ノルド隊(仮)④ 飛んで火にいるなんとやら
インベントは困っていた。
「……全然勧誘が上手くいかない!!」
ノルド隊(仮)は現在、ノルドとインベントのみ。
駐屯地司令官であるエンボスからは、人員を増やすように指示があった。
インベントは人員を増やすことにさほど興味は無い。
モンスターを狩れればそれでいいからだ。
だが、いつ隊が消滅するかわからない現状、誰でもいいから人を引き入れたいのだ。
駐屯地には人員編成の兼ね合いで余剰人員が発生することは間々ある。
そのたびにインベントは声をかけるのだが、断られ続けた。
それもそのはずである。
ノルドは『狂人』であり、奇人変人として認識されている。
そんなノルドがトップであるノルド隊に入りたい人員はいないのだ。
「くそお……なんかめんどくさくなってきたな……」
インベントは倉庫で武器を選んでいた。
対モンスターの武器は非常に消耗が激しいため、使えなくなった武器は返却し修理してもらう。
特にインベントは技術不足であり、刃毀れは日常茶飯事なのだ。
『奥に頼まれてたモノ置いといたよ』
倉庫でアイナが話しかけてくる。
話しかけてくると言っても念話でだが。
「おおー! ありがとう!」
インベントは依頼していたモノを手に取った。
「ううーん……完璧だ! ちゃんとギリギリ収納空間に入る! アイナ、ありがとう!」
『別にいいよ。工房のおっちゃんがやっただけだし』
インベントは新しいおもちゃ……もとい武器を手に入れて嬉しいのだ。
それに対しアイナはインベントが持ってきた修理依頼の武器を見て溜息を吐いた。
『しっかしまあ……何度も何度も武器をボロボロにしてくるな……かったる~』
「あ~……ごめんね」
『別にいいんだよ。それだけモンスターぶっ殺してるってことだろ』
「えへへ」
『ま、かったり~けど修理しておくよ』
「ありがとう~」
インベントはウキウキしながら武器倉庫から出ていった。
「さあて……どうなるかな」
インベントは筋力や剣術はまだまだ低レベルだ。
だが、それを補って余りある卓越した収納空間の操作技術がある。
先日モンキータイプのモンスターを倒した際に新しい技を閃いた。
その技を体得するために、日夜修業に励むのだ。
そして――
その真価は……とある人物に試されることになる。
**
「で? 勧誘はどうなっている?」
「え……あ~……」
「ハア……上手くいっていないのだな」
インベントとノルドは駐屯地司令官であるエンボスに呼び出されていた。
例のごとく、隊員の勧誘に関してである。
「一匹狼気取りのノルドだ。隊員の勧誘は難しいとは思うが頑張ってくれ」
「は、はい」
エンボスとしては、ノルドに隊員ができたことは喜ばしいと思っている。
故に中々進まない勧誘活動に関しても大目に見ている。
とはいえ――
「さすがに新人がずっと二人の隊ってのはあまり好ましい状況ではない。
ノルドはこんな奴だから放置しても良いんだが……君は新人だからな。
このままだとどこかに配属しなければならなくなるかもしれないことは覚悟していてくれ」
「……はい」
「まあ……頑張ってくれ」
「頑張ります」
インベントとしては、なぜノルドに言わないのだろうと思いつつも、ずっと興味なさそうにしているノルドを横目で見て――
(俺が頑張らないとだめだろうな……まあしかたない)
そうやって自分に言い聞かせ、部屋を後にした。
**
「ハア~」
「ふん……エンボスめ。偉そうに」
「いやいや、至極真っ当なことしか言ってませんでしたよ」
「大体勧誘なんて上手くいくわけ無いだろう。
俺たちには人望が無いからな」
「――ん?」
一呼吸おいて――
「え? 俺も人望が無いことになってます??」
「そうだ」
「い、いやいやそんなことは無いですよ!」
「だったら人の一人でも連れてこい。新人の同期とかこれまで所属した隊員とかな」
「ええ~……うう~~ん」
インベントはオイルマン隊のメンバーとマクマ隊のメンバーを思い出す。
だが誰も声をかけられるほど仲が良くないことに気付いた。
何せオイルマン隊は一日で終了。
マクマ隊は自分自身が原因で脱退。
(し、しいて言うならラホイルかな……。ほかの人たちは……そもそも今どういう状況かわからないし……)
「はっはっは、俺たちは人望が無いのさ。
ま、気長にやればいいとは思うが……とは言えそろそろ面倒になってきたな……」
ノルドとしては隊員が増えることなどどうでもいいことだ。
単にエンボスに嫌味を言われるのが面倒なだけだ。
(どこかに……上手いこと隊員に引きずり込める奴は……。
まあ、そんな都合よくいかないか……ん??)
