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異空間相対性理論

「アタシがここにきた理由は、インベントが『モンブレ』の夢を見れなくなっちまったからだ。

 もう二年以上になるかな」


 シロとクロは目を見開いた。

 驚きがアイナに伝わってくる。


 アイナはシロとクロのリアクションを不思議に思う。

 アイナの予想ではふたりとも、インベントが二年前から『モンブレ』の夢を見られなくなったことを知っていると思っているからである。


 とりあえずアイナは話を続ける。


「インベントはなんで突然『モンブレ』が見れなくなったのか見当もついてない。

 ま、死にかけのアタシを収納空間にぶち込んだのがキッカケだろうってぐらいは察してるけどな。

 でも、理由はわかっていない。

 この件で理由に目星がついてるのはアタシだけだ」


 クロが溜息を吐いた。


「私たちの会話、聞こえてたってことでしょ~?

 いや~あの時はなに話したっけ? シロ」


「慌ててたし覚えてないかも……」


 アイナは腕を組む。


「アタシも意識が朦朧としてたから断片的にしか覚えてねえんだ。

 まさか収納空間にアンタたちがいるなんて思いもよらなかったしな。

 だけど焦ってる女の子たちの声が聞こえたのは覚えてる。

 『追い出せ~』とか、なんか『切れ~』って言ってた。

 とにかく慌ててたのは覚えてんだ」


 シロは頬を掻く。


「あはは……ホントにまさかの事態って感じだったね」


「まあな~。

 ったく、ほぼ死体だったから生体認証を掻い潜っちまったしな。

 それに私は私で緊急事態だったし。ハア。

 あ、そうそうアイナっち。

 結構真面目な忠告だけど、今後は収納空間に入ってこない方がいいぜえ」


「それはそうかも。

 正直……うまく収納できない可能性もあるし……」


「下手すりゃ、マジで死ぬ。

 いんや、グッチャグチャになっちまうかもな」


 アイナは「うぇ!?」と声をあげた。


「もー! オブラートに言ってよ、フミちゃん!

 ハア……でも、本当にどうなるかわからないの。

 動物って『動く物』でしょう?

 収納空間に保管されたものは完全に停止した状態で保存されるから」


「生き物は相性が最悪ってな。

 私からすれば、液体とかも拒否れって思ってんだけどね~」


「砂とか液体はノウハウがあるから大丈夫だよ」


「ノウハウねえ。

 このままじゃ、動物までオッケーにしちゃいそうで怖い怖い」


「い、生き物はやっぱり気持ち悪いから嫌かも」


「ま、そりゃちげえ」


 アイナは手を挙げる。


「ちょっといいか。

 ず~っと疑問だったんだけど、アンタたちってなんなんだ?

 収納空間の管理人みたいなものなのか?」


 クロは管理人という言葉に笑みを浮かべる。


「管理人……つまり管理者アドミニストレータか!

 ククク……我は最高管理者……っておい。

 シロもアイナっちもなんだよその冷めた目は」


「もう……真面目に話してるのに」


 クロはつまらなそうに、「ノリが悪いな」とぼやく。

 続け、「管理者ね。ま、私は違うな」と言う。


 シロは指を弄り――


「私は……どうなんだろう。

 よく……わからない」


 アイナは「なんだよ、煮え切らねえな」と言う。


「特になにかやってるわけじゃないから。

 基本的な収納空間のルールは変えることができないし。

 あ、反発力の制御とかはちょっとお手伝いしてるかも」


「反発力の制御?」


 クロが「ほらあれだ。ベン太郎が空飛ぶときとかに使うエネルギー」と解説する。


「ああ~!」


「えへへ、私がなにかしなくても、ベンちゃんは使いこなしてたんだけどね。

 ちょっとやりやすいように補助してる感じかな。

 ほら、ベンちゃんって凝り性でしょ?

