自己紹介
ゲーム、モンスターブレーカーで大人気マスコットキャラクター。
それが猫科の獣人アルルー。
ある時は、救助隊としてフィールドで力尽きたプレイヤーを拠点まで運び――
またある時は、衛生管理の概念を無視し、プレイヤーに料理を振舞う。
時にはボッチ――もといソロプレーが大好きなプレイヤーのモンスター狩りを手伝う。
大人気過ぎて主人公としてスピンオフされちゃうぐらいのマスコットキャラクター。
そんなアルルーに、アイナは突然生まれ変わった。
アイナが驚くのは無理もない。
「う、うおい! これはなんだニャ!」
見上げるアイナ。
見下ろす黒のドレスを纏う少女。
まあ、マスコット化したアイナは身長110センチメートル程度しかないので、見降ろされるのは仕方がない。
(あ、アタシは元々小さいけど、ここまで見降ろされれるのはガキンチョの頃以来――だにゃ)
「……カッカッカ。
ま、心配しなさんな。
我が常闇の叡智、心写で仮初めの身体を授けたのだ」
もう一人の少女が「またバカみたいなこと言って」と茶々を入れる。
「シロは黙ってなさい!
ゴホン。ま、身体があったほうが話しやすいでしょ。
本体はあんな状態だし」
そう言って、簀巻きの状態のアイナを指差した。
アイナのすぐ近くにアイナが転がっている。
(こ、これ、やっぱりアタシだよにゃ。
自分を見るなんて、なにがなんだかわけがわからんにゃ……。
い、一生このワケのわからん身体だったらどうしよう……)
動揺が一周回り、少しだけ落ち着いたアイナは周囲を見回す。
(よく見たら……ここ、かなり狭いにゃ)
アイナとふたりの少女がいる空間は非常に狭い。
縦横高さ二メートルの立方体。
壁は淡く輝いている。
その狭い空間を更に狭くするように、ぬいぐるみや、可愛いクッションなどが置かれている。
更にアイナにはなんなのか皆目見当もつかない代物が鎮座しており、とにかく狭い。
アイナの本体は空間の隅に追いやられている状態だ。
「あ、あれ……アタシだよにゃ?
な、なんか人形みたいになっちまってるけど……」
アイナはその短すぎる手を伸ばす。
するとアイナの目の前に赤字で『ALERT!!』と表示された。
「う、うわ!? にゃんだにゃんだ!?」
「おっと。
そいつに触っちゃ怪我するぜ」
「え?」
「ま、怪我と言うか、最悪死ぬな」
「さ、サラっと怖いこと言うニャ!」
「ククク、まったく。
そもそも生き物をインベントリに入れるほうが悪いっての。
中と外じゃ保存形式が違うんだよ。規格が違うのに無理やり押し込みやがって。
あ、ベータとVHSみたいなもんだな! な、シロ?」
「言いたかっただけでしょそれ。
もう、アイナさんが困って――」
話の内容がチンプンカンプンで首を傾げるアイナ。
いや――首を傾げるアイニャー。
その可愛さに悶絶するシロ。
「ま、そこでクネクネしてるウチのリーダーがお話ししたいってことなんでね。
女子会でもしましょうかねえ~」
****
収納空間の中に生活空間がある。
そして奇妙な女の子がふたりもいる。
更にマスコットキャラに変身させられる。
驚きの連続。
アイナの驚きメーターはバカになってしまった。
「おお~」
狭い空間の中からモノが全て消えていく。
最後にアイナの本体まで消えてしまい多少動揺したものの「大丈夫です」と言われ――
(大丈夫ならいっかにゃ)
――と受け入れるアイナ。
皆目見当もつかない代物だけを残し、スッカラカンになった空間。
続いて、ちゃぶ台と座布団が現れた。
**
(さ~て、ど、ど~したもんかにゃ………)
ちゃぶ台を囲んで座る三――ふたりと一匹。
正座し緊張した面持ちで座るシロと呼ばれる少女。
対するフミと呼ばれる少女は、ドレスなのに胡坐で座っている。
そして「ほれ~話し進めろよ」とシロにプレッシャーをかける。
「と、とりあえず座って、自己紹介でもしよっか。
えと、アイナちゃ――――アイナさんに」
「アタシは呼び捨てでもチャン付けでも構わんにゃ」
「そ、そう? それじゃ~アイニャン」
フミは「カハハ、いきなりあだ名になっちゃったよ」とツッコミを入れた。
「まずは自己紹介しよっか。ね? フミちゃん。
え~っと、私は白岩 姫子です」
アイナは聞き馴染みの無い発音に少々戸惑う。
「あ、シロでいいから。
姫ちゃんとか言われることもあるけど、シロで大丈夫です」
「お~、おう。よろしくにゃん、シロ」
シロは顔を綻ばせながら頷き「や~ん、かわいいアイニャン」と悶えている。
続け「あ、この子は」と紹介しようとするシロを制止する。
右目を左手で隠しつつ、右手をパチンと鳴らす。
すると、漆黒の翼が背中に現れる。
「我こそは次元の支配者!
