インベント最強化計画(未)
「『インベントを強く』……ね。
な~んか全容が見えてきたぞ~」
「さ、最初はね、フミちゃんも『無理無理』って言ってたんだよ。
こっちからベンちゃんに対してできることってすご~く限られてるから。
私もね、ちょ~っとベンちゃんが強くなればいいなあ~って程度にしか考えてなかったの。
でもフミちゃん、どんどんエスカレートしちゃって……」
「その結果が乗っ取りかあ~」
「フミちゃんが色々と試していたのは知ってたんだけど……。
最終的にはあんな感じになってしまいまして……その、ごめんなさい」
「いや、まあ、やっぱりどっちかと言えば悪いのはクロじゃね?」
両手をブンブン振るシロ。
「違うの! フミちゃんは私のお願いを叶えてくれただけなの!
私が止めることもできたの。私が止めてればよかったの。
……う~ん。
まあ、確かにちょっとやり過ぎかな~って思うところもあったけど。
ちょっとだけエスカレートしちゃって……。
ちょっと……ちょっと?」
シロは首を捻る。口を尖らせる。
「やっぱり……ちょっとだけじゃないかも」
「お? おい? どうしたシロ」
「確かに強くしてって言ったけど、性格を捻じ曲げるなんてやり過ぎ。
喋る内容まで操るなんて……絶対にやり過ぎ。
私、何回も『もういいんじゃない?』って言ったもん」
シロはフリーズしているクロを睨む。
「ね? そうだよね? フミちゃん」
クロはフリーズしたままだ。
「もう起きてるんでしょ、わかってるんだよ?」
時が止まったかのように停止しているクロだが、瞳だけ動き出し、シロから目を背けた。
「言ったよね? やりすぎなんじゃないのって。
何回も言ったよね?」
クロは「はあ~あ」と溜息交じりに全身を動かす。
「ったく、うるせえな~。
私は強くしろって言うから強くしたんじゃねえか。
ベン太郎、史上最強化計画を実行したまでだ」
「だからってやり過ぎでしょ!」
「カカカ! できる範囲でがんばって最強になんてなれるか。
今日よりも強く明日よりもさらに強く。
例え代償を支払うとしても、最善の手段があれば手を出すのは当然だろ。
妥協の先に最強などありはしないのだよ!」
「わ、私は最強にしろなんて――」
クロはシロを指差した。
「シロ。
お前がインベントを強くしたいと思ったのは、インベントに死んでほしくなかったからだ。
そりゃそうだよな~、インベントが死ねば私たちがどうなるかわからねえ。
だから強くしたいって思ったんだろ?
カッカッカ、だったら最強を目指すべきだろうよ。
最強なら、誰にも負けることは無い。負けなきゃ死なない。
そうさ……ボクが一番、インベントをうまく使えるんだ!」
クロが叫ぶ。
シロが冷静に「あ、最後のはモノマネなんで気にしないで」とアイナに説明した。
クロは「ああ~もう!」と言いながらじたばたする。
「まあ…………そのお……。
アイナっちが死にかけたのは確かにマズかったけどな。
ま、まあ、でもあれだ。
ヒロインの死を乗り越えて強くなるパターンもあるじゃん」
「パターンとか言わないで!
ベンちゃんもアイナちゃんもゲームの世界じゃないんだよ!」
「うっせえなあ。わかってるよ。
私が干渉したせいで、インベントがおかしくなっちまったって話なら、もういいだろ。
今後はベン太郎に干渉しないんだ。
カカカ、全て元通りってな」
クロは少し不満そうに「それでいいだろ」と言い捨てた。
シロは溜息交じりにアイナを横目で見る。
「えっと、そんなワケで、これからはベンちゃんに干渉はしません。
アイナちゃんのことがあって、私、反省しました。
コッチの世界の私たちが、ベンちゃんやアイナちゃんに迷惑かけちゃいけないって。
だからキッパリ接続を断とうって」
うんうんと唸るシロ。
「極端過ぎっけどな」と悪態をつくクロだが、シロに睨まれて目を逸らす。
さて――
アイナはというと、考えていた。
と~っても考えていた。
「アイナちゃん?」
シロの呼びかけに「ああ」と生返事で応えた。
ぐるりと一周、視線が宙を泳いだ後――
「うん、わかった。
大体理解できたぞ」
「カカカ、納得できたんなら良かった良かった」
アイナは「チッチッ」と指を振る。
「クロ~、理解はしたけど、納得はしてねえよ」
「んあ?」
アイナは「やれやれ」と言いながら立ち上がる。
「まずクロ。
クロのお陰でインベントは強くなれたし、多分クロがいなければインベントは死んでた。
アタシもルベリオに殺されてたと思う。ルベリオと戦った一回目の時にな。
だから感謝すべきなんだろうさ。アリガトな」
クロは自慢げに笑う。
「だーがな、シロの言うようにやり過ぎ。
インベント最強計画なんて言ってたけどよ、てれびゲーム感覚だったんじゃねえの?