 何度も何度も繰り返して練習したりするから、そんな時にすこし調整してあげるの」


「ククク、やはりシロ、貴様は時空間ディメンジョン書庫アーカイブ管理人アドミニストレータで間違いないだろう」


「そんな仰々しい名前いらない……。

 それに……今はやってないし」


 俯くシロ。

 気まずくなるクロ。


 気を使うアイナ。


「話が脱線しすぎちゃったな。

 このままじゃ本題からどんどん遠ざかちゃう。

 本題はインベントが『モンブレ』の夢をまた見れるようにできるのかってことだ。

 ――心当たりはあるんだろう?」


 アイナは努めて冷静に言う。

 だがもしも、ふたりに否定されれば、インベントが『モンブレ』の夢を見る方法は無くなってしまう。


(頼むぜ~! アンタたちが原因なんだろう~?

 第一関門ぐらい突破させてくれ~!)


 祈るアイナ。


 クロは表情を崩さずシロを見ている。

 シロは口ごもる。


「なあ、シロ。

 決定権はシロにある。そだろ?」


「う、うん。わかってるよフミちゃん」


「私は正直、しらばっくれちまってもいいと思ってるぜ」


 アイナは「『しらばっくれる』? ってことは」と言うが、クロはバッテンのついたマスクをアイナに装着させた。


「むご? むがむがあ!?」


「アイナっちはちょ~っと黙っててクレヨン」


「ご、ごめんねアイニャー。

 うん、ちゃんと言う。ちゃんと説明するね。

 マスク外していいよ、フミちゃん」


「へいへい」


 クロが指を鳴らすと、アイナに装着されたマスクが消滅した。


 シロは息を整え、手で自らの頬をバタバタと扇ぐ。


「ベンちゃんが『モンブレ』の夢を見なくなったのは……私が接続を切ったからだと思う」


「接続?」


「えっと……。

 ベンちゃんの夢って多分、私のPCから『モンブレ』へとリンクしてるんだと思うの」


 クロが「PCってのはあの箱な」とシロのPCを指差す。 


「そうそう。

 ベンちゃんがいつから『モンブレ』を見ていたのかはわからないけど、なんとなく見守られているような感覚はず~っとあって」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「なあに?」


「インベントって、確かガキんちょの頃から『モンブレ』見てるって言ってたぞ。

 アイツ今、18歳だぜ? え? アンタたち、まさか10年以上前からゲームしてたのか?」


「え~と、う~ん……」


 シロが返答に困っている。

 すかさずフォローするクロ。


「カカカ、10年続けても大丈夫なぐらい『モンブレ』は面白いぜ~。

 だけどまあ、シロはそこまでハードゲーマーじゃねえよ。

 説明がだり~なあ~……、ま、シロに説明させたら迷宮入りしそうだ。

 え~っとな、時間の感覚に関してはちょいと説明が難しいんだよ」


「難しい?」


「例えば、アイナっちが前回ここに来たのが二年前なんだろ?」


「そうだな」


「私の感覚からすれば、半年も経ってない」


 シロは「私は二か月ぐらいかな」と言う。


「へ!?」


「こっちの世界は時間経過って概念が薄いんだよ。

 時計……って言ってもわからんか。

 昼と夜も無いしな。一日の始まりと終わりが無い。

 それに、ほれ、収納空間に入れたモノは時間が止まるだろ?

 時の流れがかなり遅いのかもな。相対性理論もびっくりだな、カカカ」


 アイナは目をパチクリさせ「時が……遅い?」と呟く。


「ま、これ以上説明のしようがない。

 外と中の時間の流れは違うとしか言えないな」


「ごめんね。よくわからないよね?

 と言っても、正直なところ私もよくわかってないの。

 時間もそうだけど、そもそも私がなんでこの部屋にいるのかもわからないし、いつからここにいたのかもわからない」


「え? え!?」


「アイニャーは私たちがなんでも全部知ってると思ってるのかもしれないけど、私たちもわからないことだらけなの。

 でも、ベンちゃんが夢を見なくなった理由はわかるよ。

 復活させることも……できると思う」


 困惑続きのアイナだが、復活可能であるという発言にアイナは顔を緩ませた。


「そ、そっか! だったら――」


「でも!」


 アイナの発言を遮るシロ。

 シロの表情は暗く、申し訳なさそうにアイナを見つめる。




「夢を復活させる気は無いの。

 ごめんね。

 ごめんね、アイニャー」

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