レクリエーション
収納空間に入る前。
アイナは収納空間の中にモンブレの世界が広がっているのではないかと思っていた。
だが、マスコットの身体になり、見た世界は想像とは違いこじんまりとした空間だった。
インベントが熱狂するモンブレの世界。
アイナとて見れるものなら見たいのが本音。
「ちょ、ちょっと! アイニャンを連れていくの!?」
「カカ、論より証拠ってな。ほれほれ~さっさと準備しろい」
「で、でも」
「いいんだよ、レクリエーションだ、レクリエーション。
シロが司会進行をちゃ~んこなしてくれねえんだもん。
だったらレクリエーションして親睦を深めようってな。
小学校でもやっただろ~?
ほら、アイニャーだってモンブレ見てみたいはずだぜ? な? な? な?」
グイグイくるクロに戸惑いつつも「そりゃあまあ」と返事する。
「てことだぜ、シロ。
ほれ~さっさと準備しろ~。
アイニャーの調整はもう終わってっから」
「え!?」
「私のオトモとして登録しあるわよん。
ほれ、さっさと起動しなさいな」
シロは「わかったわよ」とパソコンの前に座る。
パソコンを起動させ、キーボードを打ち、マウスを動かす。
アイナにとって『パソコン』は理解不能の代物
シロの一連の行動が、なにをしているのか全くわからない。
アイナは突然光ったり動いたりする画面を不思議そうに眺めていた。
「それじゃ、私がホストでいいの?」
「おっけおっけ~。
あ、アイニャーはこれを装着しておいて。特製アイマスクだ」
「またアイマスクか……にゃ」
「カカカ、アイマスクは趣味みたいなもんでしょ」
「だ~から趣味じゃないっての! にゃ!」
そう言いつつもアイナはアイマスクを装着する。
アイマスクをすれば当然見えない。
すると聞こえてくるシロとクロの会話。
「ねえ、どうやるつもりなの?」
「あん? 私の第三者視点をちょこっと加工すれば視界は確保できるだろ。多分。
別に戦わせるわけじゃないから追尾させとけば問題無いだろ」
「う~んでもそれだと、オブジェクトとかに引っかかったら……」
「あ~……体と視界がバラバラになっちまうな。
あれ? そうなったら……精神崩壊?」
物騒な発言にアイナは声をあげる。
いや――あげようとしても声が出ない。
(あ、あれ? 声が。
そ、それに身体もいつの間にか動かなくなってねえか?
ど、どうなってんだ!? うおーい!?)
ブチン――
突如、視界が開ける。
一面に広がる曇天。
続いて下方向にゆっくりと、視界が回転していく。
「な、なんだここは!?」
先ほどまでいた狭い空間からは想像もできない空間が広がっていた。
イング王国のような大森林でもなければ、オセラシアの荒野でもない。
灰色の岩肌の大地。突き刺さすような尖った岩が点在する。
この場所に比べればオセラシアでさえも、豊かで住みやすい地だと思えた。
アイナは、まさに死の大地だと思った。
(なんだ? どうやって運ばれてきたんだ?)
辺り一面同じような世界が広がっている。
果たしてどうやってここにたどり着いたのか?
元いた場所はどこへ行ってしまったのか?
(それにこの大地……なんだ? 岩肌なはずなのに……)
岩肌に立つアイナ――もといアイニャー。
地面の感覚を自らの足でペタペタと確かめるが、見た目に反し真っ平なのだ。
不自然なほどの大自然の中、不自然な感覚に戸惑う。
そして――
「な、な、なんだその恰好!?」
「ああん? ああ一応狩り用の装備だからな。
カカカ、カッコイイだろ?
