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ゲームオーバーだにゃ

 タイガーレックスの咆哮が、アイナを身体の芯から震わせた。


「やばいにゃ! やばいにゃ!」


 シロが矢を放ったためシロを睨んでいたタイガーレックス。


 だが、タイガーレックスの視線の先にクロが立ちはだかる。

 挑発的な行動をとり、ヘイトを自らに集めるクロ。

 クロから離れられないアイナも大ピンチ。


 アイナはとっさに遮蔽物を探すが、見事に何もない。

 そもそもクロから離れられない。


「ククク、行くわよ~」


 あろうことかタイガーレックスが突進してくる前に走り出すクロ。

 不思議な力で無理やり追随させられるアイナ。


「バカバカバカー! にゃーー!」


 タイガーレックスも負けじと突進してくる。

 まともに激突すれば即死。


(さ、避ける? 無理だにゃ!

 防ぐ? 双剣あんなのでどうやってにゃ!?

 え? 死んだ?

 え? え? あれ?

 もしもこっちの世界で死んだら……どうなるんだにゃ?)


 いろいろ考えるアイナだが、身を任せるしかない。


 そして激突の瞬間が――やってこない。

 激突する少し前、体が急激に引き寄せられながら旋回した。


 すると、目の前からダイガーレックスが消えていた。


「うおお、目が回るう……。

 うぇ? ここはどこにゃ?」


 あれほどの巨体が眼前から消えた。

 だが、咆哮で気づく。


「ま、真後ろ!? にゃんで!?」


「カッカッカ、これぞ本家本物のジャスラ――ジャストスラッシュよん。

 さてと――」


 クロは一気に間合いを詰める。

 そして前足に対し連続攻撃を仕掛ける。


「ほいほいほいほい! 部位破壊部位破壊!」


 リズミカルに斬り刻む。

 アイナは間近でその様子を見ている。


(す、すげえダイナミックな連続攻撃だにゃ。

 人間技じゃねえぞこれ……にゃ)


 アイナは剣の才に恵まれている方である。

 小柄ゆえのパワー不足を補うために、回転斬りを使う。


 そんなアイナから見てもクロの動きは常軌を逸している。

 アイナの知る剣術の概念から大きく逸脱した攻撃。


(ど、どうやったらあんなに高速で正確に剣を振れるんだにゃ?

 切り返しが恐ろしくスムーズだにゃ。

 それになんて切れ味。攻撃が全く引っかからないにゃんて。

 いやモンスターが柔らかいのか……にゃ?)


 双剣を操る剣鬼。

 クロの見た目やこれまでの印象からは考えられないほどの戦闘力。


 そして――


「うおっと~」


 突然飛び退くクロ。

 とほぼ同時にタイガーレックスは全身を旋回させた。

 ギリギリのタイミングでの回避。


 まるで未来予知したかのような動きにアイナは息を飲む。



 クロの戦い方は異常だ。


 左右に持った黒く、禍々しく光る剣で斬り刻む。

 超攻撃的。


 防御は一切せず、時折、神懸ったタイミングでの回避――それも最低限のバックステップのみ。


 そして極めつけは、タイガーレックスを擦り抜けるかのような超絶カウンターのジャストスラッシュ。



 そしてタイガーレックスも奇妙だ。


 圧倒的なスピード、圧倒的な攻撃力。

 だが、妙に隙がある。


 クロにとんでもない攻撃を受けているのに、なぜかじっとしていたりするのだ。

 あまりに耐久力が高すぎて、効果が薄いのかと思いきや――


 突如、痛みの咆哮をあげるタイガーレックス。


「カカカ、前脚部位破壊完了っと」


 前脚に付いている翼が綺麗に弾け飛んだ。

 どれだけタイガーレックスが巨大であったとしても、クロの熾烈な攻撃は効いている。




(なんだ……このモンスター。

 めちゃくちゃ強いのは間違いない。

 だけど、なにかおかしいぞ?

 痛覚が鈍いのか? なんか……変だ。にゃにゃにゃにゃ?)


 その奇妙さの正体がなにかアイナにはわからない。

 PCゲームやテレビゲームを知らぬアイナがわかるはずがないのだ。


 アイナはタイガーレックスをモンスターだと思っている。

 アイナにとってモンスターは動物が変異したものである。


 だがタイガーレックスがどれだけ本物の生物に似せていたとしても、プログラムなのだ。

 数多くの行動パターンを持ってたとしても、結局はパターンの集合体。



 クロはこれまでに何百体のタイガーレックスを狩っている。

 失敗――つまり倒されてしまったことも多々ある。


 だが何度も何度も挑戦し、行動パターンを事前に学習し、最適な対応策を身体に染み込ませてきた。

 その結果が現在のクロなのだ。



****


 タイガーレックスを難なく葬った後。


「さ~て、ウォーミングアップは終わりだな」


 そう言ってクロは指を鳴らす。

 するとアイナの視界は暗転し、数秒後――


「え!? うぎゃ!? 熱いにゃ!?」


 死の大地から一転し、灼熱の世界へ。


「カッカッカ、次は灼熱の邪龍ラヴァガノスだ」


「お、おいおい! あいつ燃えてるにゃ!

