我こそ闇の傀儡子!
『夢を復活させる気は無い』。
シロの発言に対し、アイナはなにかを言おうとした。
だが一度言葉を飲み込み、微笑む。
「あ~そっかそっか。
だったらしゃ~ねえか。
しゃーないしゃーない」
いとも簡単に諦めてしまうアイナ。
シロとクロは予想外の反応に驚く。
「え……あれ?
アイニャーのリアクションおかしくない?
もっと『どうにかしろー!』って言ってくるかと思ってたのに」
「確かに」
アイナは「へへ」と自虐的に笑う。
「インベントにとっちゃ、残念な話だろうけどな。
だけどまあ……アタシとしては別に『モンブレ』がどうなろうと知ったこっちゃねえよ。
ま、原因が全く分からない状態から、原因はわかったけどお手上げでした~って状況に変わったわけよ。
中々進展したと思うけどな。
これならインベントにある程度説明もできるし納得も…………納得はしないだろうけどな~。
でもまあ、説明して、諦めさせることぐらいはできんじゃねえの? へへへ」
「……それでいいの? アイニャー?」
「ハッ。嫌だって言ったらどうにかしてくれんのかよ」
シロは口ごもる。
アイナは頭をポリポリと掻く。
「あ~別に責める気は無い無い。
正直に言うとな、ここに来た目的はさ、確かに夢をどーにかするためだ。
だけどさ、仮にアンタたちが快く応じてくれたとしても、一つ確かめねえといけないことがあった。
もしも、なんていうか、その条件をクリアできないなら、アタシから『モンブレ』お断りするつもりだったし」
「……条件?」
アイナは大きく溜息を吐いた。
「そ、条件。
簡単な話だよ。
夢を見なくなってからインベントは元気無え。
だけど、夢を見なくなってから、まともなインベントに戻ってる。
……まあ、元から変人寄りだけど、一応まとも……正常って言うのかな」
更にアイナは大きく溜息を吐いた。
ちらとクロを見た後、天を仰ぐアイナ。
「だけどさ、アタシが死にかける前、インベントはな~んかおかしかった。
そう、まるで何かが乗り移ったみたいにな。
女口調になったり、戦い方もなんか達人じみたっていうか、死をも恐れぬ感じになってやがったし。
それに……性格も変わっちまった。
なんていうかな……な~んか狡猾なやつになった。
だからよ、タイミング的にもこう思うだろ?
『モンブレ』――というかこっちの世界がなにかしら影響を与えてたってな。
もしも夢が戻って、インベントがまたおかしくなっちまうんだったら、夢なんていらねえよ。
だからここに来る前からインベントを狂わせた原因ってのは、ずっと気になってたんだよ。
アンタたちに聞かないといけないとは思ってたけど、なんとなく察しがついた。
こっちの世界でアンタたちと色々話して、『モンブレ』体験させてもらったお陰さんでな。
うん、インベントがおかしくなっちまった理由。
それは――――クロ。お前さんだな?」
クロは表情を変えない。
逆にシロが慌て「違うよ!」と声を荒げた。
アイナは小さく手を振る。
「喋り口調もなんか似てる。
性格――頭もキレる感じとか、計算高くて戦略的なとことか、と思ったら妙に投げやりというか飽きっぽい感じ。
極めつけは、戦い方だ。
ギリッギリまでモンスターの攻撃を引きつけて、ミスれば命取りのカウンター攻撃。
インベントも多用するようになってたけど、ありゃ~『モンブレ』でのクロの動きにそっくりなんだよ。
まさか、無関係ってことは無えだろ?」
クロはヘラヘラと笑う。
「いやはや、ほんとに勘が良いね。
そうさ。確かに私が原因さ、元凶って言った方が正しいか?」
「フミちゃん!」
「いいんだよ、シロ。
アイナっちは大方気付いている。
別に隠すことでも無いしな~。
それに『モンブレ』を再接続しないでいいって言ってんだ。
説明ぐらいしてやるのが筋ってもんだろ」
「で、でも……」
「この手の話は私に任せときゃいいんだよ。
カカカ、インベントを乗っ取ったって話だろ?