シロは相変わらず、パルル装備一式か」
「うん、ハートが可愛いし。
フミちゃんは、相変わらず真っ黒だね」
シロもクロも先ほどまでのシンプルなドレスから一変し、仮装かと見紛うような衣装に変わっていた。
頭からつま先まで。
統一感のある装備だが、どれも製造工程を想像し難い。
装飾のレベルは異常に高いが、アイナは無駄にゴチャゴチャしている印象を受けた。
実用的な装備とは思えなかったのだ。
だから――
「なあ? いまからパーティーにでも行くのか?」
アイナの思ったままの発言に、キョトンとするふたり。
「おいおい、パーティーだってよ、シロ」
「う~ん、あ、ハロウィン的な?
でもアイニャンはハロウィンなんて知らないだろうし」
「カカ、銀座では夜な夜な酒池肉林のパーチーが繰り広げられているらしいからな。
ま、こんな格好で行くとは思わねえけどさ」
クロはアイナに近寄り、鼻をクリクリ押しながら――
「おいおい~アイナちゃんよお~、インベントから聞いてなかったのか~?
モンブレと言えば狩り。ハンティング。わかる~?」
「お、押すな押すな」
「ん? いつの間にか『ニャー語』が外れちまってんな。
ちょっと待ってろよ~」
急に真顔になり直立不動となるクロ。
「い、インベントからは色々聞いてるよ。
モンブレってのはなんかスゲエ怖いモンスターを狩りまくる世界だって。
でもこんな場所にモンスターなんていないだろ。
生き物が住んでるとは思えない場所だぜ?」
「ハッハッハ、っとな。なるほどなるほど。
本当にモンスターを狩ってる人の意見は参考になるねえ。
リアリティの追及も重要っちゃ重要か。
よ~し『ニャー語』設定完了っと。
ま、ボチボチいくとしますかね。シロ」
「オケー。
私は援護でいいの?」
いつの間にかシロの手には巨大な弓が。
(い、いつの間に!?
どこから出したんだ――――にゃ?)
「適当にアウトレンジからやってくれ。
カカカ、まあ肩慣らしだ。そいじゃ~行くぞ~アイニャー」
これまた、いつの間にかクロの手には双剣が。
「い、いくってどういうこと――――にゃああ!?」
ズン――
ゆっくりとした地響きと、粉塵。
岩陰から巨大なモンスターが現れる。
「クフフ、久しぶりだなあ~」
「確かにタイガーレックスなんて久しぶりかも。
パターンちゃんと覚えてるの? フミちゃん」
「カカカ、『闇枯れの淑女』に対し愚問だ。
目を瞑ってもジャスラを決められっぜ」
タイガーレックス。
トカゲのような四足歩行の生物だが、前足に小さな翼がついている。
タイガーと言うだけあり、虎を連想させる攻撃的な顔で、全身虎柄模様。
だが一番アイナが驚いたのは、そのスケールの大きさである。
「だだ、だ、だ、だだめだにゃー! 逃げるニャー!」
タイガーレックスは四足歩行にも関わらず、背丈は人間よりも遥かに大きい。
そして発達した足の筋肉は、巨躯であってもかなりのスピードを出せるであろうことは想像に難くなかった。
森林警備隊として日々モンスターと関わってきたアイナだが、明らかに次元の違うモンスターだと一目でわかった。
「カカカ、逃げんな逃げんな」
恐怖に抗えず、アイナは逃走を図る。
だが――
「にゃにゃんだこれ!? 進めにゃい!?」
「オトモがご主人放りだして逃げれるわけなかろうもん。
私の半径二メートル以内にしかアイニャーは存在できないのよ~」
「にゃにい!?」
「さて、さっさとやるか。
シロ~、ほれほれ一発ぶちかませ~」
「は~い」
いとも簡単に大弓を引き、矢を放つシロ。
矢が光を放ちながら、タイガーレックスの前足にヒットする。
「う、打っちゃったニャ!?」
当然、怒るタイガーレックス。
クロは両腕を交差させ笑う。
「さあて……一狩りいこうか」
『いいね』、ありがとうございます。




