ハードプレイ
失ったモンブレの夢を取り戻す。
二年近く色々試したが、改善の兆しは全く得られなかった。
キッカケのキの字も掴めない状況。
まさに五里霧中。
そんな中、アイナにはモンブレの夢を取り戻す策があるという。
「確率は低い」と念押すアイナだが、インベントは期待せずにいられない。
アイナが、インベントさえも知らないなにかを知っていることは明白だった。
でなければ、モンブレの夢を見なくなったことを言い当てるなど出来るはずがない。
むしろそうであってくれと、神にも祈るような気持ちのインベント。
そしてアイナがインベントに言ったのは――
「アタシをもう一度、収納空間に入れろ」
――だった。
アイナの提案を聞いた時、インベントはそれはもう驚いた。
二度とやることは無いと思っていたからだ。
なにせアイナを収納空間に入れる行為は、瀕死のアイナを救うための大博打。
そして『収納空間に人を入れる』ことは、どうしても瀕死のアイナを連想してしまう。
特別な理由が無ければ、二度とやりたくないのが本音だ。
それに加え、アイナを収納空間に入れたとしても、なにか改善されるとはインベントには思えなかった。
確かにアイナを収納空間に入れたことが、モンブレの夢を見れなくなった原因かもしれない。
それはインベントにも理解できる。
だからと言って、同じことをもう一度やれば元に戻る道理は無い。
数式のようにマイナスを二度掛けたらプラスに転じるわけでもあるまいし。
そして理由を聞いても「説明が難しいんだよなあ」とアイナは明確に答えなかった。
諸々気になる点はあるのだが、インベントは聞かないことにした。
(アイナに策があるならそれでいい。
俺は、俺のできることに集中しよう)
八方塞りのインベントにとって、過程などどうでもいいのだ。
モンブレが戻ってくるならば、可能性が少しでもあるのなら最善を尽くすのみ。
だからこそ、是が非でもアイナを収納空間に入れると決意している。
****
駐屯地から少し離れた森の中――
収納空間に人を入れるという、傍から見れば意味不明の行為。
事前に誰にも見つからない場所で実行しようという話しになった。
だがインベントの部屋はキャナルとペイジアが定期的に監視に来る。
仕方なくアイナの部屋にしたものの、静かにするのが難しく、あげく隣人には男を連れ込んだと勘違いされてしまった。
連れ込んでいるのは事実なのだけれど。
「ま、この辺りでいいかね」
インベントは周囲を見渡し「そうだね」と呟いた。
「気が進まねえけど……やるかあ~」
インベントは準備万端である。
いつの間にか二つのゲートを重ね、ゲートを拡張して待っていた。
「……やる気満々だな、かったりい」
「えへへ。
でもでも、ねえねえ、やっぱり全部入らないとダメなの?」
「あん?」
「全身を入れるとなると、かなりの反発力が発生するよ?