『漆黒幻影魔王』第一の眷属、『闇枯れの淑女』!」
ポカンとするアイナ。
「もう! ちゃんとしてよ!」と怒り出すシロ。
「ふむ、仕方ないな。
それでは仮の真名だが、八咫神 夜月さんと呼ぶがいい!」
「黒部 芙美でしょ!」
「うぉい! バラすな! プライバシィ!」
「ど~してご両親から貰った名前を愛せないのよ! バカ!
フミちゃんでいいでしょ! フミちゃんで!」
「嫌だ! フミはなんかババ臭い!」
「全国のフミちゃんに謝れ!!」
「嫌なもんは嫌なの! カッコいいのがいい!」
「黒部も芙美もどっちもかっこいいじゃん!!」
「嫌だ嫌だー! ――――」
急に揉めだすふたり。
アイナは呆然としている。
そして押し問答の結果、根負けした『闇枯れの淑女』。
「もうフミでもクロでもなんでもいい。
だけどクロに『ちゃん』だけは付けるなよ!」
「お、おう。
ま、こっちがシロで、そっちがクロ……フミね。
それじゃま、改めてよろしくお願いします……にゃ」
シロとクロは目を合わせ――
「よろしくね」
「よろ~」
とぺこりと挨拶した。
そして――再度沈黙。
クロはやはり喋る気がない。
完全にシロ任せのスタンス。
そのシロは緊張で顔を赤らめオドオドしている。
そしてアイナは――
(ど~も会話がスムーズに進まんにゃ。
さっさと本題に入りたいところだが……もうちょっと関係構築したほうがいいよにゃ~。
さてさてなにを話そうかな~と)
アイナの見立てではシロもクロも10代。
アイナお姉さんとして、会話を円滑に進めようとしているのである。
そして会話を円滑に進めるためには、やはり共通の話題がセオリーである。
三人の共通話題は少ない。
話題としてはインベントと――
「そういや~さ、ここがそのモンブレってとこなのかにゃ?」
顔を見合わせるシロとクロ。
「インベントが言うにはさ、なんかとんでもない世界で、おっそろしい化け物が跋扈する世界だってにゃ。
もしかしてこの外が恐ろしい世界が広がってたりすんのかにゃ?」
シロは「えっとね~それはね~」と説明しようとするが、クロがシロを遮った。
「モンブレね。
正確に言えばこの世界はモンブレではない。
しかしながら基点となる部屋。
言うなればここは回帰サンクチュアリ!」
「う、うにゃ? 結局どういう――」
クロは立ち上がる。
そして、ずっと部屋に鎮座されている皆目見当もつかない代物に手をかざす。
「モンブレにはこいつからログインするのよ。
この時空間電子演算装置! ま、パソコンでね~」
アイナはクロの発言を全く理解できない。
だが――
(なんか……嫌な予感しかしねえぞ……にゃ)
「クックック! ようこそ、NEWBIE!
狩りつくせ。
本能のままに!」
モンスターブレーカーははフィクションです。
実在の人物や団体やゲームなどとは関係ありません。
……ええ、関係ありませんにゃ。