 し、尻尾なんて燃え盛ってるにゃ!」


「ククク、まずはその尾――叩き斬ってくれる!!」


****


「寒いにゃあ!!」


「カカ、次は暴雹龍イルラエナ!」


「吹き飛ばされるにゃ~!」



****


「あ、普通の森林だにゃ。なんかホっと……ホっと……。

 にゃ、にゃにゃにゃんだあれえ!!?」


「フルルフルル。

 まあ、なんというかめっちゃキモい。

 ヌメヌメ感というかツルツル感がなんというかほぼ……×××」


「はい、フミちゃん最悪」


****



「にゃー-!?」


**


「にゃー-!?」


**


「にゃー-!?」


**


「にゃー-!?」


**


「にゃー-!?」



****


 様々な場所を飛び回り、様々なモンスターを狩りまくる。


 インベントが憧れたモンブレの世界を、マスコットとしてインベント以上に身近で体験しているアイナ。

 インベントからすれば悶絶モノの経験だ。


(想像以上だにゃ……これ。

 こんなのを毎日夢で見てたらインベントがおかしくなるのもわかる……。

 いやわかんねえにゃ。

 モンブレを夢で見たからって、現実世界で同じようにしたいって思うかにゃあ?

 やっぱインベントが変にゃだけだにゃ)


 もしもインベントと同じような境遇だったとしても、インベントのようにはならないだろうと想像するアイナ。

 だが――


(とは言え……こんな強烈な体験をず~っと見てきて、憧れてたんだろうにゃ。

 そりゃ~突然失っちゃえば、喪失感はハンパねえだろうにゃ)


 どうにかしてやらねばならない。

 どうにかモンブレの夢を復活させてやらなければならない。


 そんなことを色々と考えている時――


「あ、やらかした」


 クロが意味深な発言をした。


「え!? フミちゃん!?」


 後方から矢を放っていたシロが驚いて声をあげる。

 アイナにはなにが起こっているのかわからない。


 実は、ジャストラッシュがスカ――つまり外してしまったのだ。

 無防備になっているクロ。


 アイナにはわからない。

 またこれまで通り、超絶的な動きで回避すればいいと思っているからだ。


「ごめ~ん」


 クロの気の抜けた声。

 次の瞬間、モンスターの一撃をモロに喰らうクロ。


「うぇえ!? ぐにゃあああ~!」


 吹き飛ばされるクロに引っ張られ、アイナも吹き飛ぶ。

 岩壁に激突し停止した。


「い、痛いにゃ~。

 っておい、大丈夫かにゃ?」


 うつ伏せになっているクロ。

 一ミリも動かない。


「え? おい! へ、返事するにゃ!」


 揺すっても動かないクロ。


 まさか自分ではなく、クロが死んでしまうなど考えていなかった。

 クロが死ねばどうなるのだろうか?


「や、やばいにゃ。

 ど、どうしようにゃ!?

 お、おいシロ!? にゃ、にゃー-!?」


 シロに助けを求めようとしたその時――


「もー! フミちゃんのドジ~」


 モンスターの攻撃をモロに受け、クロ同様に吹き飛ぶシロ。


「お、お前もかよ~! にゃ~!」



 クロは巨大なモンスターをいとも簡単に狩っていた。

 当然アイナは驚いていたが、何体も続けば慣れるし理解もする。

 クロがモンスター以上に強いという結論に至る。


 途中からどれだけ巨大なモンスターが出現しようと、まあクロならどうにかするだろうと思うようになっていた。

 ――よもや、耐久力が紙で、一撃喰らえば致命傷なピーキー装備であることはつゆ知らず。



 独り残されたアイナ。

 ずんずんと近づいてくるモンスター。


 逃げようとするが不思議な力が働いて、クロから離れられない。



「お、おいおい……にゃ。

 ま、まじで死んじまう……にゃ。

 こ、こんな世界に来なければよかった……にゃ。

 なんで収納空間の中で死ななければならねえんだよ! ……にゃ!

 にゃ~にゃ~うるせえ! にゃ!」



 ゆっくり迫るモンスター。

 モンスターの一撃に叩き潰され――


 アイナは死んだ。

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