で、でもやっぱりだめえええ!!」
のぞきは犯罪です!
発見次第直ちに警察に連絡します!