『モンブレ』の世界みたいに、アタシたちの世界で、インベントを操作してな」
「む、むむ」
クロは口ごもる。
シロは「そーだそーだ」とアイナに同調する。
「そんでもってシロ」
「へ?」
「アンタがインベントのために色々考えてくれてんのはよくわかった。
ま、クロが暴走しちまったのを止めれなかったのは……まあしゃ~ない気もするな。
だけどよお、ブチンと『モンブレ』の夢を切断しちまうのは、それもそれでやり過ぎなんじゃねえの?」
今度はクロが「そーだそーだ」とアイナに同調する。
「だ、だって……その……迷惑かけたくないし……」
アイナは「ハア~ア」とわかりやすく溜息を吐いた。
「シロはわかってね~ぜ。まったくう」
「な、なにが?」
「……親戚にベール爺さんってのがいるんだけどさ」
急な話の展開に狼狽するシロ。
「ベール爺さんは、奥さんとすげ~仲が良しでさあ。
だけど奥さんが先立っちまったワケ。
そしたら元気だった爺さん、みるみる弱っていってね。
半年後には死んじまった。
喪失感、凄かったんだろうな」
シロは頷く。
だが、アイナがなぜベール爺さんの話を始めたのか理解できずにいた。
クロが「インベントにとって『モンブレ』が爺さんの奥さんだってことか?」と問う。
「間違いなく、そうだろうよ」
シロは驚いた顔をしている。
「なんだよ、気付いてなかったのかよ」
「だ、だって、夢で見るだけでしょ?
べ、別に……大丈夫だと思って……」
「かあ~!
インベントは『モンブレ』が好き過ぎて、モンスター狩ることが大好きになっちまった変態だぞ。
好きで好きでたまらない『モンブレ』が突然消えちまったら、ど~なるかぐらい想像出来ねえもんかねえ」
インベントは物心つく前から『モンブレ』の夢を見てきた。
産まれた時からずっと一緒に過ごしてきたような感覚である。
逆にシロは、インベントの存在を認識して日が浅い。
インベントが『モンブレ』を好きなことは知っていても、人格形成に多大な影響を与えるほど、インベントが深く愛していることまで知らないのだ。
「え……どうなっちゃうのかな?」
「ホントにわかんねえのか……こりゃ~重症だな。
少なくとも『モンブレ』を失った二年間、インベントは元気無えよ。
まあ、多少元気が無くなるぐらいは構わないって思ってたさ。
だけど、アイツ、ず~っと『モンブレ』を追い続けてる。
寝る時間を無理やり増やしてみたりしてな。
いっぱい寝れば、夢を見る可能性が増えるかもしれないなんて、健気だろ~?
それに毎日休まずモンスター狩りしてるぜ。
モンスターの頭蓋骨と革で自作した、ワケのわかんねえ『頭装備』を被ってさ。
『モンブレ』体験して理解できたけどよ、インベント自作の『頭装備』は、『モンブレ』の装備を真似て作ったんだ。
知らないやつが見たら完全に頭おかしい奴に見えちまうぞ。
ハア……。
インベントが現在、どういう状況か理解できたか~?
もしもシロがインベントのことを思ってんなら、その『接続』とやらをブチっと切っちまうのは失敗だったんじゃねえの?
自暴自棄になって、モンスターに特攻して、死んじまう可能性だってありえるぜ?
あ、インベントが死ぬのは困るんじゃなかったっけ? なあ……シロ」