ま、厳密に言えば乗っ取ったわけじゃないケド。
色々と段階があってね。
そうだねえ、なにから話せばわかりやすいかな……。
そうそう、初期段階はこっちの世界からインベントに干渉する手段が皆無だったんだぜ。
なにせ、ここからはそっちの世界が見えない」
「え?」
「見えないんだよ。
シロが反発力の制御の手伝いをしていたけど、それぐらいしかできることが無かった。
収納空間の外側に対して干渉する方法が皆無だった。
ま、そこから色々と研究していくうちに、インベントがモンスターと戦ってる時、シンクロ率が急上昇することに気付いた。
そのおかげでモンスターの位置がなんとなくわかるようになり、徐々にモンスターの姿かたちを把握できるようになったわけだ。
まるで盲目の剣士が、音で相手の位置を把握するかの如く!
カッカッカ、それからも色々と研究を重ねたわけだ。
最終的にゲートを使いインベントに光を送った。
『モンブレ』の中でもたまにモンスターが一瞬光ったろ?
あれはジャストスラッシュのタイミングなんだよ。
ベン太郎は何度もジャスラの光を見てたからな~。
光を見るや否や、嬉しそうにジャスラ決めてたぜえ~。
まったく苦労の甲斐あったよ。
やっとこさ、こちらからそっちの世界に干渉することができたってわけ」
クロは饒舌に語る。
一呼吸置いて――
「だけどさ、そこで手詰まりだった。
ど~うしてもインベントを経由しないと、なんにもできない。
タイミングを提示するだけのクソゲーだったわけ。
だけど転機が訪れた。
カカカ、そのきっかけはなにを隠そう、アイナっちだ」
「アタシ?」
「カッカッカ、アイナっちが呼びかけてくれただろ?
『アイツはモンスターだ』ってな。何度も何度も。
確かルベリオって野郎だ」
「あ~、やっぱり……あの時か。
初めてルベリオと会って、戦った時か」
「そっそっそ。
色々と手を尽くしてたんだけどね。
そちら側からこっちにコンタクトをとってくれたお陰で色々一気に繋がったワケ。
クフフフフ、ま、後は簡単。って簡単ってほどでもなかったけどね。
ベン太郎が『モンブレ』にゾッコンなのは知ってたから、夢と現実の境目をじっくりと緩くしていって、こちら側からの指示を忠実にこなすようにしたのよ。
胡蝶の夢みたいに、夢か現実かわからないようにしてさ。
その結果、私の思った通りに動く――まさにゲームのキャラクターのようになったわけだ!」
決め顔で言うクロ。
真剣に耳を傾けるアイナ。
顔を歪ませているシロ。
「カッカッカ。
インベント乗っ取って、楽しもうとしたわけよ。
アイナっちが『アイナの大冒険』を楽しんでたようにね。
ま、調子に乗りすぎて失敗しちゃったけどね。
でもまあ、インベントとの接続は切ってるし、今後も繋がなくていいんでしょ?
だったらいいじゃない。
もう元通り。
なにか疑問あるかい? アイナっち」
「疑問か。
経緯はよく理解できた。
疑問は無えよ」
「だったら話は終わりだな。
ベン太郎には悪いけど、『モンブレ』は諦めておくんなせえ。カハハ」
アイナは腕組みし「ふむふむ」と首を縦に振る。
(なるほどなるほど……。
インベントを狂わせたのはクロで間違いなさそうだな。
てれびゲーム感覚でインベントを操ってたわけだ。
な~~んて悪いヤツなんだ!)
クロの語り口調は、褒められたものでは無い。
調子に乗った、多少悪意のある語り口調である。
だが――
(しっかし全然悪いヤツに思えないのはなんでじゃろ?
なんでか不愉快に感じないんだよな~。
な~んだろうな。
シロからはゴメンネゴメンネって感じがすんげ~伝わってくるし。
クロからはシロを庇うような……あえて悪役をやってんのか?)
アイナにも理由はわからない。
だが、シロとクロの感情がずっと伝わってくるのだ。
「なあ、お二人さんよう」
「カカ、やっぱり質問か?
包み隠さず話したつもりだけどな~」
「あ、インベントの件はもういいよ。
なんとなくわかった。
そんなことよりもさ~、シロが今にも泣きそうなのはどういうことなんだよ?」
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