瀕死だったアイナの時はなんとか押し込んだけど……、生きてるアイナだとどれぐらい反発力が発生するか想像もつかない」
「ま、そうだろうな~、弾き出したくなるだろうな。
でも、多分、全身入れないとダメだ。
それでやっと……スタートラインってとこかな~。
弾かれる前に……アタシが我慢できるかが問題だけどな~」
**
「ヴォエエエ!」
アイナを収納空間に入れるのは難航した。
収納空間に入る気持ち悪さをなかなか克服できずにいた。
何度トライしても絶望的な違和感は解消されない。
アイナは心が折れ、半ば諦めかけていた。
だが――
「大丈夫? ねえ? アイナ?」
心配げにアイナを見つめるインベント。
アイナを気遣う優しい心をインベントは持っている。
持っているのだが……すでにインベントの両手には拡張したゲートがスタンバイされている。
アイナはよ~く知っている。
インベントは興味のあることにおいて、諦めという選択肢はない。
何度でも何度でも、成功するまでやり続ける男なのだ。
多少の犠牲や痛みが伴ったとしても構わない。
道が続くのならばやり続ける。
(し、心配してくれるのは嘘じゃねえんだろうけど。
でも……中止って選択肢は無いのねん)
アイナはちょっぴり後悔している。
とは言え、そもそも提案したのはアイナなのだ。
不満や嘆くことはあっても、なかなか中止は言いにくい。
それに――
(アタシが逃げちゃえば、多分モンブレは二度と戻らんかもしれんのよねえ。
……トホホ)
生半可な覚悟ではインベントの熱意からは逃げられない。
逃げ場が無くなったアイナ。
結果、試行錯誤を――出たり入ったりを繰り返す。
そしてインベントのふとした一言が事態を大きく動かした。
「もう一度仮死状態にできればいいのにね」
「ああん? なんだ、また死にかけろってか?」
「そうじゃないけどさ」
「ったくう、無茶言うなよ。
大体仮死状態なんてなりたくてなれるもんじゃねえだろ。
……むむむ」
アイナは首を捻る。
「そうか……仮死じゃなくても、気持ち悪さを感じないようにしておけばいいのか」
「そんなことできるの?」
「例えば……泥酔でもしておくとか。元から気持ち悪い状態」
「……なんか収納空間にゲロ吐きそうだね。ちょっと嫌かも」
「ま、まあ気持ち悪さを誤魔化せればなんでもいいんだよ。
他には……そうだな、そもそも意識がなければ気持ち悪さも感じない。
よ~し閃いたぜ!」
翌日、徹夜したアイナは眠そうな顔で森の中へ。
インベントはブランケットを敷き、枕を用意した。
そしてすぐに眠りについたアイナを――――そ~っと収納空間に入れたのだ。
「お、おお~入る! 入るよ!!」
アイナの上半身がすっぽり収納空間に入った。
入ったのだが――
凄まじい反発力が、アイナを収納空間から追い出した。
枕とブランケットを吹き飛ばしながら、盛大に転がるアイナ。
「ぐぎゃあああ! い、痛い! 痛い!」
最悪の起こされ方で、頭を抱えるアイナ。
一方インベントは一歩前進したことに高揚し、嬉しそうだ。
ピコーン。
アイナは『野外プレイもOKな女』の称号を得た。
****
違和感や恐怖心を徐々に克服するアイナ。
しかしながら、収納空間は生物の侵入を非常に嫌う性質がある。
だが肉、骨、爪、血液のような生物を構成する物質であっても、単体であれば問題無く収納できる。
それ以外の情報としては、瀕死状態だったアイナの場合、反発があったもののなんとか収納することができた。
これらの情報から、どうやってアイナを収納空間に入れるかを考える二人。
そしてある仮説を立てた。
収納空間は、生物――つまり生きているかどうかで収納可能かどうか判定している。
だとすれば、生物らしさを消せば生物でも侵入することができるのではないか? ――と。
**
「両手縛っちゃおうか。動けなくしちゃえば良さそうじゃない?」
「い、いいけど、吹っ飛んだ時に受け身も何もできなく――」
インベントは収納空間から大量の毛布を取り出す。
「お、おう、クッション替わりってことか。
用意がいいことで」
「収納空間が倍に増えたからね~。
ふわふわの大きなクッションを作るね」
「お、おう」
ピコーン。
アイナは『縛られて感じる女』の称号を得た。
**
「足も縛っちゃおうか」
「うぇ? あ~。
お、おう」
ピコーン。
アイナは『拘束大好き』の称号を得た。
**
「瞬きしないように、アイマスクもつけよっか」
「あ、うん」
ピコーン。
アイナは『目隠しプレイもOK』の称号を得た。
**
「口も動かない方がいいね。
おしゃぶりでも咥える?」
「い、いや、それはちょ――」
ピコーン。
アイナは『赤ちゃんプレイもOK』の称号を得た。
**
ピコーン。
ピコーン。
ピコーン。
ピコーン。
ピコーン。
ピコーン。
ピコココココココココーン。
アイナは『侵入者』の称号を得た。
ぴこーん