誰かが走ってくる足音が聞こえた。
そして――
「見つけたわよ!! インベント!!」
そこにはロゼ・サグラメントが息を切らして立っていた。
インベントは心の底から嫌がっている。
ノルドは――
**
「インベント! 再戦を申し込むわ!!」
「い、嫌だ」
ぐいぐい来るロゼに対し、インベントは後ずさる。
デートを迫る女と、嫌がる男のような構図だな――とノルドは思った。
「おい、ガキんちょ」
「?? わたくしのことかしら?」
「俺の隊員にちょっかいをかけるな」
「い、いえ……これは正当な模擬戦の申し込みであって……」
ノルドは高笑いし――
「何を言ってやがる。インベントに惨敗し自分のプライドのために再戦したいだけだろうが?
これだからエリートはめんどうなんだ」
「ぐぬぬ……」
「それにインベントは戦いたがっていない。だったら模擬戦なんてする義理は無いだろう?
この前はバンカースがいたからな。けしかけた……もとい、戦わせてやったがな」
インベントは守ってくれるノルドに少し安心した。
だが――
「どうしても模擬戦したいんなら、こっちにもメリットが無いとなあ~」
「め、メリットですって?」
「そうだ」
インベントは首を傾げた。
(おかしいな?
ノルドさんが断ってくれる流れじゃないの??)
「ど、どうすればいいのかしら!?」
「そうだな。もしも負けたら……いやいや、ま~さか二連敗なんてありえないだろうが――」
「ぐぬぬ!!」
軽く煽るだけで乾いた松ぼっくりのように燃え上がるロゼ。
「負けたら――俺の隊に入れ」
望まぬ模擬戦が再度始まる
****
「なんで……俺が戦わないといけないんですか……」
「まあいいじゃねえか。勝てば隊員ゲットだ」
「……ハア。というか勝てるかわからないですよ」
「だろうな」
インベントは少し予想が外れた。
ノルドには何か策があり、今回も簡単に勝てる策があると思っていたのだ。
「な、何か作戦とか無いんですか? この前みたいに……」
「無えよ。ま、ガチンコでやってみろ。俺の見立てでは五分五分ってところだ」
「……五分五分か」
(本当はロゼ7、インベント3ってところだろうけどな……。
空中からの攻撃に無策で来たのなら勝てるだろうが……)
「よし。始めるぞ」
「いつでも大丈夫ですわ」
ロゼは不敵に笑う。
「それじゃあ始めるか。
念のため言っておくが刃物は使うなよ」
「……何を使ってもいいですわ」
「あ?」
「その子の隠し持っている武器は大量の刃物なんじゃないですか?
だったら使っていいですわ。じゃないとフェアではないでしょう?」
(こいつ……インベントが【器】だと知ってるのか。
バンカースか? まあいいが、これで可能性はまた下がっちまったな)
「だとよ。インベント」
「……わかりました」
インベントは了承しつつ、木剣を手に取った。
「いいのかしら? 槍でも剣でも構わないですよ」
「別にいいよ。これで」
「そうですか。それでは――早速始めましょう」
ロゼは木剣を構え、ゆっくりと前進してくる。
望まぬ模擬戦が始まった。
読んでいただきありがとうございます!
次回、「ロゼ死す?」
デュエルスタンバイ!